【55話】想う力 3 ~SS作戦~
デアの居場所はわかった。
だが居場所がわかったところで、パソコンのなかにいるデアをどうやって捕縛すればいいのだろう?
黒峰が疑問を口にすると、
「それをいまから説明するのよ」
ウサミミを揺らして、ミユキが言った。
彼女の服装は水色のワンピースにフリルつき白エプロン。
まるでウサミミを生やした不思議の国のアリスである。
「捕らわれたマンガ投稿部員のたましいを救出するには、わたしたちが機胃――つまりパソコンのなかに入るしかないの」
「パソコンのなかに? それは一度デアにつかまるということですか」
「ちがうわ。パソコンにはこれを使って入るのよ」
ミユキが左手をテーブルの上に置いた。
「よく見てなさい」
ミユキが目を閉じると、
「なんと!」
彼女の手首に金色の光の粒子があつまり、それが六角形を形成。
弾けた光のなかから、赤色と水色のラインが入った六角形のブレスレットが出現した。
「錬想術。想像したものを実体化させる妖術なのです」
巫女装束をまとった妹のミサキが説明する。
「このブレスレットは、わたしの頭のなかにあるイメージを錬想術で実体化させたもの。ちなみに名前はルミナブレスよ」
ミユキはルミナブレスを装着した手を顔の横にかかげた。
「ルミナブレスは装着者の肉体を霊子化するアイテム。これをつけて6人で機胃に乗りこむの」
「6人?」
おもわず黒峰は訊き返した。
この場にいるのは8人。
お奉行のくらりは除外するとして、乗りこむのは7人ではないのか?
「失礼ですが、7人のまちがいでは」
「いいえ。乗りこむのは、わたし、ミサキ、極導、花子、あと、わたしと名前の似ている冬輝と煌白の6人よ。黒峰とお奉行はダメ」
「なぜ?」
「ルミナブレスは術者の霊力と同じくらいの霊力を持った者しか装着できないの。黒峰とお奉行は霊力が高すぎて無理なのよ」
「なるほど……」
複雑な気分である。
「錬想術はなんでもできるチート妖術じゃないの。つくりたいもののかたちをきちんと想像しなくちゃいけないし、霊力の消費だって激しいから、正直いって、コスパは悪いわ」
そして右手でルミナブレスを撫でながら、
「イメージどおりにつくれても、1時間で消えちゃうし」
ためいきまじりにつぶやくのだった。
* * * * *
そのあと8人は機胃に乗りこむための打ち合わせをおこなった。
そして午後10時。
約1時間にもおよぶ打ち合わせが終了した。
「さっきも言ったとおり、SS作戦の決行はあさっての午後8時。デアを逃がさないように錬想術でパソコンに細工もしなくちゃいけないから、作戦の10分前には信男に心浮かせの術をかけておく必要があるわ」
ミユキがみんなの顔を見まわす。
ちなみにSS作戦のSSとはSavig・Souls(たましいの救出)の略。
作戦名を考案したのはミユキである。
「術はわたしが責任を持ってかけます」
黒峰がこたえたとき、
「あの」
それまで黙っていた煌白が、遠慮がちに口を開いた。
「これは作戦とは関係ないことなのですが」
そう前置きして、煌白は双子のほうへ向き直った。
「ミユキさまとミサキさまは、おふたりとも魔廻りなのですよね」
「ええ、そうよ」
ミユキがこたえる。
「こちらの世界では、魔廻りとは怪異と霊盃をかわした人間のことをさします」
「知ってるわ。わたしたちの世界でもそうだもの」
「では、おふたりは怪異であるにもかからわず、なぜ自分たちのことを手先ではなく、魔廻りと言うのですか」
煌白の質問に、くらりを除いた全員がうなずきあう。
「それ、じつはぼくも気になってたんです」
「じつはわたしも」
「花子もか? じつはおれも気になってたんだ」
疑問の声が相次いで飛びだす。
「お奉行、じつはわたしも……」
黒峰も玉兎であるふたりが、なぜ自分のことを魔廻りと呼ぶのかは知らない。
「それについては直接ふたりに説明してもらうのがいいだろう」
くらりが双子に目配せする。
「いいわ。隠すことでもないし、話してあげる」
ミユキとミサキは背筋を正すと、
「わたしたちは玉兎のママと人間のパパのあいだに生まれた半妖なの」
「半妖は怪異と人間の両方の性質を持った存在。だからミサたちは姉妹で霊盃をかわすことができるのです」
「わたしはミサキの、そしてミサキはわたしの手先であり、魔廻り。わたしたちはふたりでひとりの半妖魔廻りなのよ」
驚愕する一同を尻目にふたりは、
「ふふ。きまったわね、ミサキ」
「うゆ。ふたりでひとり……このフレーズ、やっぱりステキなのですぅ」
なにやら満悦のようすで目を細めるのだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。
玉兎は月に住み、杵と臼で餅をつくとされる想像上のウサギで、太陽にいる金烏というカラスの対となる存在です。
また新潟県の弥彦神社付近にあるお菓子屋さんでは玉兎という、かわいいウサギのかたちをした落雁がつくられています。




