【91話】星屑の決意 1
「て、て、てやー!」
酔ったタヌキの盆踊りのような足取りで、浅井慎吾は甲冑に斬りかかった。
それを甲冑はさらりと回避。
そのまま慎吾の右手首を捻りあげた。
「いててて」
痛みで右手の影輪剣を落とした。
影輪剣は錬影術でつくった円状の剣。
柄は刃の内側にあり、見た目は記号のΦそのものである。
慎吾は左手の影輪剣で反撃を試みたが、それより早く甲冑の足払いが炸裂。
「うわっ」
たおれた拍子に、左手の影輪剣もポロリ。
そのまま腕ひしぎ十字固めを極められた。
「あ~、こりゃダメだ」
手先妖怪の万福が首を横に振る。
「ギブ、ギブ! ギブアップ!」
慎吾が悲鳴をあげたところで模擬戦は終了。
十字固めを解くと、甲冑は勝ち誇ったように両腕を振りあげた。
1月7日。午後5時のことである。
* * * * *
なぜ、努力嫌いでサボり魔の浅井慎吾が動く甲冑と模擬戦をしているのか?
それを説明するには時間を5日前まで巻きもどす必要がある。
5日前――1月2日の夜のことである。
(魔廻りとして、ちょっとぐらい力をつけたほうがいいのかもしれない)
そんなことを考えて目を閉じたからだろう。
眠りに落ちると、慎吾は夢を見た。
自分が御手洗極導と花子を救う夢である。
夢のなかで極導たちは無数の足軽骸骨と戦っていた。
「たあぁっ」
「どすこーい」
刀とつっぱりで、つぎつぎと骸骨をたおしていくふたり。
だが、一向に敵の数は減らない。
「このままじゃ埒があかない」
極導が顔をしかめたとき、
「若さま、助太刀しますぜ」
万福を連れて、慎吾が颯爽と登場。
「おれらが来たからには、もうだいじょうぶです」
「ここはあっしらにまかせてください」
ふたりは勇猛果敢に敵陣に突っこむと、
「とりゃあー」
「ふんぬぅー」
万夫不当の気概をもって、天下無双の大かつやく。
慎吾は影輪剣で、万福は黄金色の小槌で、あっというまに骸骨を全滅させた。
「慎吾さん、万福さん、ありがとうございます」
「ふたりとも、すごくカッコよかったよ☆」
極導と花子が駆け寄ってきた。
「おふたりこそ、追株町の守護神です」
「まさに魔廻りと怪異の日下開山!」
未来の親分とその手組(しかもギャル!)の言葉である。うれしくないはずがない。
「いや~、それほどでも」
「ありますけどね~」
ふたりして悦に浸っていると、
「慎吾、あんた正月だからって、いつまで寝てるの」
ビタンと頭部にハゲしい衝撃。
後退した生え際を母親にたたかれ、目を覚ました。
* * * * *
つぎの日の夜。
巡回の最中に慎吾は夢のことを万福に話した。
「おれもおまえも戦いは苦手だが、この仕事をつづける以上、やっぱり少しぐらい力をつけといたほうがいいと思うんだ」
「…………」
「なんだよ?」
「いやね、旦那も成長したなと思って」
サボり魔で有名な慎吾だが、ここ最近は少しずつ仕事に向きあうようになっているのだ。
「じつはあっしも、ちょっとぐらい稽古をしたほうがいいかなって思ってたとこなんですよ」
「へえ。おまえもか」
「ええ。もちろん戦わずにすめば、それが一番いいんですけどね」
そう言うと、万福は平和の祈りでもするように大きなおなかに手を当てた。
(つづく)
【あとがき】
更新は毎日おこなう予定です。
ちなみに初夢には、
○大晦日の夜から元日の朝にかけて見る夢。
○元日の夜から2日の朝にかけて見る夢。
○2日の夜から3日の朝にかけて見る夢。
の3つの説がありますが、現代では「元日の夜から2日の朝にかけて見る夢」が一般的な初夢の定義だそうです。
ほかにも「年が明けて、最初に眠ったときに見る夢=初夢」とする考え方もあるそうです。




