【66話】ツキはいつもそばにいる 1
本エピソードおよび本作に登場する『ドゥーム・ダンジョン』は犬山おはぎが考えたオリジナル作品であり、特定の作品をモデルにしたものではありません。
そのためエピソード内に登場する『ドゥーム・ダンジョン』への指摘が、特定の作品の批判ではないことを、前書きにおいて、あらかじめ説明させていただきます。
11月のある日。
羽瀬川信男が自身の投稿しているマンガのPV値を確認しようとすると、
【コメントが届いています】
との通知が。
さっそく、コメント一欄に飛んでみると、
「また、おまえかよ」
届いていたのは、ミギノツキというユーザーからのコメントだった。
『今回でてきたベベゴンだけど、ハッキリ言って、魅力のかけらもないわ』
コメントは、新キャラの魅力不足を指摘するものだった。
『物語のおもしろさの9割はキャラクターで決まるといっても過言じゃないわ。高校生だから人生経験が足りないのはしょうがないとして、自分の好きなジャンルだけじゃなく、いろんなジャンルの作品に触れて、キャラの引き出しを広げなさい』
そして、
『参考までに、わたしのオススメ映画をあげておくわ』
恋愛、歴史、SF、ホラー、怪獣映画をジャンルごとにずらりと列挙。
その数、なんと40作品!
おもわず信男も、
「うげっ」
顔をしかめてしまった。
だが、コメントはこれでおわりではない。
『今回のバトルシーンだけど、キャラの動きもコマ割りも迫力があってよかったわ。あと以前に指摘した、キャラの表情パターンの少なさも、すこしずつだけど改善されてるみたいね。この調子で、がんばりなさい』
「いつも上から目線で指摘して……なにさまのつもりだよ」
ひとりの部屋に、信男のつぶやきが苦く沈んだ。
* * * * *
羽瀬川信男はマンガ投稿部に所属している追株高校の2年生だ。
信男が投稿している作品は『ドゥーム・ダンジョン』。
ドゥームと呼ばれる最凶ダンジョンの攻略に挑む主人公と、その仲間のかつやくを描いた異世界ファンタジーマンガだ。
『ドゥーム・ダンジョン』は信男が1年生のころから描きはじめた作品で、マンガ投稿部のなかではブックマーク数も累計PVの値もいちばん高く、部を代表する人気作品だった。
けど、それは4か月前までの話。
あたらしく入部した1年生には信男をはるかに超える才能を持つ者がいた。
唄河広志、綿鍋香蘭、勝鹿戦叉の3人である。
彼らが投稿した作品は、わずか3か月でブックマーク数もPV値も『ドゥーム・ダンジョン』を凌駕。
この事実に、信男が嫉妬の炎を燃やさないわけがなかった。
(あいつらさえいなければ!)
その想いは火の衣をまとったイタチのように胸を駆け、嫉妬心はいつしか憎しみの業火へと変わっていた。
だが、あるとき、とつぜん、それは鎮火。
3人を憎む気持ちが、心から消えたのである。
* * * * *
数週間前、唄河広志たちは、とつぜん意識をうしない、入院したことがある。
いまは3人とも意識を回復し、元気に通学。
マンガの投稿も再開している。
(でも、どうして、あの時期のことを憶えてないんだろう)
不思議なことに、信男には3人が入院しているあいだと、それより少し以前の記憶がない。
というより、そのときのことを思いだそうすると、靄がかかったみたいに頭がボーッとして、明確な記憶をたどることができないのだ。
ただ、ハッキリと憶えている言葉がある。
嫉妬心の正体は情熱。だれかを蹴落とすためじゃなく、自分のために育ててあげれば、いつか、だれにも負けない才能が開花するんじゃないかしら。
言った人物の顔も声も思いだせないが、何かを思いだそうとすると、かならず、この言葉にたどりつく。
憎しみがなくなったからといって、後輩への嫉妬心が消えたわけじゃない。
だが、作品のネガキャンをしようなどという気持ちが湧かなくなったのは、見知らぬだれかに自分の嫉妬心を肯定してもらえたからだろう。
だから、いまの信男は、
「ぜったい、あいつらよりもおもしろいマンガを描いてやる!」
無限の嫉妬心を燃料に、いままで以上に創作活動に意欲を出しているのだ。
(つづく)
『ツキはいつもそばにいる 2』は、このあと20時に投稿します。




