【67話】ツキはいつもそばにいる 2
本エピソードおよび本作に登場する『ドゥーム・ダンジョン』は犬山おはぎが考えたオリジナル作品であり、特定の作品をモデルにしたものではありません。
そのためエピソード内に登場する『ドゥーム・ダンジョン』への指摘が、特定の作品の批判ではないことを、前書きにおいて、あらかじめ説明させていただきます。
羽瀬川信男の描く『ドゥーム・ダンジョン』は、
「今回もおもしろかった!」
「話がワンパターン」
といった具合に、ファンとアンチ、両方のコメントがそれなりに届く作品である。
コメントの多くは、ひとこと感想のようなみじかいものばかりだが、なかには長~い指摘コメントを送ってくるユーザーもいる。
そのひとりがミギノツキ。
そして、もうひとりがヒダリノツキである。
ヒダリノツキは、最近コメントを送ってくれるようになった新規ユーザーで、どうやら、ミギノツキの双子の妹らしい。
コメントの内容だが、
『いつもたのしく拝見させてもらっているのです』
まずはお決まりの文句ではじまり、
「今回のお話はリオンとドラコのかけあいが軽快で、とてもたのしかったのです。あと酒場のシーンで獣人族のリオンがワイルドに片手でビアジョッキを飲んでいるのに、竜人族のドラコが故郷の風習に従って、ビアジョッキを両手で持っているのも、キャラの対比と設定がうまく表現されていてよかったのです」
と、かなり細かいところまで見たうえで、よい部分をあげてくれる。
こういう細かいこだわりに気づいてくれるのは作者としてもうれしい。
だがヒダリノツキの本性があらわれるのは、ここからである。
『でも、そのあとのシーンのリオンとドラコの身長差が、あきらかにほかのコマとちがうし、町でいちばん人気のある酒場という設定なのに、客が主人公一味しかいないのもおかしいのです。あと異世界を舞台にしているのなら、ビールではなく、それに該当する架空の飲み物を考えたほうが、その世界に没入できるのです。あと前々から気になっていたのですが、どの女性キャラもスタイルが同じなのです。それから――』
と、いった具合に延々と指摘がつづくのだ。
最初に強い言葉で心をボコボコにへこませて、最後によかったところを褒めるミギノツキ。
最初にいいところを褒めて、そのあと針で刺すようにチクチクと指摘してくるヒダリノツキ。
コメントが届くたびに、信男の心は、かように右からも左からも痛めつけられるのである。
けど……。
信男はこのユーザーたちをブロックしなかった。
指摘のただしさに、怒りで机をたたいたことは何度もある。
それでも信男は、ふたりの言葉から逃げなかった。
傷まみれの心のどこかで、ふたりのコメントを待っている自分がいるからだ。
あのふたりは自分の作品を真剣に見てくれている。
本気でマンガ家としての自分の成長を願ってくれている。
それがわかっているから、ブロックしないのだ。
* * * * *
『あなたはひとりじゃない。ツキはいつもそばにいる』
ふたりのコメントは、いつもこの言葉でおわる。
そう。信男はひとりじゃない。
ファンもいればアンチもいるし、後輩のライバルだっている。
それだけじゃなく、夜食をつくってくれる両親だっている。
だから信男はひとりじゃない。
みんなの想いが信男を動かし『ドゥーム・ダンジョン』の世界は広がっていくのだ。
「見てろよ。指摘のシの字も出せない傑作エピソードを描いてやるからな」
だが、その前にやることがある。
ボコボコでチクチクな心の修復である。
その方法だが――。
「みらら~。きょうも、いっぱい、きみを愛でるからね〜」
傷ついた心を癒すため。
信男はミーチューブで、大好きな雲外ミラの動画を観るのだった。
(ツキはいつもそばにいる・完)
これからもゴクハナのエピソードは投稿していく予定です。
ちなみに作中に登場する指摘のいくつかは、べつの小説を書いているときに、ある人から実際に犬山が言われたものです。
6月13・14日に大相撲パリ公演があります。たのしみ!




