10話:超戦士と魔導師
『解を知るには方式を、解を壊すにも方式を』
『同なら全て均等に、全に等しく愛を与えよ』
その二つの言葉が頭の中を目まぐるしいほどに駆け回り、軈て意識が覚醒する。
確かに神託っぽいっちゃぽいけど、最後に畳み掛けるのだけはどうにかしてくれないかなぁ……
「っと、スイが起きる前に戻らないと、また心配かけちゃ悪いしな。急いで帰るか」
そんな独り言を呟きながら、俺は少し足を急かせて王宮に戻る。
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王宮に戻ると急いで仮の自室に向かい、俺はそっとドアを開けた。
「――スイー……は、まだ寝てるな。よしよし」
魔物も動けば眠るし、眠ればその瞳も閉じる。そんな寝顔がとても愛らしく、俺は起こさないようにしながら隣に寝転がる。
「こんな可愛いスイに心配かけるなんて、俺は本当に馬鹿だな」
目の前で寝ているスライムを擦りながら、俺はふと今朝のことを思い出す。
スイが待っているという部屋の扉を開けた瞬間、スイは俺が来ることを分かっていたかのように瞬時に飛び付いてきた。そんなスイを受け止めて顔を合わせると、スイは心配そうな寂しそうな顔をしていた。
「心配かけて、ごめんな。寂しくさせて、ごめんな」
寝ているスイを撫で続けながら、俺は静かにそう呟く。
聞こえているはずもないが、今はそれでいい。スイには起きたあとでしっかり謝るし、今は俺が謝りたいだけだ。謝って、謝って――、
「心配も、寂しい思いもさせないように、俺はもっと強くなるから。お前には、二度とあんな顔させない。俺はお前が大事で、お前が好きだから。これからも、ずっと一緒でいような」
そう言って、俺は執事のオーダンさんが呼びに来るまでスイの横で転寝した。
スイの目が微かに開いたことに気付かぬまま――。
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その日は王宮で夕食を一緒に頂き、その後は大きな湯船に漬かって疲れをとり、スイと一緒にぐっすりと眠った。
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次の日、目を覚ました後の俺はまたもや王宮で朝食を一緒させてもらい、その後仕事に入る前の国王から僅かな時間を貰った。
「――俺に、剣の指南役を紹介して下さい!!」
国王の職務室に入るや否や、俺はその部屋の中央でいきなり頭を下げた。正座の姿勢から両手を顔の前に突き、その後顔を地面に付ける――土下座だ。
こっちの世界で、この土下座がどんな扱いをされているのかは分からない。それどころか、そんな作法が無いかもしれない。
しかし、それを承知の上で俺はこれを選んだ。
「――中庭に行くが良い。そこに、君が望む者を待機させている」
「え……?」
下げた頭の先から聞こえた国王の声に、俺はだらしない声を漏らした。
俺がルーカス様を救った分は、鍛冶師とその他国王の人脈の紹介でチャラになったはずだ。これでその件への貸し借りは無くなり、俺は対価を貰った。
なのに、それ以上の願いを、しかも国王にしたのだ。それなりの対価は要求されると思って、昨日から今日にかけて何が支払えるかをずっと考えていた。屋敷での労力か、冒険者になったあとの出世払いか……俺に出来ることならば、なんでもしようと思っていた。
しかし、国王はその対価を要求することなどなく、ましてやもう手配していた。俺がこの要求をすることを知っていた――?
「昨日の、王宮を出て行く前と夕食の時で、君の目付きが変わっていた。きっと、あの口足らずのカルロスに色々と言われたのだろう? アレは昔から肝心なことを相手に伝えないことがあったからな。彼奴の説明不足で作らせた武器の新機能に何度驚かされたことか――」
「あ、ははは……そうなんですね」
口足らず……
まぁ、国王の言うことに間違いはないのだろう。
しかし、カルロスさんの言ったことは全て合っている。不足していることがあるだけで、間違っていることは無い。俺の実力がまだまだなのは、どう転んでも変わりないことだ。
「まぁ、君が強くなることは私としても嬉しいことだ。ほれ、早く中庭へ行くが良い。君の師となるであろう者を待たせるのは良くないぞ」
「あ……はい! ありがとうございます! この御恩はいつか必ず!」
「これを恩と思うのなら、ルーカスを一人前の冒険者にしてやってくれると嬉しいな」
「――。はい! 分かりました! 必ずや、私が責任を持って!」
そう言って、俺は国王の職務室から中庭へ向かった。
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王宮の中庭は、意味がわからないほどに大きい。俺のいた学校の校庭よりも明らかに広いのに、そこにあるのは色鮮やかに生い茂る花と草木だけ。地面は芝のようなものが生えているところと普通の土のところで綺麗に分かれていて、きっと用途が違うのだろう。
そんな広くも手入れがきちんと行き届いた庭の真ん中に、二つの人影が見えた。
「――やっと来たね。父上の言うことだから間違いは無いと思ったけど、父上もよく見ている。私には全然分からなかったからね」
「まぁ、ライアン様は最初の彼の顔を見ていませんから。とは言え、私にも分からなかったのですが。流石旦那様ですね」
あれは……ライアン様とオーダンさんか。
たしか、ライアン様はグレイス王家の長男だ。昨日の夕食の時に会って軽く挨拶したくらいだが、流石王国を継ぐと言うだけあってその人の良さは直ぐに伝わった。
「えっと……ライアン様に、オーダンさんですか?」
「やあ、朝食ぶりだね。父上に言われてきたのだろう?」
「は、はい。中庭に行けと言われて……」
「それなら、ここであっていますよ。私とライアン様は、旦那様からアルフェイル様の剣と魔法の指南役を頼まれてここに来ましたから」
剣と、魔法の……たしか俺が国王に頼んだのは剣だけだったはずだが、まぁ魔法も教えて貰えるのならそれに越したことはない。流石に二つは厚かましいかと思って剣のみにしたが、先に俺の考えを読んでいた国王は二人とも手配してくれてのか。
「そう言えば、ちゃんとした自己紹介をしたことはなかったかな? ――これは昨日も言ったけど、僕はこのグレイス家の長男、ライアン・フォン・グレイス。そして、『超戦士』の称号を持っている戦士だよ」
――超戦士、って言ったか……?
え……今ライアン様は、超戦士の称号を持っていると言ったのか?
超戦士って、戦士の中でも一定以上の実力と功績を持たないとなれないアレだよな? 普通の戦士よりも数倍、数十倍強いっていうアレだよな?
俺の職業は一応戦士だけど、戦士の称号すら持ってない。でも、ライアン様はその戦士の中の上級職、超戦士を持ってるのか……?
「そして私は、魔導師の称号を持つ魔術師です。現在は王宮で執事の役割を担いつつ、王国筆頭魔術師としても仕事をしています」
魔導師……は、たしかこの世界だと魔術師の上位階級の称号だったか? 超戦士と同じで騎士って称号の中の聖騎士を指す立ち位置だったから、超戦士のライアン様とも職種が違えどその職業に関する立ち位置は同じ……
二人とも、その道を極めたごく一部の人しか持つことが出来ない称号を持っているのか……?
「まぁそういうことで、これからは私たちがアルフェイル君にそれぞれの技術を教えるから。短剣と弓はあまり使わないけど、アルフェイルくんがメインで使う大剣と槍は得意だから、任せてね」
「私は空間魔法を得意としていますが、治癒や付与などの支援魔法以外は全て扱えるのでご安心ください」
ライアン様は、俺の得意な大剣と槍が。オーダンさんは、俺が上手くなりたかった攻撃用魔法が使える。
弓と付与も俺は使うから教えてもらいたかったけど、それでもまさかそんな人から教えて貰えるなんて……
まぁ、この国の殆どの人に話を付けられるであろう国王がこの二人を選んだのなら、やっぱり俺と似ているからという考えもあったんだろう。でも、そんなことはどうでもいいくらいにこれは人生最高の僥倖だ。こんなチャンス二度とないかもしれないし、これはこの一週間絶対に無駄には出来ない……!
何としても、二人のその技術を身に付けて強くならないと……!




