39話
一時間ほど特にこれと言った事もないままダンジョンを進み、順調に2層目へ降りる階段を見つけることが出来ていた。
「…………なんか、思ってたよりあっさり来ちゃったな」
「い、良いことじゃないですか?」
「いやまぁ、良いか悪いかで言ったら良いけど…………なんと言うかな」
複雑そうに笑みを浮かべるアウルさん。私もあまりに順調なせいで、意外には思ってたけど。
今回はあくまでも攻略じゃなくて、人助けが目的な訳だし。早ければ早いほど良いはず。階段を下りながら、私はアウルさんに尋ねる。
「あの、このダンジョンってどれくらい深いんですか?」
「一番深く潜ったパーティーが7層だったらしいけど、そこから更にどれくらい続いてるかは分からないな」
「………結構規模が大きいダンジョンなんですね」
「まぁな。でも今回はアリスがいるからこんなに進めてるけど、普通だったら絶対こうも行かないからな?弓使いは矢に限りがあるし、普通の魔法使いは魔力が持たないし」
「あ、あはは…………私、魔力が多い方らしいので…………」
「だろうな。護衛依頼の戦果、たった数日でベテラン顔負けのスコアだって聞いたし」
肩を竦めるアウルさんに、今度は私が苦笑を返す。そうして2層目に下りた私達は周りを見渡す。
既に幾つか分かれ道があるし、どこから進めばいいかな………でも、間違った道の先にガウスさんがいる可能性もあるよね………と考えていると、アウルさんが話し始める。
「取り敢えず、こっちの道から進もう。親父の実力だったら少なくとも3階層までは辿り着いてると思うし、階段があったらそのまま降りる」
「分かりました」
アウルさんの指示に頷いて右の通路に入ったけど、数歩足を進めた時に私は足を止める。
何か暗闇の奥から聞こえた気がする。それに、何故か分からないけど気配が…………
「少しずつ魔力に順応してきたわね。あなたの場合、五感や反射神経と言った内面的な感覚への影響が大きかったみたい」
「………生存本能的な?」
「あなたの性格が良く出てるわね」
わざわざ遠回しに怖がりって言わないでよ。別にいいもん。あって困ることはないもん。
「アリス?どうした?」
「………モンスターが来てます!」
「えっ!?俺には何も…………」
アウルさんが咄嗟に振り向いた瞬間だった。暗闇の奥から何かがアウルさん目掛けて飛び出してきた。
「っ!」
咄嗟とは言え構えていたアウルさんは上体を反らして回避し、私は飛来したそれを念力でキャッチする。今までは高速で移動する物体の動きを目で正確に追えなかったから、こんなことは出来なかっ………………え?
「…………と、トビウオ?」
私達に飛んできたのはトビウオ…………にしては頭の先端が鋭利でやけに殺意が高いうえ、翼も私がイメージするトビウオよりずっと大きい。でも、その全体的なシルエットは間違いなくトビウオだった。
「………なるほど、スカイルイーバだな」
「飛行型って飛べればなんでも良いと思ってません?」
「俺に言われても…………」
思わず普段なら絶対出来ないようなツッコミが出てしまうと、アウルさんは困ったように頭を掻く。
ちょっと信じられない光景に私がまだ目の前の状況を受け入れらずにいたけど、奥の方から更に風を切る音が聞こえて無理やり意識を引き戻し、拘束していたスカイルイーバを光弾で締め、杖を通路の先に向けて一筋の光線を杖から放つ。
「『跳ね回れ』」
私の声、その光線は狭い通路の中で壁に当たっては複雑に跳ね返って、迫るスカイルイーバの群れを次々と撃ち落とす。
耐久力は見た目通りないみたいで、ただ光線に掠っただけの個体もそのまま倒れてしまった。
「………ふぅん。随分様になってきたわね」
「え?何が?」
「自覚がないのならそれでも良いわ」
「?」
なんだろう?と思いつつも、私は倒したスカイルイーバを異空間に送る。光に焼かれてしまったせいか、辺りに若干香ばしい匂いが漂っていた。お腹空いてきたかも。
「………強さは言うまでもないけど、本当に羨ましいなそれ」
「…………ご、ごめんなさい?」
「だからなんで謝るんだよ。凄い事なんだから誇れって」
「あ、あはは………」
誇れる…………ものじゃないしなぁ。そう思いつつ改めてダンジョンの通路を進んでいると、その途中に頑丈そうな鉄の扉を見つける。
これまでもこう言う扉を見つけて中を確認はしてたけど、特にガウスさんどころか戦利品とかも全く見つかってない。あればいいなーってくらいに思ってたから、残念って程ではないけど。
取り敢えず念のため…………と、アウルさんが扉に近付いてドアノブを確認し始める。
「さて、何があるかね…………ん?」
「ど、どうしたんですか?」
「鍵が掛かってるな」
「鍵…………ってことは、ここにはガウスさんはいなそうですね」
「いや、ダンジョンでは稀に勝手に鍵が締められて、中に閉じ込められる罠がある事もあるんだ」
「…………それ、どうするんですか?」
「ドアを壊すしかないけど、これだからな…………もし罠とかじゃなくても、あんたの報酬を約束した以上は開けてやりたいんだけど」
アウルさんがドアをノックすると、硬い音が響く。つまり、これを壊せるような力か道具がないと詰み…………報酬はまぁ、あったら嬉しいけどさ。でも、壊せるなら話が早いかな。
「って言っても、実際時間もないしな。一応、鍵を見つけたら………」
「すみません。ちょっとだけ離れてもらえますか?」
「え?あ、あぁ…………え?あんたまさか…………」
アウルさんが離れたのを見て、私はドアに杖を向け光弾を放つ。直後に大きな爆発が起こって、煙が晴れた後に見えた鉄のドアは完全に粉砕されていた。
「………気弱そうなのに意外と豪快なんだな」
「え、だ、ダメでしたか……?」
「いや、簡単に開けれるならそっちの方がいい。ダンジョンの攻略法を根本から覆してる気がするけどな」
そう言って苦笑するアウルさんが中に入る。私もその後を追って中に入ったけど、人の気配はないし多分ハズレ。
「お、アタリだな」
「え?…………あ、宝箱」
部屋の真ん中には、いかにもと言った様子の宝箱が置かれていた。罠とか大丈夫かな…………と思っていると、アウルさんが宝箱に近付いて鍵穴らしきところを覗き込んだり、軽くノックのように叩いてみたりしていた。
「罠では無さそうだな。開けて良いと思う」
「あ、開けないんですね………」
「自分のお宝は自分で手に入れたいって思うだろ?」
「…………」
正直、どっちでも良いと言うのが本音だけど。何なら宝箱開けるのちょっと怖いし。
うじうじ言ってる時間も勿体無いから、取り敢えず頷いて私は宝箱に手を掛けた。そして、宝箱の中に入っていたのは…………
「…………鳥かご?」




