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12話:再確認

 日も西に落ち、窓の外は月と星が輝くほど暗くなった夜。俺はベッドの中でスイを抱きながら、今日習ったことを思い出していた。


 今日の午前中は、魔法と魔力についての座学。魔法と魔力への知識が乏しかった俺に、オーダンさんは基礎の基礎から教えてくれた。

 それも、勉強嫌いだったはずの俺が夢中になって聞き入るほど分かりやすく。


 先ず、魔力というのは誰にでも備わっている体の動力源。体を動かす時も、ただ生きているだけでも、魔力というものは消費される。そんな誰にでも備わっていて誰でも無意識に使っている魔力を具現化させるのが魔法。

 元々は無色の魔力を、脳内のイメージで火や水に変換する。変換の速度や行い易さは、本人の素質や能力(スキル)にも左右される。

 俺の場合は父さんからの遺伝で炎が多少扱いやすくなるが、他は全て平均よりもやや下レベルだそう。これは午後に行った魔力をコントロールする実践でオーダンさんに診て貰った。

 魔法にも少し期待していた反面ややショックだったが、他色への変換が難しいだけで魔力はやはり多いらしい。魔力の色の変換は、火なら赤色、水なら青色、風なら黄緑色、土なら茶色といったようにそれを連想させられる色への変換らしい。

 つまり、俺は体の中の無色の魔力をそのまま使える強化魔法や、念力のようなものは練習次第でかなり扱えるようになると言う。

 確かに、強化魔法は俺もこれまでそこそこ扱えていた。念力、と言うのは今日初めて聞いたが、明後日以降でそこの所を詳しく教えて貰える予定だ。


 そして次は魔法について。

 この世界では、四大属性と呼ばれる火、水、風、土の主属性に加え、特殊属性と呼ばれる闇と光。他にも雷や音といった副属性も何種類か存在するらしい。そしてそのどの属性にも属さないのが、どの色にも変化させない元のままの魔力――無色の然と呼ばれる属性だ。

 つまり、俺の属性は然となる。


 因みに、治癒魔法やバフは光。呪術やデバフは闇に属すらしい。


「一日に習ったことをここまで覚えてられるとか、(前世)じゃ考えられなかったよな」


「キュキュー?」


「んん、こっちの話。明日も朝は早いし、もう寝よーな」


「キュー!」


 そう言って、スイを抱く力を少し強めると、スイは嬉しそうに鳴きながら俺の胸に頭を押し付けてくる。そんなスイが、やはりとてつもなく愛らしい。

 ひんやりとしたスイの体を抱きながら、今日も俺は気持ちよく眠りにつく。


 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲


 そして次の日。朝食を終えた俺とライアン様は、そのまま一緒に中庭へ向かった。


「先ず最初にこれだけは言っておくけど、君は自分が思うほど弱くない。確かに、父上やカルロスさんと比べれば赤子同然かもしれないけど、同年代の子が相手ならまず負けることは無いよ」


「それは分かってます。俺も、自分の実力に悲観的になってるわけじゃありません。でも、それだけじゃダメなんです。俺は、父とSランクの冒険者になると約束して出てきました。なので、今のままじゃダメなんです」


 Sランク冒険者。そんなものに簡単になれるわけがない。多くの人が、そう言って嘲笑うだろう。

 しかし、俺も父さんも本気でそれを夢見ている。俺がSランク冒険者になることを、本気で信じている。だからこそ、誰がなんと言おうと、俺はそれを諦めるわけにはいかない。


「Sランク冒険者……それは、父上と同じくらいの実力になるってことだよ? そうなる為には、私とオーダンの二人くらい軽く倒せるようにならないといけない。因みに父上は、私とオーダンが二人掛かりで挑んでも一発入れるのがやっとだったからね」


「――」


 語られた生々しい体験に、俺はゴクリと喉を鳴らす。

 今の俺では、二人同時どころか一体一でハンデを貰ったとしても勝てないだろう。超戦士と魔導師の称号を持つ二人では、Aランクの冒険者パーティと同程度の力を持つに違いない。そしてそんなAランクのパーティが徒党を組んでも勝てないのが、Sランクの冒険者だ。


「それでも、俺はそれを目指します。そのための努力なら、俺は何も惜しまない。お願いします。俺に剣を、戦い方を、教えて下さい」


 言い切り、俺は深く頭を下げる。いつかは超えなくてはならない相手を前に、今はその相手から教えを乞う。


『解を知るには方式を、解を壊すにも方式を』


 戦いに於いて強くなるためには、その戦い方を知らなければならない。相手の戦いを壊すためにも、その戦い方を知らなければならない。

 国王から教わったであろう戦い方を学べば、ライアン様や国王にも追い付ける。そしてそこからの努力で、それを超すことも可能になる。


「――分かった。そこまで本気なら、私も教えられる全てを教えるよ」


「本当ですか!? あ、ありがとうございます……!!」


「まぁ、そうすれば君がSランクの冒険者になった時に昔の師として名を売れるからね。Sランクになった君を育てたとなれば、Sランクになった君を敬う冒険者の票も入るだろうし」


 そう言って、ライアン様はニッコリと笑う。


 流石、こっちも本気で王座を狙っているだけある。こんな数日間の関係でも、そこから出るかもしれない将来の利を考えている。

 まぁ、王選でもあれば俺もライアン様に票を入れるだろう。今のところ、次男のあの人とは関わりもないしな。


 この王国では、国王の血を引く長男と次男には王になる資格が与えられるらしい。どうして次男までなのかは分からないが、三男であるルーカス様は原則として国王になる資格がない。自由の身と言えばそうでもあるが、それなら次男の方がどちらも選択出来て都合がいい。

 よって、王族にとっての三男の扱いはかなり極端に分かれる。


「まぁそうでなくても、君にはルーカスを守ってもらわないとだからね。――ルーカスのこと、頼んだよ」


 三男であるルーカス様の扱いは、心の底から可愛がられるか、忌み子のように嫌われるかだ。

 幸いなことに、ルーカス様は両親やライアン様、オーダンさんを含む屋敷の中の従者からも可愛がられている。が、しかし。勿論ルーカス様を嫌う者もいない訳ではなく、その筆頭となるのがゲイル・フォン・グレイス。家名から分かるように、グレイス家の人間。それも、ライアン様と王の座を争おうとしている次男だ。

 王の資格を持たない三男の立場にあるにも関わらず、国王である父、スティーブンを初めとした周りの人々から好かれていることが気に入らないらしい。

 食事の時に何回か顔を合わせたが、ルーカス様に対する目付きは一際厳しく、ルーカス様とパーティを組む俺に対する対応も塩。ゲイル様が俺に対して放った言葉はたった一つ――「フン」と言う嘲笑だけだ。


 そんなゲイル様の態度にはライアン様も頭を悩ませていて、いつあるかも分からないゲイル様からルーカス様への攻撃に気が気でないらしい。だからこそ、近くでいつでも守れる存在が必要。俺を鍛えてくれるのも、少なからずその気持ちがあるのだろう。

 そして、俺もそんなルーカス様を守りたい。会ってまだ少ない日数だが、ルーカス様は俺が望んでティフォが接触する機会を与えてくれた存在だ。

 それなら、俺には守る責任もある。


「勿論、それは任せてください。俺が絶対、ルーカス様を守ります。俺が強くなるための理由には、それもありますから」


「そう断言してもらえると、私も安心出来るよ。とは言え教えられる時間も限られてるから、早速始めようか」


「はい! よろしくお願いします」


 そう言って、Sランク冒険者の実の子どもでありルーカス様の実の兄であるライアン様から、俺は愈々今後の戦いの主となるであろう剣を学ぶ。

 念願と約束であるSランク冒険者を目指し、これからパーティメンバーとなるルーカス様を守るために。

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