【56話】想う力 4
こうして話はいまへともどる。
10月19日、午後7時50分。
心浮かせの術をかけられた羽瀬川信男にミユキが質問をはじめた。
これは、
「ミサキがパソコンに細工をするあいだに、わたしが信男に色々と訊いておくわ」
と2日前の打ち合わせで決めていたからだ。
「まずはかんたんな質問から。あなたの名前は?」
「羽瀬川信男」
「通っている学校は?」
「追株高校」
「学年とクラス、あと所属している部活は?」
「2年2組。部活はマンガ投稿部」
「OK。それじゃあ本題に入るわよ。唄河広志、綿鍋香蘭、勝鹿戦叉の3人のたましいをデアに奪わせたのはあなたね」
「ああ」
「だいたいの予想はついているけど、犯行の動機は?」
「…………」
何もこたえない。
心をあやつられながらも口をつぐむということは、よほど知られたくないことなのだろう。
「術の効力をあげましょう」
黒峰が信男の顔に手を近づけると、
「その必要はないわよ、黒峰」
ミユキが制した。
「しかし――」
「いいわ。犯行動機なら、代わりにわたしが言ってあげる」
ミユキは上目遣いに信男をにらむと、
「あなたよりも3人の作品のほうが人気だった。それが犯行の動機でしょ」
意識のないはずの信男が、こぶしを握りしめた。
「マンガ投稿サイトで、あなたたちの作品を読ませてもらったわ。累計PV、ブックマーク、イイネの数。すべてにおいて3人のほうが、あなたよりも上だった」
信男のこぶしが小刻みに震える。
「あなたは後輩の才能に嫉妬して、デアにたましいを奪わせた。そうでしょ?」
「うぅぅ」
意識はないはずなのに、信男が低い声でうめいた。
「あいつらがいけないんだ。後輩の分際で、ぼくよりもおもしろいマンガを描くから」
「だからって、たましいを奪っていい理由にはならないわ」
「くやしかったんだ。それまではぼくが一番だったのに」
「あなた自身に意識はないだろうけど、いちおう言っといてあげる。きのう、あなたの作品に長〜い指摘と応援のコメントを送ったミギノツキってユーザーがいるでしょ。あれ、わたしよ」
信男のまゆが糸で吊られたように動く。
「嫉妬心の正体は情熱。本気で高みをめざす者の心にしか芽生えないわ」
ミユキは信男の目を見つめながら、
「その情熱をだれかを蹴落とすためじゃなく、自分のために育ててあげれば、いつかだれにも負けない才能が開花するんじゃないかしら」
「…………」
「少なくともわたしはそう思ってるし、ファンとして、それを願ってるわ」
うつろな信男の目から、一粒のなみだがこぼれた。
「質問のつづき。3人のたましいはデアがつくった電子怪異の体内ね?」
「ああ。電子怪異をたおすことで、たましいがドロップする仕組みになってるんだ」
「やっぱりね。以前に同じような事件を起こしたときもそうだったもの。だれかに教えてもらったゲームの設定をそのまま使いつづけるなんて、ほんと想像力のないオババだわ」
そのとき、
「ミユ、準備が整ったのです」
パソコンに向かっていたミサキがこちらをふりかえった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
犬山の思い出のマンガは寺沢武一先生のコブラです。
中学校の図書室に、なぜか『雷電の惑星』という話だけを収録した本があり、それを読んでファンに!
高校入学の記念にもらった図書カードでカラー版を数冊購入しました。
ちなみにベタではありますが、コブラで一番好きな話は『ラグボール』です。




