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37話

 儀式を終えた後、取り敢えず心臓は仕舞ってから街の正門に戻った。もう心臓には殆ど魔力が残ってないらしいから、本来の価値はあまりないとはルナは言ってたけど、だからといって放っとくわけにもいかないし。


「ねぇ、ルナ」

「…………なぁに?」

「あれさ、もしかしてそういうこと?」

「…………そうね。おそらくそういうことだと思うわ」


 魔力を保有していて、身体能力への影響が少ない。ルナの言葉が正しければ、私には魔法適正があるってことになる。

 でも魔力の感覚すら分かってない私が今から魔力を身に付けるのは難しいとも言われたし、今の私には願いを叶える力を持ったルナがいる。

 万が一ルナと離れ離れになってしまった時のために、と言うなら無駄にはならないだろうけど…………そんなこと関係なく、ルナと別れて一人っきりになったら私は生きていける気がしない。


「…………特訓したほうがいいのかなぁ?」

「その必要は無いんじゃないかしら。まずは今使える力を十分に使いこなす事の方が先決よ」

「確かにね」


 未だにこの力を使うのは………慣れはしたけれど、本当に使いこなせているかと言われたらそうは思わない。何をするにも意識しながら使うという以上は、どうしたって常にワンテンポ行動が遅れてしまう。

 原因は何となく自覚があるけれど、まだこの力に対する自分の中での恐怖が消え切っていないからだと思う。私のミス一つで悲劇に繋がるかもしれない。まだそんなこと起こってないだろうって大袈裟に思うかもしれないけど、1度起こってしまったらもう手遅れだし。


「そろそろ時間………いえ、もう来たわね」

「アリス!もう準備は終わったのか?」

「あ、はい………元々、私は必要な物は全部持ってるので」

「あぁ、そうか………じゃあかなり待たせたな。すまない」

「いえ、大丈夫です………それより、早く行きませんか?救助なら、少しでも早い方がいいと思います」

「そうだな、行こう」


 私とアウルさんは街の外へ向かう。ダンジョンがどの辺にあるかは知らないから、道案内はしてもらわないといけないし。

 それにしても、この街の近くにダンジョンがあるなんて全く知らなかった。そんな話はここ数日で全く聞いたことも無かったし、ダンジョン自体が実入りがいい代わりに発生するのは稀だと聞いていたから。


「彼が言っていた通り、この街には仕事場の護衛があるからでしょうね。あの報酬なら、真面目にやってさえいれば食べるのに困ることはないもの」

「リスクとコストを掛けてまで攻略する必要がない………って事だよね」

「えぇ。あなた向きの話でしょう?」


 確かにね。私は比較的リスクが少なくて堅実に稼げる仕事と、リスクが高い代わりに当たれば大きい仕事のどちらかを選べと言われたら前者を選んでしまいがちだ。

 流石に宝くじとかそのレベルほど分が悪いわけじゃないし、最低でも1回当たりの実入りはダンジョンの方が大きいんだろうけど………その賭けの代価は命。決して安くは無いんだから。


「とは言っても、あなたならよっぽどヘマをしない限りは大丈夫よ。でも絶対に先頭には立たないようにしなさいね?」

「………ん」


 アウルさんを囮にしているようで気分は良くないけど、それが役割分担だというのは理解してる。魔法使いを守るために前衛がいるんだから。ルナと話しながら進んでいると、不意にアウルさんが声を掛けて来た。


「その猫………ルナだったよな?結構お喋りなのか?」

「あっ………えっと、そう、ですね………良く話し相手になってくれてる、とは思います………あと、私のガイドみたいな感じ………かも?」

「猫のガイドか………ってことは、かなり頭が良いんだな」

「そ、そうですね………」


 実際、頭がいいなんてどころの騒ぎじゃないんだけど。基本的に何でも知ってるんじゃないかってくらいこの世界について詳しいし………私だってまだ彼女がどんな存在なのか分からない。そもそも、私が生まれた頃から一緒な訳だし。


「俺の親父も、色んな事を教えてくれたんだ。小っちゃい頃から冒険者になりたいって言って聞かなかった俺に毎日稽古を付けてくれたりさ。冒険者登録をしてからも、一緒に依頼に行ったりして………本当に、俺の憧れなんだ」

「………良いお父上なんですね」

「あぁ。自慢の親父だよ。あの人には、返しきれないくらいの恩がある。だから、絶対に助けてみせるんだ」


 そう言ったアウルさんの目には、強い覚悟を感じ取れた。彼の父親がどんな人なのかは分からないけど、立派な人なんだろうなって言うのは察する事が出来る。

 少しどんな人なのか気になった私は、アウルさんに聞いてみることにした。


「その………ガウスさんって言ってましたよね?冒険者って聞きましたけど、どれくらい活動されてたんですか?」

「今年で25年目だって言ってたな」

「わ、凄いベテラン………」

「まぁな。俺程じゃないけど若い頃から冒険者をやってて、昔は旅もしてたらしいんだ。今はBランクの冒険者で、実はオルムでもかなりの実力者だって有名なんだぜ」


 ガウスさんの話をする時のアウルさんは、どこか誇らしげだった。やっぱり自慢のお父さんなんだろうなって言うのは分かるけど………Bランクともなれば稼ぎには困らなそうなのに、そんな人が借金をしてまで買わなきゃいけなかった薬って何だろう。

 そして、そんなに長く活動をしていた人でも帰ってこれない可能性がある場所に今から行くんだ。一度深呼吸をした時、今度はアウルさんから声を掛けてくる。


「そういうアリスは冒険者を始めてどれくらいなんだ?」

「え?えっと………さ、3ヶ月くらいだと思います」

「3ヶ月!?」

「ぅっ………」


 急に大声を出されて、肩をびくりと跳ねさせながら変な声が漏れる。すると、アウルさんは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。


「わ、悪い。俺とそう変わらなそうだし、そこまで長くはないだろうとは思ってたけど………諸々の評判を聞いてると、流石に3ヶ月は予想外だったから」

「………えと、じゃあアウルさんは?」

「ようやく1年くらいだよ。2ヶ月前くらいにDランクに上がったんだけど………やっぱり、凄い奴って経歴も普通じゃないんだな」

「アウルさんもその歳でもうDランクは凄いと思いますけど………」

「はは。確かにそう周りのやつは言ってくれるけど、目の前にあんたが居たらな」


 アウルさんの言葉には多少の悔しさはありつつも嫉妬や僻みのような感情は籠っていなかった。そうして話しているうちに少しだけアウルさんがどんな人か分かったし、会話を通じてかなり話しやすくなったと思う。

 ダンジョンではコミュニケーションも大事だし、お互いに喋りやすい雰囲気になっておくのはきっと良い事のはずだ。


「そうね。でも別にダンジョンに限らず、協力するならコミュニケーションは大事よ?」

「………はい」


 そうこうしているうちに、私達は一つの森を抜けてダンジョンへとたどり着いた。遺跡タイプのダンジョンみたいで、来る前に言ってた通り飛行型のモンスターも多く出るらしい。

 今回はあくまでも攻略ではなく、人探しが目的だ。でも、くまなく探すうちに幾つか戦利品は見つかるだろうし、そう言った物は全部私の物になるという話になっていた。


「それじゃ、入ろう」

「はい、分かりました」


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