【81話】血の呪縛 4
午後11時。
極導は屋敷の離れにある道場でイメージトレーニングをしていた。
果し合いに向け、頭のなかで涼雅と戦っているのだ。
(いくら寿学でも、生き死ににかかわる未来は予知できない。種族も能力もわからない相手と戦うには、あらゆる対処法を考えておくしかないんだ)
すでに涼雅とは2000回以上も脳内で戦っているが、極導が勝ったのはたったの7回だけだった。
敗北の回数が1900回に達したとき、極導はまぶたを開いた。
冬なのに、からだじゅうから汗が噴きでてくる。
こめかみもさけぶように脈を打っていた。
「お疲れ、ミッチー」
振りかえると、いつのまにかタオルとスポーツドリンクを持った花子が壁に寄りかかっていた。
「はい、これ」
「おお。ありがとな」
頭のなかで死にすぎたせいか、スポーツドリンクでのどを潤すと本当に生き返った気がした。
「総導さんが言ってたよ。戦いに備えるのも大事だけど、しっかり休むことも大事だって」
果し合いのことは、すでに屋敷のみんなにつたえてある。
魔廻りや手代妖怪のなかには反対する者もいた。
だが総導は反対するどころか、
「売られた喧嘩を買ってこそ御手洗の男。極導、よくぞ受けた」
涼雅と戦うことを許可してくれたのだ。
そして、それが極導はうれしかった。
総導が自分の覚悟を受け入れてくれたからである。
「寿学さんもましろさんも、ヒソミって一族のことは知らないって」
「まあ、仮の名前だからな」
「ところで、ミッチー。28日って予定あいてる?」
「28? とくになんもないと思うけど……」
「じゃあさ、忘年会しようよ」
「忘年会?」
「そ。ユッキー、くっち、あとミユぴょんとミサぴょんも呼んで、みんなで雪月花隊の忘年会をしようよ」
「お、そのメンバーなら、そんなに気を遣うこともないし、たのしめそうだな」
「じゃあ、けってーい。ちなみに行きたいお店とかある?」
「そうだな。たしか〈きょらく〉は27日が仕事おさめって言ってたし……」
極導はしばらく宙を見つめたあと、
「〈うら寿司〉なんて、どうだ?」
回転寿司店の名を挙げた。
「落ち着いた店もいいけど、みんなでワイワイやりながら、まわる寿司を食うのも悪くないだろ」
「わかった。じゃあ、みんなにMINEでつたえておくね」
「ああ。頼んだぜ」
「意外とミユぴょんが寿司奉行だったりして」
「食べるネタの順番にうるさいってやつか? はは、ありえるかも」
「で、ミサぴょんがそれを注意する。『ミユ、そんなに怒ったら、極導さんがかわいそうなのです』」
「怒られてんの、おれかよ」
「理由は最初に大トロを食べたから」
「回転寿司なんだから、最初になに食ったっていいじゃねえか」
「それを聞いたユッキーとくっちがウンウンとうなずく」
「そんなふたりの前には、ふわふわかき氷が」
「それ最高!」
「こんな感じで、みんなでたのしく過ごせたら、いい思い出になるだろうな」
「うん。だから、ミッチー、ぜったいに――」
とつじょ花子が言葉を切った。
「ううん、なんでもない。じゃあ、わたし、部屋にもどるね」
踵を返して、そのまま道場をあとにした。
* * * * *
ぜったいに帰ってきてね。
花子がそう言おうとしていたのは、極導もわかっていた。
屋敷のみんなが自分の勝利を願ってくれている。
それは花子だって同じはず。
勝利を願い、帰還を信じているから、極導が参加する前提で忘年会の話をしてくれたのだ。
しかし心の片隅には不安もあったのだろう。
その不安を口にしそうになったことに気づき、花子は言葉を切ったのだ。
「帰ってくるさ、この家に」
そうつぶやいて、極導はイメージトレーニングを再開した。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
きょうは、このあと20時に『血の呪縛 5』を投稿します。




