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【70話】落日の死闘 1


 願った。祈った。


 そして、さけんだ。


「だれか、助けて!」


 夕暮れの町に、はるの悲鳴が溶けていく。


 毎日、見る景色。


 毎日、通る通学路。


 なのに、毎日そこで会う人がひとりもいない。


 いま、この町にいるのは春斗と()()()()だけなのだ。




 トン、トン、トンカラ……トン。




 背中にあいつらの声が張りつく。


 けど怖くて、うしろは向けない。


 春斗は逃げながら、カーブミラーで、そのすがたを確認した。


 全身に包帯を巻いた3人の男が、タイヤの代わりに生首のついた自転車をぎながら、せまっている。


「トン」


「トン」


「トンカラ……トン」


 3人が持っているのはかまなた、日本刀。


 それらを振りあげたり、ときにはへいにこすりつけながら、ゆっくりと春斗に近づいてくるのだ。


(このままじゃ殺される)


 春斗は、せまい路地に逃げこんだ。


 けど、そこは袋小路。


 三方を高いへいに囲まれているので、逃げ場はない。


 しかし、へいのそばにはゴミバケツがある。

 

 それを足場にすれば、8歳の春斗でもへりに手が届き、よじのぼってへいの向こう側に逃げることができる。


 だが、これまでの「失敗」が、わずかに胸にのこった希望をがそうとした。


 それでも春斗は、


(あきらめちゃダメだ。逃げるんだ)


 心を奮い立たせて、へいをよじのぼり、民家の庭に飛び降りた。


 地面に足が着く、その瞬間――。


 また春斗は、カラト公園の入口にもどっていた。



 *  *  *  *  *



「そんな……」


 その場にひざをつくと、道路に自分の長い影がのびた。


 カラト公園にもどってきたのは、これで9回目。


 いったい、どれほどの時間、包帯男から逃げまわっただろう。


 そのあいだ、助けを求めて、交番にもコンビニにも駆けこんだ。


 けど、そのたびに不思議な力によって、はるはここに――最初に「トンカラ……トン」という声を聞いた、この公園にもどされてしまうのだ。


「逃げなくちゃ。逃げなくちゃ」


 声に出して、自身の心に言い聞かせた。


「逃げなくちゃ……逃げ……うぅっ」


 声が詰まり、絶望でのどが潰れた。


 もう、からだも心も限界だった。


「トン」


「トン」


「トンカラ……トン」


 丁字路の角から、ふたたび包帯男たちがすがたをあらわす。


(逃げなくちゃ殺される)


 わかっている。


 でも、脚が動かない。


 からだも心も限界をむかえて、力が湧かないのだ。




 春斗と包帯男たちとの距離は10メートル。


 3人が武器を振りあげた。


 あと8メートル。


 自転車の生首タイヤがグシャグシャと笑った。


 あと6メートル。


 春斗は生きる力を振り絞ると、


「うわあぁぁ」


 さけびで恐怖をおさえつけ、むりやり脚を動かした。


 1歩、2歩、3歩。


 吐くほどの思いで脚を引きずり、なんとか前進する。


 4歩、5歩……そこでたおれた。


 力をうしなった脚はなまりのように重く、自分の一部じゃないみたいだった。




 トン、トン、トンカラ……トン。




 3人の包帯男は春斗の5メートル手前まで、せまっていた。



(つづく)


更新は毎日おこなう予定です。


トンカラトンは全身に包帯を巻き、自転車に乗って出現する都市伝説の怪人です。


トンカラトンは出会った相手に「トンカラトンと言え」と脅し、言葉に従って「トンカラトン」と言えば、その場を立ち去りますが、言わないと、持っている日本刀で斬りかかってきます。(斬られた人はトンカラトンの仲間になるとも。)


このトンカラトンは、とあるこども向け番組内で放送された怪談アニメに登場したことで多くのこどもにトラウマを植えつけた、初期平成キッズにとってのトラウマメーカーともいえる存在。


かくいう犬山も、この怪人にトラウマを植えつけられたひとりで、当時は夕焼けの町が本当に怖かったです……。


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