15話:ポーション錬成
王都を出て森の中に入り、俺は一週間前の採取クエストの続きに汗を流していた。
「――これ、雑草混じってないか?」
「んっと……はい! 大丈夫です!」
「おー、良かった良かった。良くやったぞースイ! この調子ならちゃんと間に合いそうだ」
森に入って採取クエストを再開してから数時間。これまでの時間で、いくつか分かったことがある。
まず一つ目、リュカの能力、鑑定は、採取クエストに於いてかなり優秀だ。草や花の名前を視れるだけでなく、籠に入れても雑草の有無が分かるらしい。リュカ曰く、籠を鑑定すると雑草が混じっていれば「雑草の混じった○○草の籠」、雑草が無ければ「○○草の籠」などと区別されるようだ。このリュカの能力のお陰で、雑草の除去が断然効率よく進む。
次に、スイはどうやらリュカに対してあまり好意的ではないようだ。最初は緊張か人見知りかとも思ったが、それにしては態度が少し荒い。俺としては仲良くなって欲しいが、やはりスイを叱ることなど俺には出来ず、機会を伺っている形だ。何か仲良くなるキッカケでもあればと思うが……
「まぁ、今はとりあえずクエストの消化だな。それが出来ないことには次に進めないし、初クエストから失敗するのは流石に嫌だ」
「そうですね、頑張りましょうっ!」
「キュゥ……」
やはり、スイの態度は露骨だ。これまでも何回かリュカがスイに話しかけることはあったが、スイはそれを殆ど無視。
しかしリュカはそれに怒ることも無く、明るく優しく振舞ってくれる。それでも余計な苦悩を与えないために、早いうちに何とかしないとならない。
そんなことを思いつつ、俺は双方の言動に注意ながら採取を続ける。
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夕方、無事に採取クエストのノルマを達成した俺たちは、ギルドにてクエスト達成の報告と採取したものを売りに来ていた。
「――はい。ハイルの花にキュア草、コンソラ草、クルの実の採取。パーティクエストとしてのクリアで宜しいですか?」
「はい、大丈夫です」
「了解致しました。それでは合計四つのクエストを一括達成とします。そして、こちらが報酬の銀貨八枚となります」
そう言って、ギルドの受け付けで銀色に輝く硬貨を八枚受けとった。
草と花の採取で銀貨八枚。簡単な採取クエストは一つの依頼につき銀貨二枚だが、それが四つで日給八千。鑑定のお陰だったり途中からだったこともあるが、意外と冒険者稼業はホワイトか? まぁ、あれだけ人が良い国王が総べる王国の王都だし、当然といえば当然か。
そんなことを考えながら、俺はスイを抱えながらリュカと一緒に今日泊まる宿に行く。
「――はぁーっ! 疲れたぁー」
そう言って、俺は宿のベットにダイブする。
今日は魔物との戦闘が無かったとはいえ、色々と移動があった。リュカとのクエストも初めてで若干緊張もしてたし、スイの動向も気掛かりだったため気を張りつめていた。
まぁ、なんの問題もなかったから良いが。
「えっと、お疲れ様です。今日一日ありがとうございました!」
「あー、いいっていいって、そーゆーの! これから毎日同じだし、そーゆー硬っ苦しいことはなしでいーよ! リュカも疲れてるだろうし、そんなとこで立ってないで寛ぎなー」
俺がベッドに寝転ぶと、リュカはドアの前でビシッと立ち丁寧にお辞儀した。
礼儀正しいというかなんというか……いや、礼儀正しいのはいい事だけど、流石にこれから毎日されるのは申し訳ない。パーティになるという理由で俺は王族の子どもと同等にされたのに、寧ろリュカの方が低姿勢すぎる。
「ほら、こっち座って」
「え、あ、はい。それじゃあ……」
「ん、お疲れ様」
部屋の中で立っているリュカを見て俺はベッドの上で体を起こし、隣をポンポンと叩きながら手招きすると、若干戸惑いながらもリュカは俺の隣に座った。
リュカは俺よりも身長がかなり低いため、隣に並ぶと毎回少し上目遣いになる。そしてそれが、どうしようもなく可愛い。
「そう言えば、多めに採ってたのは売らなくてよかったんですか? たしか五本で銅貨一枚で売れたはずですけど……」
「ああ、あれは売るつもりで採ったわけじゃないから。大丈夫よ」
今回、俺はクエストのノルマ分以外をギルドの買い取りに出さなかった。その理由は単純で、私的な目的で使いたかったからだ。
「リュカの能力に、錬金術ってあっただろ? コンソラ草とかハイルの花はポーションを作る材料になるから、使えるかなって」
そう。リュカは特級の錬金術という能力を持っている。この世界での錬金術は、ポーションや薬の製作を初め、植物や鉱石から様々なものを錬成することが出来る。ポーションは傷を癒すものや魔力を回復させるもの、病気を治すものなど種類が豊富で、錬金術で作れるものの中で最も使用される頻度が高い。
その為、治癒術師と同じくらいに重宝され、物によっては白金貨数百枚の単位で取引されるものもあるらしい。
「え、良いんですか……? ギルドで売った方がお金にもなっていいと思いますけど……」
「うーん……今のところ金には困ってないし、もしもリュカがポーションを色々と作れるならそれを買わなくていい分寧ろ金がかからない。それに、リュカにも採取を手伝ってもらったからな」
「そう……ですか? 分かりました、ありがとうございます! そしたら、何か作って欲しいものってありますか?」
「んー、そうだな……明日辺り討伐クエストを受けようと思ってるから、もしものために治癒ポーションを作ってくれないか?」
リュカもいる事だしそこまでの強敵とは戦わないが、この前のように予想外の敵に遭遇することもある。あれから一週間修行をつけてもらい武器も新調したとはいえ、念には念を入れておいたほうがいい。
「もちろん! そしたら、ハイルの花とコンソラ草を使ってもいいですか?」
余分に採取したハイルの花とコンソラ草を机の上に並べ、その横に空瓶を置く。そしてリュカはその前に腕を捲りながら立ち、深く息を吐いた。
「それじゃ、俺は邪魔するとあれだから外に出てるな」
「え? いやいや、ここにいて大丈夫ですよ! 全然問題ないです!」
「あ、そうなのか? 集中とかそういうのが必要なのかと思ったんだけど……」
「たしかに集中はしますけど、僕は能力が元から特級で、今までも錬金術の練習ならたくさんしてますから! そんなに時間は掛からないですよ!」
部屋を出ようとした俺を、リュカは慌てたように止める。そして俺の要らぬ心配に優しく微笑み、改めて机に向かった。
そんなリュカを見て、俺は気を遣っているのではないかと思いつつもベッドに腰を下ろす。
まぁ本人も大丈夫だと言っているし、不要に音を立てなければ平気だろう。それに、パーティメンバーがどれほどの実力を持つ錬金術師かも知っておきたい。それによっては、今後の旅も大きく変わってくるのだから。
――この世界でのポーション錬成は至ってシンプル。用途に合った植物からポーションに必要な成分を《抽出》し、余分なものを《浄化》によって除去。そしたら取り出したものを《調合》によって混ぜ合わせる。そしてその植物から分離させて新たに錬成した成分を《凝縮》させて、漸くポーションの完成だ。
因みに、熟練度の高い術師や階級の高い錬金術能力を持つ術師の場合、抽出の段階で必要なもののみを取り出すことが出来るため、浄化の工程を省くことが可能だ。
そして――、
「――《抽出》、《調合》、《凝縮》」
俺の目の前で錬金術を披露したリュカもまた、浄化の工程を省いてポーションを錬成した。それも、俺の目では全く何をやっているか分からないほどのスピードで。




