【60話】想う力 8
扉を開けて、通路に踏みだす。
その瞬間、極導たちはSF映画でよく見る宇宙船のブリッジ(船橋)に移動していた。
超硬度ガラスの向こうは宇宙空間。
その無限の闇を裂くように、スルト級宇宙戦艦のパルスレーザーやフォトンミサイルが縦横無尽に飛び交っている。
「ミサキさん、ここもダンジョンなんですか?」
「うゆ。勝鹿戦叉が投稿しているのは『ネビュラソルジャー』というSFマンガ。サイボーグ兵士のかつやくを描いた作品なのです」
そのとき、空中に黒い穴が開き、そこから赤い鎧をまとった首なし騎士があらわれた。
「気をつけて。あいつはユアン・クローカー。首なし騎士デュラハンよ」
ミユキが言った。
ユアンの鎧にはランプのついた装置や動力チューブがついていて、西洋の甲冑というよりは昔のSF映画に登場する宇宙兵士のアーマースーツといった感じだ。
ブシュウゥゥ
両肩の排熱装置が、威嚇するように不気味な音と熱風を吐く。
ユアンは腰にさげた30センチほどの筒を手に取り、先を極導に向けた。
グオォン
筒の先から紫色の光の刃が出現。
筒の正体は剣の柄(持ち手部分)だったのだ。
さらにユアンは腰にさげたもうひとつの筒を手に取った。
筒の先から、またもや紫色の光刃が出現。
ふたつの剣を構えて、4人の前に立ち塞がった。
「あれはフォトンソード。あなたの白明刀と同じ光の剣よ」
「二刀流なうえに、使うのは光の剣。ぜったいに負けられないな」
極導は錬明術で白明刀を二本つくり、両手に構えた。
隙を殺し、たがいの実力を探りあうようににじり寄るふたり。
そして、ついに、
ブシュウゥゥ!
「たぁっ!」
四つの剣が火花を散らした。
「ミユキさんたちはデアのもとへ」
「わかったわ。ミサキ、行くわよ」
「うゆ」
ブリッジのオートドアへ向かう双子。
だが、ユアンが慌てるようすはない。
もしかしたら、ユアンもフルル同様、ミユキたちではデアに勝てないと思っているのかもしれない。
* * * * *
二合、三合、四合。
極導とユアンは宇宙空間を背に、光の刃を交えていた。
(こいつ、強い!)
重さと速さを兼ね備えたユアンの剣技に圧倒され、極導は攻撃に転じることができない。
七合、八合、そして九合。
ついにつばぜり合いになった。
力をこめて腕を前に出す極導。
だが力はユアンのほうが強い。
でも――。
「負けられないんだ」
腕と脚に力をこめる。
血液が全身を駆け、高まった霊力が筋肉をさらに膨張させる。
魔廻りのからだには自身の霊力だけでなく、霊盃をかわした怪異の霊力も流れている。
花子の霊力が、極導にさらなる力をあたえてくれたのだ。
「うおぉぉ!」
刀を握ったまま、極導は腕を突きだし、ユアンを押し返した。
体勢を崩し、よろめくユアン。
その刹那の隙をついて、極導が白明刀を振るう。
光の白刃は腰と胴体を覆う鎧のつなぎ目に命中。
ユアンのからだが上下に切断された。
* * * * *
デュラハンは首のない騎士。
だから断末魔はあげない。
床へ落ちる上半身と、それを追うように膝から崩れる下半身。
それらはすぐに光の粒子に変わり、ルミナブレスに吸いこまれた。
『たましいを収納しました』
ルミナブレスのスピーカーからガイド音声が流れる。
「ありがとな、花子」
ひとりきりのブリッジで、極導は深くつぶやいた。
「勝てたのは、おまえのおかげだ」
力でユアンに勝てたのは花子の霊力のおかげ。
だが勝因はそれだけではない。
極導が勝てたのは約束のおかげでもある。
花子とアニマルジェラートを食べる。
その約束が、かならず勝つという心の強さを極導にあたえてくれたのだ。
『凍連冬輝、煌白、花子の機胃脱出を確認しました」
あたらしいガイド音声が流れた。
『勝鹿戦叉のたましいはすでに収納しています。機胃から脱出してください』
「わかってるよ。御手洗極導、現実世界へ帰還します」
笑顔でジェラートを食べる花子を想像しながら、極導は機胃をあとにした。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
デュラハンはアイルランドにつたわる首の無い騎乗者で、ガン・ケンとも呼ばれています。
デュラハンは他人に自分のすがたを見られることを嫌い、見た者の目を、持っている鞭で潰そうとするとも言われています。
追伸【5月24日:22時11分】
若隆景関、優勝おめでとうございます!




