【57話】想う力 5
「準備が整ったのです」
パソコンに向かっていたミサキがこちらを振り返った。
「デアは機胃内につくったデア・ダンジョンにいるのです。ちなみに、これは信男の『ドゥーム・ダンジョン』というマンガに出てくる地下ダンジョンを参考にして、デアが創造したものなのです」
「それじゃあ、みんな。デア・ダンジョンに突入するわよ」
突入するのはミユキ、ミサキ、極導、花子、冬輝、煌白の6人。
ミユキは錬想術でルミナブレスをつくり、それを極導たちにわたした。
「以前みたときも思ったけど、なんか、このブレスレットって、ヒーローの変身アイテムみたいですよね」
極導が言った。
ちなみに右利きの極導や花子は利き手とは逆の左腕にルミナブレスを装着しているが、左利きのミサキだけは右腕に装着している。
「ご明察。ルミナブレスは、わたしたちの好きなヒーローの変身アイテムを参考にしながら、ミサキとふたりでデザインや機能を考えたものなの」
ミユキが誇らしげに語った。
「ミサキ、お奉行にあれを」
「うゆ」
ミサキは錬想術で真紅のブレスレットをつくり、くらりにわたした。
「これはトランルミッター。打ち合わせのときに説明したとおり、機胃にいるミサたちにお奉行の霊力をわけあたえるアイテムなのです」
「うむ。しかと受け取った」
くらりがトランルミッターを腕に着ける。
「確認の意味をこめて、もう一度みんなに説明するわね。ルミナブレスの力をもってしても、わたしたちが機胃にいられるのは5分が限界」
「だから、おれの霊力を活動エネルギーとやらに変えて、6人にわけあたえるのだな」
くらりが言った。
「ええ。けど、それでもいられるのは10分が限界。この10分で極導たちは電子怪異をたおして、捕らわれたたましいを救出。わたしとミサキでデアをたおすわ」
双子はおたがいの顔を見て、うなずきあった。
「さっきパソコンに細工するときにデア・ダンジョンの情報を仕入れたのです。デア・ダンジョンには、それぞれの階層にボスとよばれる魔物が存在するのですが、そいつらがたましいの生命データからつくられた電子怪異なのです」
そこでミサキは一同の顔を見まわした。
「こちらにとって都合がいいのは、信男がダンジョンの内部構造をきちんと考えてなかったことなのです」
「どういうことですか?」
冬輝がたずねた。
「デアはあらゆるものを生成する『創造力』という能力をもっているのです。これはミサたちの錬想術の上位互換ともいえる能力なのです」
ミサキが説明する。
ちなみに彼女の年齢は22。
中学1年生の冬輝より10歳も年上だが、見た目が11歳ぐらいなので、同年代の子と会話しているように見える。
「創造力はすばらしさと恐ろしさをあわせもった能力。でも錬想術同様、つくりたいものをイメージしないと発動できない。デアは、このイメージする力が圧倒的に欠如しているのです」
「思いこみ力100、想像力1のデアじゃ、自分でダンジョンの内部構造を考えられないってわけ」
人さし指を動かして、ミユキが空中に迷路を描いた。
「だからデアはダンジョンの各階層を単なる広間としてつくり、そこに電子怪異を配置したのです」
大好きなヒーローの変身アイテムを参考にしつつ、独自のアイデアを加えてルミナブレスを完成させた双子と、信男のアイデアに頼りきりで、自分ではダンジョンの構造を考えられないデア。両者のちがいはここにあるのだろう。
「ミサキさま、電子怪異の種族はわかりますか?」
煌白がたずねる。
「デアが生成した電子怪異はゴーレム、人狼、デュラハンの3体。どれも信男のマンガに登場する魔物なのです」
「わたしたちは、この3体をたおして、捕らわれたたましいを救出すればよいのですね」
「うゆ。解放されたたましいは自動的にルミナブレスに収納されるのです。煌白さん、そして、みなさん。打ち合わせのときにも言いましたが、たましいを救出したら――」
「すぐに機胃から脱出する」
煌白がこたえた。
「うゆ。デアは現実世界の侵略をたくらんでいる危険な怪異。ミサたちの親分からもデリート許可がおりているのです。でも、この作戦で重要なのはデアのデリートではなく、捕らわれたたましいの救出なのです」
ミサキの言葉に迷いはなかった。
「だからミサたちのことは心配しないで、みなさんには先に脱出してもらいたいのです」
「デアはわたしたちの世界の怪異。わたしたちでデリートするわ」
ミサキ同様、ミユキの言葉にも迷いはなかった。
* * * * *
午後8時。
ついにSS作戦決行の時間となった。
「それじゃあ、行くわよ」
ミユキがルミナブレスの中央についた宝石をパソコン画面に向ける。
「ルミナスパーク!」
その声に呼応するようにパソコンの画面が光り、6人のからだが金色の輝きに包まれた。
「頼んだぞ、雪月花隊」
くらりが言った。
その直後に6人のからだは光の粒子になって、パソコン画面に吸いこまれた。
「雪月花とはよく言いましたな」
黒峰が感心してみせる。
「雪女、玉兎、トイレの花子さんで雪月花ですか」
「ああ。雪月花は自然の美しさをあらわす慣用句。若くてきれいなあやつらにピッタリであろう」
「それは……まぁ……はい」
妙に歯切れの悪い返事である。
「あの、くらりさま」
「なんだ?」
「これは以前にわたしの友人が言っていたのですが」
黒峰はうつむきながら、握ったこぶしを脚の付け根に当てていた。
「友人いわく、花子さまや煌白さまはたしかに若くてきれいな女性ですが……」
そこで黒峰は声を震わせながら、
「い、いちばん美しいのは、やはり、く、く、くらりさまだと」
「…………」
「さ、再度申しますが、これは友人の言葉であって、わたしの――」
「わかっている。その友人とやらも、おまえと同じで阿呆のようだな」
「そ、そうでございますな」
「クロ、そやつにつたえておけ。お奉行、いや、くらりがよろこんでいたと」
「はっ!」
いまにも羽ばたきそうなほど元気な返事である。
(嘘の下手な阿呆烏め)
くらりはパソコンのほうへ向き直った。
こみあげてくるうれしさが大きすぎて、ほほが緩むのを抑えられなかったのだ。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
見ていましたとも。
幼少期にリアルタイムで見ていましたとも。
人の心を救うために戦った夢のヒーローのかつやくを。




