14話:愛称
「――それにしても、国王陛下もかなりギリギリでとんでもないこと言い出すなぁ……王宮にいる間の一週間は殆ど話せてなかったのに、出発直前になってから敬称と敬語禁止なんて」
ガラガラと馬車で移動している最中、俺はふと外の景色を眺めながら呟く。
「――そ、そうですね。 でも、僕は嬉しかったですよ。王宮にいる時は話したくても話せなくて、様付けと敬語のこと言えてなかったですから」
「え? 様付けとか敬語って、本当はして欲しくなかったのか?」
「も、勿論ですよ! アルくんは命の恩人ですし、僕は王族じゃなくて仲間として見てほしかったですから!」
「え、あ、そうだったのか? なんだ、そうだったのか。そりゃごめんな。今日からはちゃんと仲間として接するから。改めて宜しくな、リュカ!」
そう言って、俺はすぐ隣にいる少年――リュカと目を合わせ、爽やかに微笑んだ。
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時は数時間ほど遡り、王宮出発直前の時。国王からの急な命令に、俺は王宮の門の前で思わず叫んでしまった。
「え、いやいやいや! ルーカス様は国王陛下のお子様ですよ!? それなのに、お……私のような田舎者が敬称付けと敬語をやめて話すなんて……!」
「しかし、アルフェイルくんとルーカスは同じパーティのメンバーだ。それに、冒険者は基本強い者が上に立つ。冒険者になった以上、ルーカスも王族だからという理由での特別扱いは出来ん」
「で、ですけど……」
「それに、旅の最中で山賊などに二人の会話を聴かれた場合。明らかに年下なルーカスが敬語を使われていたら、貴族などの身分が高い子どもだとバレて人質に取られることもある」
確かに、国王の言うことは正しい。冒険者の中では身分格差が無いことが常識だし、同じパーティなら尚更だ。
「そもそも、冒険者の殆どは依頼主以外には敬語を使わないものだ。さっき言ったように盗聴対策もあるが、敬語を使っていては周りからナメられることもある。依頼主にでさえ敬語を使わない冒険者も珍しくはないし、特に上位ランクの冒険者は皆同じだ」
まぁ、国王陛下は元Sランクの冒険者だし、先達の教えには倣っておいた方が良いかもしれない。でも流石に、王族の人を呼び捨てるのは少し気が引けるんだよなぁ……
「と言うか、敬称付けを止めても名前でバレるのでは無いですか?」
「む、確かにそれはあるな……」
そう言うと、国王は再び顎に手を当て唸りながら俯く。
俺は田舎育ちで常識知らずだから分からなかったが、王家の人の名前は世間に知られているのが普通だ。今更発覚した盲点に、国王を始めとした全員が頭を悩ませる。
「――そうだ! それならば、ルーカスことを愛称で呼ぶのはどうだ? 愛称で呼べば王家の子どもとバレることも無いし、アルフェイルくんもいくらか呼びやすくはなるんじゃないか?」
愛称、か……
確かにまぁ、愛称で呼べば呼び捨てよりも馴れ馴れしさは増すが、気分的には誤魔化せるところもある。ルーカス様がそれでいいなら、俺もそっちの方が楽だ。
「ルーカス様は、それでどうですか?」
「え、あ、僕ですか? 僕はまぁ、全然……」
ここ一週間もあまり話せていなかったからか、まだまだルーカス様には緊張が見える。元々同年代のほかの子どもと比べても大人しい部類の性格だろうし、成り行きでパーティのことが決定してしまった分未だ馴れないところもあるのだろう。
まぁそんなことは置いておいて、ルーカス様としても愛称と敬語無しは良いってことか?
「なら決まりだな。愛称は……まぁアルフェイルくんに任せよう」
「え、それも私が!?」
「あ、それから私というのも止めてもらおうか。流石に敬語まで止めさせると外からの声が不安だが、君の一人称は「俺」だろう?」
――国王の前で俺と使ったことはないような気がしたけど、どこかで一回くらい使ってたか……? まぁ何回か言いかけたこともあるし、それが原因かもしれないが。
「国王陛下ともあろうお方が、Gランク冒険者などにそんなことを許しても大丈夫何ですか?」
「ランクなどを気にするなら、私は君にルーカスを任せたりはしない。君はこれから強くなるだろうし、私はそもそも君の人間性を信頼している。君はGランクでありながら、Dランク上位のハイオークに向かっていた。それも、逃げていれば気付かれなかったのに、見ず知らずの我が息子を助けるために」
事実とはいえ、そんな大儀を果たしたかのように話されるとむず痒い。それに、あそこにもう一体でも魔物がいたら俺は守れていなかった。偶然にも俺が倒せる魔物がいただけで、ルーカス様も奇跡的に救えたに過ぎない。
きっと、あそこで救えていなかったら格好つけずにルーカス様を抱えて逃げていればよかったと後悔していただろう。
俺としては、ただただ奇跡に感謝するだけだ。
――それでも、その結果がこうして誰かのためになったなら、それは素直に受け入れよう。
「――ありがとうございます」
「こちらこそ、改めて感謝する。そして、ルーカスを宜しくな」
「はい、お任せを」
胸に手を当て、片膝を突き、そのまま頭を下げる。
この所作がこの国で伝わるのかも、そもそもしていいものかも分からない。でも、俺は俺の決意と覚悟、そして感謝を胸に、この所作をせずにはいられなかった。
そしてその直後、俺はルーカス様の愛称を『リュカ』とし、国王陛下とその秘書、ライアン様にオーダンさん、そしてギリギリでやってきた王妃に見送られ、ルーカス様――改めてリュカと王宮を後にした。
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時は話の冒頭時まで戻り、俺とリュカが馬車で王都を移動している最中。
窓の外を眺めている俺に、リュカは珍しく自分から話を振ってきた。
「――それで、これからどうするんですか?」
「んっ? あ、ああ。話だとパーティの登録をするにはギルド行かなきゃ行けないらしいんだけど、一週間前から武器を頼んであって。そっち先に行ってもいいかな?」
「も、もちろんですよ! カルロスさんの所……でしたよね」
まだ会話にも少し緊張が見られるが、この数分間でかなり普通に話せるようになってきた。この調子で話していれば、明日には普通の友達のように話が出来るだろう。
「ああ。俺の武器に加えてスライムの防具も作って貰えてるはずだから、結構楽しみでさ」
「スライムって……その子ですか?」
「あ、そう言えば紹介してなかったな。俺の従魔のスイだ。ユニーク個体で結構頼りになるんだよ。――ほらスイ、この前一緒に助けたリュカ。今日から俺らと一緒に旅するパーティメンバーになるから、宜しくな」
そう言って、俺は膝の上にいるスイをひょいと持ち上げる。
「キューキュッ!」
しかし、リュカの方にスイを向けるとスイはフイっとそっぽを向いてしまう。あまり人見知りをするような性格ではないと思っていたのだが、意外と初対面はダメなのだろうか。仕方なくスイの頭を撫でながら、俺はスイの挨拶を諦めて膝の上に下ろす。
「スイさんって、初めて会った時も一緒に助けてくれましたよね。ユニークの魔物を初めて見るんですけど、そんなに強いんですか?」
「うーん……どうだろう。スイは戦うとかしないでテイムしちゃったから、敵としての強さは分からないんだ。でも俺との相性は良くて頼りになるから、俺としては心強い味方だよ」
「へえ、そうなんですね……僕もいつか、ちゃんと仲良くなりたいです」
そう言うと、リュカはその綺麗な水色の瞳をキラキラと輝かせながらスイを見つめる。
やっぱり、リュカって本当に可愛いな。心做しかティフォにも似てるし、もしかして少し似せたか?
「そうだな。もうこれから旅する間はずっと一緒にいるわけだし、もう何日もしたら直ぐに仲良くなれるよ。そしたら、一緒にいっぱい遊んであげてね」
「はい! 早く仲良くなれるように、僕も頑張りますね!」
そんな会話をしながら本当に可愛らしい反応をするリュカを堪能し、カルロスさんの鍛冶屋まで移動する。そして俺は約束していた武器と防具を受け取り、その後冒険者ギルドでリュカとのパーティ登録を行った。
王宮から貸してもらった馬車のお陰で今日一日の移動はスムーズに行えて、予定通り正午過ぎには昼食を済ませることが出来た。そして午後は、一週間前にギルドで受けた採取クエストの続き。リュカも丁度別の採取クエストを受けていたらしく、どちらとも残りの期限がギリギリだ。
それに今のクエストを消化しないと他のクエストも受けられないため、俺とリュカは一緒に森の中へ向かった。




