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【71話】落日の死闘 2

 

 トン、トン、トンカラ……トン。


 生首自転車をとめて、3人の包帯男がこちらに歩いてくる。


 日本刀、かまなた


 それぞれが手にした武器を振りあげながら――。



 *  *  *  *  *



 そのときだった。


 いきなり、カラト公園の入口付近にあるカーブミラーが割れ、破片のひとつがかまを持った包帯男の胸に突き刺さった。


 悲鳴をあげる包帯男。


 そのからだは破片が刺さったところから燃えあがり、すぐに灰のかたまりになった。


「見つけたわよ、トンカラトン」


 振りかえると、いつのまにかはるのそばに10歳ぐらいのお姉さんが立っていた。


 お姉さんの服装は白いワイシャツに赤い吊りスカート。


 髪型は、昔ながらのおかっぱである。


「……はなか」


 日本刀を持った包帯男が、お姉さんをにらみつけた。


「邪魔をするな」


「いいえ、させてもらうわ」


 花子と呼ばれたお姉さんも負けじとにらみ返す。


「もうすぐ21世紀なのよ。あなたたち、いつまで、こんなバカげたことをつづける気なの?」


「黙れ!」


 ふたりの包帯男が武器を構える。


「すぐにおわるから、空で待ってて」


 お姉さんが春斗に言った。


 すると、


(えっ?)


 春斗のからだは風船みたいにフワフワと浮きあがり、地上から10メートルぐらいの高さでとまった。



 *  *  *  *  *



 最初に襲ってきたのは、なたを持った包帯男だった。


 振りおろされる、よごれたやいば


 それをお姉さんはさらりと回避。


 そのまま高く跳びあがり、


「やぁっ!」


 突き刺すような鋭い蹴りを相手のこめかみに放った。


 頭を蹴られ、その場にたおれる包帯男。


 その直後にからだが炎に包まれ、かまの包帯男と同じように灰になった。


 それを空から見ていたはるは、


「すごい……」


 だが、これでおわりじゃない。


 包帯男はもうひとりいる。


 お姉さんをはなと呼んだ、日本刀のやつだ。


 包帯男は刀を正眼に構えると、


「たあぁっ!」


 深く踏みこみながら、お姉さんに斬りかかった。


 そのいきおいは、まさに烈風。


 だが、それ以上の速さで、お姉さんの手刀しゅとうが相手の手首を打つ。


「うっ」


 手首の骨を砕かれ、包帯男が刀を落とした。


「これでおわりよ」


 お姉さんは包帯男の背中に飛びつくと、相手の首に両腕をまわした。


「得意の首絞めだけど……あの子には見せられないわね」


 そうつぶやくと――空中の春斗には聞こえなかったが――とつぜん、桃色の光があたりを覆った。



 *  *  *  *  *



 光が消えたとき、包帯男はすでに灰と化し、お姉さんは服についたよごれを払っていた。


「もう、だいじょうぶよ」


 お姉さんが手を振ると、はるのからだはゆっくりと降下。


 彼女のすぐそばに着地した。


「ひとりでよくがんばったわね。えらいわ」


 お姉さんが、春斗の頭をでてくれた。


「あいつらはトンカラトン。人間を夕暮れの世界に閉じこめて襲う、恐ろしい怪異よ」


「カイイ?」


「妖怪や幽霊のことよ。この世には見えるものだけじゃなく、見えないものもたくさんいるの」

 

 お姉さんが空を見あげた。


 の落ちかけた夕空には、信じられないほど大きなヒビがいくつも入っている。


「空がひび割れてる……」


「やつらが消滅したことで、この世界が壊れはじめてるのね。でも、だいじょうぶ。わたしといれば、元の世界にもどれるわ」


「ほんと?」


「ええ。だから、このまま、あなたの家までいっしょに帰りましょう」


 お姉さんが春斗の手を握った。


 すべっこくて、ひやっとしていて、どこか軽くて、何かが足りない。


 うまく言葉にできないけど、なんだか、べつの世界のモノに触れているようだった。


「あの」


「なに?」


「お姉さんもカイイなんですか?」


 恐る恐るたずねる春斗に、お姉さんは、


「ええ、そうよ。わたしはトイレの花子さん。あなたたち人間の味方よ」


 夕日を浴びた顔で、やさしくほほえんでくれた。



 *  *  *  *  *



 それからはるはお姉さんと手をつないで、家へ帰った。


 けど、そのときのことを春斗はあまりおぼえていない。


 たくさん話をしたような――してないような。


 いっしょに歌を歌ったような――歌ってないような。


 とにかく家に帰るまでの記憶が、ほとんどないのだ。


 けど、胸のドキドキだけは、はっきりおぼえている。


 あいかわらず脚は重いし、ちょっと息もしづらい。


 けど、それはお姉さんが怖いからじゃない。


 むしろ、お姉さんにはそばにいてもらいたい。


 そして、このまま、ずっと手をつないでいたい。

 

 たしかな記憶のなかで、くすぐったい高揚感だけが、おさなごころに刻まれているのだ。




 気づいたとき、春斗はひとりで家の前に立っていた。


 いつのまにか、足元にはトンカラトンから逃げるときに捨てたランドセルが置かれている。


「夢なんかじゃない」


 この世のモノとは思えない不思議な感触。


 それがのこる手のひらを見つめて、春斗は静かにつぶやいた。



(つづく)


投稿は毎日おこなう予定です。


90年代に幼少期を過ごした犬山にとって「花子さん」という存在は恐怖の対象であると同時に、こどもの味方でもあります。


なので本作でも、トイレの花子さんには人間を守る存在として登場してもらいました。


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