【84話】血の呪縛 7
女は待っていた。
(あの人はかならず帰ってくる)
それを信じて、女は男の帰りを待っていた。
女がいるのは、とある公園のイベント広場。
ここで男と落ち合ったのち、異国へ旅立つのである。
(帰ってきたら、今度はわたしから求めてみよう)
昨晩、女は男と愛し合った。
普段は口数の少ない男が、
「好きだ。愛している」
その言葉を何度もささやき、荒波のように激しく求めてくれた。
(あの人はかならず帰ってくる。わたしの元へ帰ってきてくれる)
灰色の空からは雪が舞い落ちていた。
* * * * *
その女もまた男を待っていた。
雪のなか、女は傘を差し、屋敷の門前に立っていた。
(あの人はかならず帰ってくる)
女は男の帰還を信じていた。
でも本当は不安だった。怖かった。
それでも、とめることはできなかった。
男の覚悟を汚してはいけなかった。
(帰ってくる。ぜったいに帰ってくる)
不安を押しとどめようと心に何度もそう言いきかせた。
* * * * *
女は待っていた。
まだ男は来ない。
それでも女は待ちつづけた。
(あの人は帰ってくる。わたしの元に帰ってきてくれる)
二人分のホット緑茶は、すでにつめたくなっていた。
* * * * *
女は待っていた。
屋敷に住むつるべ火がからだを温める妖術をかけてくれたので、凍えることはないが、降りしきる雪はすでに町を銀世界に変えていた。
ふと遠くで、何かが光ったような気がした。
白い闇に目を凝らす。
光の正体は自転車のライトだった。
だれかが自転車を押しながら、こちらに向かってくる。
それは女の待っている男だった。
男は門前に来ると、女を見つめた。
女も男を見つめ返した。
「ただいま」
「おかえり」
「腹、減ってんだ。ちゃんこ鍋つくってくれるか?」
「……うん!」
雪は一晩中降りつづきそうだった。
(血の呪縛・完)
ゴクハナの新作エピソードはこれからも投稿していく予定です。
8月1日から『カクヨム』様でもゴクハナの連載をはじめました。(1~27話までは毎日21時に更新予定です)




