38話
私達は一緒にダンジョンの中へと踏み出し、階段を降りていく。遺跡タイプというだけあって、立派な石レンガの作りになっているけど………その分、中はあまり広くはなさそうだった。飛行型がいると言うことは、天井が高いタイプなのかもしれない。
「ちっ………結構暗いな」
「そうですね………」
当たり前だけど、ダンジョンに明かりなんて親切な物はなかった。階段だし、踏み外したらそれだけで大怪我しそう………なんて思っていたら、アウルさんは腰から下げていたカンテラを取り外して火を点けた。
火の光が足元を照らし、暗かった階段が見えやすくなる。
「足元気を付けろよ」
「あ、はい………ありがとうございます」
そういえば、必要なら自分で光を出せばよかったんじゃ?と思ったけど、今更言いづらい。というか、戦いながら明かりの事も考えるのは大変だから、あるに越したことはないかな。
「気を付けなさい。明かりがあるというのは、逆に言えば目立つという事でもあるわ。モンスターに先手を取られないように、常に警戒は怠らない事ね」
「ん、分かった」
「………ルナは何て言ってたんだ?」
「あっ………明かりがあるとモンスターに気付かれやすくなるから、気を付けてって」
「あー………そうか。確かにそうだな」
アウルさんが一瞬迷ったような表情でカンテラを見たけど、このまま進むことを決めたらしい。モンスターの大半は人よりは夜目が利くのが大半だし、正しい判断なのかもしれない。
階段を降りた先は通路になっていて、思った通り天井が凄く高い。暗闇のせいで天井が見えないくらいだった。寒いくらいのひんやりとした空気に、私はフードを被る。
「行こう」
「はい。まずは一本道みたいですね」
「だな。途中で部屋があったら、取り敢えず見て行こう」
「分かりました」
アウルさんを先頭に私達は歩き出す。危険なダンジョンに足を踏み入れたから、さっきまでみたいに雑談をするような余裕はない。特に周囲を包み込むのは重苦しい暗闇だし、正直雰囲気が怖い。
前も言った通り、私はお化けとかそう言うのが苦手だし。カンテラの光だけがぼんやりと周囲を照らすのは、中々に精神的な恐怖を煽る物がある。
「多分ここにゴースト系のモンスターは出ないんじゃないかしら」
「………なんで?」
「特有の霊気がないもの。人には感じれないでしょうけど」
「そういえば猫ってそういう感覚が鋭いって……………待って?ルナは霊気がどんな感じか知ってるの?つまり今までに感じたことがあるって事?」
「さぁ、どうかしら?」
含みがある言い方をして答えないルナ。嫌な想像をして少しゾッとするけど、とにかく今は考えないようにしよう。少し青くなった顔を隠すようにフードを深く被って、通路を進んでいた時だった。
暗闇に包まれた天井の奥から、バサバサと大きな羽音が聞こえてくる。蝙蝠かと思ったけど、それにしては少し音が大きいし、その羽音がこちらに向かって近づいてきているのを感じて私は杖を取り出した。
そして、アウルさんも腰に携えていたロングソードを抜いて構え、音の発生源を見上げる。
「この羽音は………ポイズンバットか!」
「うわ、名前からして毒使って来るモンスターだ………」
「その通りよ。毒液を飛ばして来るけど、飛距離はそこまでないから近付かれる前にさっさと撃ち落としてしまいなさい」
私は上を見上げて目を凝らす。すると、暗闇の中に薄っすらと複数の影が見えた。パッと数えて13匹かな………これくらいなら。そう思って杖を構えた時、私は今までと何かが違う事に気付いた。
今までの私はモンスターの集団の動きを何となくで捉えていたし、願いの力のおかげでそれでも一応当てることは出来ていた。でも、今は薄っすらと見える影の動き一つ一つを明確に捉えて追えている。
「………そっか。これがそうなんだ」
こんなところでも変化があるんだ、と思いつつ私はその影一つ一つに狙いを定めて、杖の先から13発の光弾を放つ。暗闇を引き裂いて飛ぶその光弾は全てポイズンバットに命中し、力無く落ちてきてピクリとも動かなくなっていた。
「………終わりましたね」
「こ、この数を一瞬で………Eランクのモンスターとは言っても、地味に厄介な相手だったんだけどな………」
驚いたようにアウルさんが言う言葉に、私は苦笑を零す。飛行しているモンスターはそれだけで厄介だって言われてるし、仕方ないのかもしれない。
「えっと………行きましょう。ここで立ち止まってるのも勿体ないですし」
「………そうだな」
アウルさんが頷いたのを見て、取り敢えず私は床に落ちたポイズンバットの亡骸を空間魔法に入れておく。今まではモンスターの体が残らないくらいの魔法を使ってたし、仮に残っていても回収しようなんて思ってもいなかった。
けど、ドラゴンの件でそれはもうやめることにした。正直、全部をやってたら相当大変なのも分かってるし、実入り的にはドラゴンには及ばないんだろうけど。私が…………奪ってしまった命をそんな風に粗末にするのは違うと思ったから。
「そうね。けど、さっきのモンスターは食べられないから注意しなさい」
「まぁ、私も蝙蝠は食べたくないけど………じゃあ使える素材はあるの?」
「毒袋が一応需要があるはずよ」
「そっか………」
毒袋なんて何に使うんだろう………そう思いつつ、ダンジョンの先を進む。マジックアイテムが会ったりするって話だけど、私が欲しいマジックアイテムって何だろう?………まずどんなマジックアイテムがあるかも分からないなぁ。
ねぇ、ルナ。その辺りどうなの?
「私とばっかり話すんじゃなくて、アウルとも会話をしたらどう?彼、さっきから私達の方を見てばっかりよ」
ルナの言葉に前の方を見ると、確かにアウルさんはたまにこちらの様子を伺っていた。ちゃんと周りは見ているみたいだけど、蚊帳の外にするのは良くなかったかもしれない。今は一時的にとは言えパーティーなんだし。
「あっ………あの………ダンジョンで出てくるマジックアイテムってどんなのがあるんですか?」
「え?あぁ………流石に分からないな。ダンジョンで出てくるマジックアイテムは、どんな効果を持っていてもおかしくないって言われてるくらいなんだ。ただの噂だけど、こことは違う世界に行けるマジックアイテムも存在したらしいし」
「ち、違う世界に………?」
「ただの噂だって。あんまり鵜呑みにしない方がいいけど、でもそんな噂が立つくらい色々あるってことだ」
「なるほど………」
じゃあ、どんなのが欲しいなんてイメージできないなぁ………便利なの………便利なの………うーん。
「アリスは何か欲しいのがあるのか?」
「いえ………何が欲しいのか自分でも分からなくって」
「………そんなことあるか?」
「えっ………ご、ごめんなさい?」
「いや、何で謝るんだよ」
アウルさんは苦笑交じりに言う。なんで謝ったんだろうって自分でも謝った後で思ったけど、特にそれ以外返す言葉が思いつかなかったんだもん。
コミュ障振りが露呈して恥ずかしくなった私は髪をクルクルと弄る。すると、アウルさんが話し始める。
「杖とかは?言っちゃ悪いけど、あんたが使ってるのはそこまで良い物には見えないしさ」
「………杖?杖が落ちてることがあるんですか?」
「ダンジョンで入手できるマジックアイテムで、武器の類は寧ろメジャーだぞ?」
「そ、そうだったんですね………?」
じゃあ、確かに杖は欲しいかも………お金を出して要らない杖を買うよりは、タダで拾えた奴を使った方がいいよね。それに、この街では杖は買えなさそうだし………あの老人を思い出して、私はため息を付きそうになった。
「………あんた、珍しいよな」
「え?な、何がですか?」
「強さの割には知識とかはルーキー相応だし、そもそも俺達みたいな年齢で冒険者やってる奴自体そんなにいない上に冒険者をやってる女も少ない。正直、その年齢であんたみたいな子が冒険者をやってるなんて、めちゃめちゃ複雑な事情があるんじゃって思って噂になってたし」
「………あっ」
アウルさんの言葉を聞いて、私が今まで他の冒険者に絡まれなかった理由が分かったかもしれない。多分、本当に可哀想な身の上の子だと思われてたんだ。
「実際の所、どうなんだ?」
「え、あ、いえ――――」
「ねぇアリス。向こうの暮らしを思い出してみたら?」
私の言葉を遮ったルナの言葉に、口を噤む。でも、虐められた過去があるなんて言っても………そう思った時、不意に私は嘘をつかずに遠回しに伝える言い方を思いついた。
「………故郷から逃げ出してきました。それからは、生きるために冒険者を始めたんですけど」
「………なるほどな」
「はい。でも、今は嫌いな自分を変えたくって、色んな経験をするために旅をしてます」
「そうか………そういえばアリスは街に来たばかりだったな」
「そうですね。まだ慣れない事ばっかりですけど」
「………俺も旅に憧れはあるんだけど、まだそんなに強くないからな。その歳で旅なんて、尊敬するよ」
「いえ、そんな………」
そんな会話をしつつ、私達は先に進む。その間にもモンスターの襲撃は何度かあったし、小部屋も見つけたけど、ガウスさんらしき影は何処にもなかったのだった。




