【87話】寿司と魔廻りと 3
(返答しだいでは大変なことになるかもしれない)
そんな不安から冬輝はハンバーグ寿司への想いを口に出すことができなかった。
(きっと兄さんはハンバーグ寿司が許せないんだ。本当は食べたいけど、ここは存在を否定しておこう)
ときに自分の本心を隠し、相手に合わせるのが大人である。
冬輝ももう13歳。
ここは嘘をついて、大人への1歩を踏みだそうではないか。
「ハンバーグ寿司なんて――」
「おれ、これがむちゃくちゃ食いたかったんだ」
「えっ?」
「だってハンバーグだぞ。寿司とハンバーグの組み合わせなんて、ぜったいうまいに決まってるじゃないか」
深刻な表情が一変。
綺羅星のように目を輝かせて、極導が言った。
「広志がこの寿司のことを教えてくれたんだけど、そのときから、ずっと食いたいと思ってたんだ。でも、あいつ、あんなのはお子さま向けのメニューで、高校生にもなって頼むもんじゃないとか言うんだよ」
「そんなのおかしいです。ハンバーグとお寿司なんてBI砲ぐらい最強のタッグじゃないですか。ぼく、こどもが好きなメニューとこども向けメニューはちがうと思います」
「おまえなら、そう言ってくれると信じていた」
そう告げる極導の顔からは、うれしさが滲みでていた。
「食べ物の好みに大人もこどもも関係ありません。むしろ他人の目なんか気にしないで、好きなものを好きだって言えるのが大人だと思います」
先ほどの自分に目を背けて言った。
都合の悪いことから目を逸らすのも大人に必要なスキルである――そう心に言い聞かせて。
「兄さん、ぼくもハンバーグ寿司が食べたいです」
「なら、二皿たのむか?」
「はい」
それから1分後。
ふたりのもとにハンバーグ寿司が流れてきた。
「うおっ! こっちのレーンで来るのか」
「けっこうスピード出てたけど、だいじょうぶでしょうか?」
タッチパネルで注文したメニューは専用の高速レーンで運ばれるのだ。
「どこも崩れてないから、だいじょうぶだろ」
「よかった」
「それじゃあ食べるぞ」
「はい」
そしてふたりで、
「「いただきます」」
念願のハンバーグ寿司を口に入れた。
* * * * *
ハンバーグはかなりのボリュームがあったが、シャリを少なめにしておいたので、極導も冬輝も一口で食べることができた。
「うまいな」
「はい。おいしいです」
極導は目をつむって、今度はハンバーグだけを口に入れた。
「やっぱり、うまい」
つづいてシャリだけを味わう。
「どっちもうまい。けど単にうまいだけじゃない。おたがいがおたがいのうまさを引き立てる役割をしている」
そして天井を仰いで、
「ハンバーグ寿司……おまえに会えてよかった」
まわるレーンに皿を置いた。
「あ、兄さん。お皿はテーブルの回収ポケットに入れるみたいですよ」
「うそ、マジで!?」
レーンに置いた皿は、すでにうしろの席との境目あたりを流れている。
いそいで極導は皿を取り、テーブルにもどした。
「っぶねぇー……」
「やっぱり下調べに来てよかったですね」
「ああ。忘年会でやったら、大恥かくとこだったよ」
苦笑いを浮かべて、極導は回収ポケットにハンバーグ寿司とサーモン寿司の皿を投入した。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
お寿司の起源は東南アジアの山岳民族の保存食だったと言われています。
また日本では奈良時代に魚と塩を米飯に漬けこむ「なれずし(熟れ寿司)」が誕生しましたが、これは魚を長期保存するための食品で、最初は漬けこんだ魚だけを食べ、発酵した米飯は食べなかったそうです。




