13話:出発の時
爽やかな風が広大な庭園を吹き抜け、庭園を囲むように生い茂る木々の葉を揺らす。地面を覆った柔らかな芝もその風に揺られ、その上には服を揺らされる二つの人影が立つ。
しかし、揺れているのは二人の服だけ。それを纏っている当の本人は、ピタリとも動かない。
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「先ず最初に、大剣は刃が大きく重量も重いため、扱う本人の体がしっかり鍛えられていないと上手く扱えない。僕の場合は大剣の中でも長剣に近いけど、君の大剣はそうじゃない。きっと今造って貰っているのも、似たようなものだろう」
確かに、ライアン様の大剣は俺のイメージしていた大剣とは少し違った。長剣よりもやや太く攻撃を受けた時も重く感じたが、見た目は俺の大剣と大きくかけ離れている。
「そこで、大剣を扱う上で必要なことは自分の体重をどこまで預けられるか。大剣は小回りが利きにくく手数で押せないから、一撃一撃を大事にしなくてはいけない。だからこそ、放つ攻撃には自分の体重を最大限乗せる必要がある。手の力だけじゃ限界があるからね」
「体重を乗せるのは分かってるんですけど、そのやり方がよく分からないんですよね」
「体重の乗せ方は、体全体を使うことが一番大事だよ。手だけ、腕だけ、上半身だけだと、力が出ないだけじゃなくて体を変に痛める可能性もある。足の先から頭のてっぺんまで、全身を使って剣を振る」
そう言って、ライアン様はその場で大剣を振って見せた。地面スレスレで払った素振りで、剣先の芝生が舞い上がる。
確かに、ライアン様の素振りを見る限り腕だけでなく足や腰も使っているな。体重を乗せてるからか、鎌鼬でも起こせそうだ。
「因みに、もっと早く鋭く振れば鎌鼬みたいな攻撃も出来るよ」
いや本当に出来るのかよ!
それなら、炎以外の適性が持てない俺でも風っぽい魔法が出来るのか……ってか、もしかしたら剣とかそう言う武器だけで全部の魔法再現とか出来そうじゃないか?
「まぁ、鎌鼬にせよ何にせよ、基本が出来てないとダメだからね。先ず君には、正確でブレのない剣筋を身に付けてもらうよ」
「剣筋の、ブレ……」
カルロスさんにも言われたが、やっぱり俺の剣筋はブレがあるんだな。分かってたことだけど、やっぱり言われて心地いいものじゃない。
「大剣は鈍器のような使い方もされるとは言え、魔物を相手にするならやっぱり斬ることが大切だったりするから。少しでも剣筋は綺麗な方がいい」
「――分かりました」
「まぁ一回教えれば後は反復練習だから、先ずは今日教えることだけ覚えちゃってね。って言っても、その歳でそれだけの実力があるなら大丈夫だと思うけど」
そう言って、ライアン様は頭の後ろに右手を回して笑う。
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一日目にはオーダンさんから魔力と魔法に関して学び、二日目にはライアン様から剣術に関して学んだ。そしてその後も五日間で様々な戦術を学び、身に付け、俺はたったの一週間でかなりの成長を遂げた。
と言っても、俺の能力の性質では短期間での劇的な変化は望めない。よって、俺がこの一週間で出来たことは、レベルアップでは無い。これから先の努力でレベルアップをするための、進化。つまり、次の段階へのステップアップだ。
「――一週間、ありがとうございました」
王宮の門の前で、俺はスイを抱えながら深々と頭を下げる。
「いやいや、なんてことは無い。ライアンやオーダンとの修行を時々上から見ておったが、それだけで存外楽しめたぞ。面白いやつがいたもんだ、とな」
そう言って陽気に笑うのは、この王宮の主でありこの国の王。スティーブン国王陛下だ。
もうすっかり、最初会った時に感じた厳格さは消えているな。と言うか、俺の修行を見てたのか……
「面白いって……私がですか?」
「ああそうだ。聞くに、Sランク冒険者を目指しているようだな? いいじゃないか、男の夢はそれくらい大きい方が良い! もしも君がAランクまで行った時は、私が直々に鍛えてやろう!」
「こ、国王陛下自らですか!? それは流石に、国王としての職務もありますでしょうに……」
とか何とか言いつつ、俺も別に国王の仕事ってよく分かってないんだよな。他国との話し合いとか、国内外のお偉いさんとの話し合いとか、書類に目を通してサインをしたり?
――もしかして、この国王も案外ティフォみたいに暇なのか?
「そうですよ、陛下には隠居するまで無くならない仕事があります。まぁ、ここ最近のように彼の修行を見るため超特急で仕事を終わらせてくれるなら別ですけどね」
「いやはや、あれは自分でも驚くくらい素早く仕事が出来たな。山積みだった仕事があんなに早く片付くとは」
隣に立つ秘書のような女性に水を刺され、国王は腕を組んでまたもや笑う。
――どうやら、仕事が暇なわけではなさそうだ。
「まぁ、貴方のお陰で陛下の仕事が大方片付いたのは事実です。その点については、私からも感謝致します。そしてどうか、ルーカス様をよろしくお願い致します」
一歩前に出て、秘書は眼鏡を指で上げながらその場で俺に頭を下げる。
いつも食事の時などで国王の横に立っていたが、やっぱり国王の側近の人は皆仕事が出来る人なんだろうか。オーダンさんと同じように皺一つないスーツを着こなす、完璧な女性秘書だ。
「私からも、感謝を。魔導師の称号を得てから指南役として雇用されることも何度がありましたが、貴殿のような才能の片鱗を魅せる方に出会うのは久方ぶりです。とても、有意義な時間を頂けました。今後の貴殿とルーカス様のご武運を、心よりお祈りしております」
「私も、君ならば本当にSランクも目指せるような気がして毎日が心踊らされる日々だった。前にも言ったけど、弟――ルーカスのこと、本当に頼んだよ」
「――オーダンさんも、ライアン様も、ありがとうございました。お二人にお教え頂いたこと、絶対に忘れません。ルーカス様のことも、任せてください!」
オーダンさんとライアン様は、きっとこの一週間で一番俺と関わっていた屋敷の人だ。用事のある時以外は俺の為に魔法と剣を教えてくれて、忙しい時でもその合間の時間を割いてまで相手をしてくれた。
そんな二人に信頼されることはとても嬉しく、誇らしいことだ。二人の思いに応えるためにも、俺はもっと強くなる。そう改めて、心に決めることが出来た。
「ルーカス。これからの冒険者生活は、今までの時とは違い殆どここに帰って来ることはできない。でも、今までのように一人でもない。何かあった時は、アルフェイルくんと共に乗り越えるんだぞ」
「は、はい。分かりました……!」
「アルフェイルくんも、ルーカスはまだまだ冒険者としては君の足を引っ張るかもしれないが、どうか見捨てずにいてやってくれ。多分、ルーカスの能力の鍵は君が握ってくれているのだと思う。だからどうか、ルーカスを幸せにしてやってくれ」
そう言って、国王はルーカス様の背中を押しながら俺に頭を下げた。
きっと、これは国王としてではなく一人の父親としての願いなのだろう。
実際俺はその状況に至ったことはないが、父が娘を嫁として送り出すのに似てる気がする。ドラマとかでも見られそうなこのシーン、もし前世で俺が体験してたら、こんな感じだったのかな。――俺の性癖上そんなことには至らないが。
まぁ、何はともあれルーカス様の事は一週間前から引き受けてたし、そもそも俺にはその義務がある。
「勿論です。まだまだ未熟ですが、ルーカス様のことは俺に任せて下さい。きっと、必ず、幸せにします!」
そう断言し、俺は国王と真っ直ぐ目を合わせた。この時の俺の顔は、きっと程々にカッコよくキリッとしていただろう。
しかし、それなのにも関わらず、何故か、国王は今になって首を傾げた。
「――うーん。やっぱり、なんか違うよなぁ……? そう思わないか?」
――え? 何? 何で首傾げるの?
んでもって、何でオーダンさんたちも苦笑いで頷いてるんだ?
「――えっと、どういう……? もしかして、やっぱり私では任せられないですか……?」
「いや、そうじゃなくてだな。任せられるとも思うし、任せるんだが……」
そう言って、国王は顎に手を当てて唸りながら俯く。そんな国王の様子に、俺は意味がわからず冷や汗を流しながらおどおどとする。
「やっぱり、これから同じパーティメンバーになるのに様付けと敬語はおかしいな。――よし。今後、アルフェイルくんはルーカスへの敬称付けと敬語は厳禁。ルーカスは、まぁ年下だから敬語はありとしてさんじゃなくてくん付で呼ぼう!」
え、え……
「――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」




