【85話】寿司と魔廻りと 1
年の瀬も迫った12月26日のことである。
午後2時30分。
金吾町にある〈うら寿司〉にふたり組の客がやってきた。
ひとりは鋭い切れ長の目をした16歳ぐらいのマイルドヤクザ系イケメン。
もうひとりは中性的な顔をした13歳ぐらいの美少年。
そう。御手洗極導と凍連冬輝である。
店に入ると、ふたりは草加せんべいみたいに硬い表情で自動案内機の画面を見つめた。
「いいか、冬輝。おれの仕入れた情報によると、まずはこの自動案内機で案内票をもらうそうだ」
「なるほど」
「つぎに案内票をもらったら、それに書かれてある番号の席に行って、あとは付属のタッチパネルで食べたい寿司を注文する」
「それもなるほど」
「最初に人数を入力する。人数は2名で席は――あっ!」
「どうしました?」
「座る席、テーブルかカウンターか選ばなくちゃいけないみたいだけど、どうする?」
「ええと、じゃあカウンターで」
「よし、2名でカウンター席に――」
不意に極導が指をとめた。
「冬輝、やっぱりテーブル席にしよう」
「え? でも、ふつう、お寿司って――」
「そのふつうが本当にふつうか一度うたがってみるんだ」
「どういうことですか?」
「いいか。おれもおまえも寿司はこれまでたくさん食べてきたはずだ」
「はい」
「屋敷で食べたこともあるけど、ほとんどは外に出て、店で食べたはずだ」
「はい」
「そこは落ち着いた雰囲気の店で、一流の職人がカウンター越しに目の前で寿司を握ってくれる。そうだろ?」
「まさしく、そうです」
「それが本当にふつうなのか、いま一度考えてみるんだ。こういう言い方はしたくないけど、おれもおまえもカネアリの家に生まれた身だろ? そういうやつのふつうが世間一般のふつうとズレてることは、よくあることなんだ」
「あ、たしかに」
冬輝がパンと手をたたいた。
「それに見てみろ。家族連れとか、ともだちグループみたいな客は、みんなテーブル席についてるだろ」
極導は手で口を隠し、冬輝の耳元でささやいた。
「しかも、みんなたのしそうだ」
親子で寿司を食べたり、山盛りポテトをつまんだりする光景は、たしかに見ているだけで心が柔らかくなる。
「忘年会を〈うら寿司〉でするのは、みんなでワイワイたのしむためだ。カウンターで横一列に並ぶより、ああやってテーブルで向かい合って座るほうが、みんなの顔が見えて、たのしいんじゃないか?」
「わかりました。そういうことならテーブル席にしましょう」
冬輝の返事を聞いた極導は、
「よし。2名でテーブル席っと」
自信を持って、画面の【テーブル席】をタッチするのだった。
(つづく)
更新は毎日19時におこなう予定です。
日本最初の回転寿司店は1958年に大阪にオープンした「廻る元禄寿司1号店」だそうです。




