【90話】追想の元日 2
『タレント格付けクイズ』を観終えると、極導は屋敷の3階にあがった。
3階には亡き父・明日導の書斎がある。
「父さん、入るよ」
いるはずのない部屋主にひと声かけ、極導は書斎に入った。
きょう、書斎に入るのは、これが二度目。
新年のあいさつをするために、午前中に一度訪れていたのだ。
* * * * *
露台へ行くと、そこから夜景をながめた。
御手洗の屋敷は金筋丘の上にあるので、3階から追株町を見おろすことができるのだ。
「平和な日だったな」
そして一日の出来事を振り返りはじめた。
「きょうが、ずっとつづいたらいいのに」
冬の闇に想いをこぼしたとき、
「そう思うぐらい、いい日だったもんね」
振り向くと、露台の入口に花子が立っていた。
花子は極導のとなりに来ると、
「この半年、いろんなことがあったよね」
極導と同じように手すりにもたれた。
ふたりが出会ったのは去年の6月12日。
極導の手組になる怪異を呼びだすために、寿学が召霊陣で花子を召喚したのだ。
「召喚してすぐなのに、ミッチー、怖い顔して『いますぐ帰れ!』って怒鳴ったよね」
「それは――」
「でも、つぎの日には霊盃をかわしてくれた」
「ああ」
「ありがと」
「礼を言うのはこっちだよ。おまえには何度も助けてもらってるし、手組団子だって、おまえがいたから思いつけたんだ」
手組団子は極導が考案したネオ和菓子で、串を使わず素材の粘り気を利用して、手をつなぐようにふたつの団子をくっつけた商品である。
「いろんなことがあった分、いろんな人にも会ったよね」
「ああ」
〈きょらく〉の父娘、蝦蟇七、煌白、ミユキにミサキ。
それと南魔地奉行のくらりとも去年はじめて顔を合わせたし、冬輝と煌白の距離を縮めるために人体模型のケイと太眉人面チワワのケンにも手を貸してもらった。
だが、すべての出会いが良好だったわけじゃない。
出会った者のなかには、流兵衛や涼雅のように命を懸けて戦った下手人もいる。
ときに極導は思う。
もし、ちがう時代で彼らと出会えていたら――。
いまとは異なる立場で出会い、その心に寄り添うことができたのなら――。
おたがいに手を取りあえたのではないか、と。
* * * * *
「考えてみれば、きょうがずっとつづいたら、これから出会うやつとも会えないんだよな」
町の灯りから花子に視線を移した。
「それって、なんかさみしいよな」
「だね」
「全部が全部、いい出会いじゃないのはわかってる。それでも、おれは人や怪異との出会いを大切にしたい」
「カッコいいぞ、相棒」
「それに元日がループしたら、初詣が初詣じゃなくなるしな」
「初場所だって、はじまらないしね☆」
花子がつっぱりのマネをした。
「ミッチーだって、いつか幕内でかつやくする花丸を見たいでしょ?」
「もちろん」
ふたりの推している花丸は東十両八枚目の力士。
成績次第では今年中に幕内昇進する可能性も十分あるのだ。
「なあ、花子」
「なに?」
「うん。改めてってかたちにはなるんだけど、その――」
短く息を吸うと、極導は花子のほうへ向き直った。
「今年も、いや、これからもよろしくな」
「わたしのほうこそ、いろいろと迷惑かけちゃうかもだけど、これからもよろしくね」
花子の笑顔は、霊盃をかわしたあの日と同じで、どの星よりも輝いて見えた。
(追想の元日・完)
【あとがき】
これからもゴクハナの新作エピソードは投稿していく予定です。
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