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9話:神託

 離れることを寂しがっていたスイを宥め、結局スイが眠るまで一緒にいた。朝王宮を出て昼食を済ませてから戻り、それからスイが眠るまで数時間。結局夕方近くになってしまったが、ティフォたちのいる世界とこっちの世界では時間の進み方が違う。夕飯は一緒に食べようと誘われたが、それまでには戻れるだろう。

 まさか、こんなに自由に王宮を出入り出来る人生になるとは思っていなかった。


「――と、この像も久々だな。前と違う場所なのに、これはほぼ同じか」


 今いる場所は、能力(スキル)を授かる所とは違う祭壇。能力(スキル)を授かる場所は入口から見て左で、今いる場所は正反対の右。正面は限られた人しか入れない特別な祭壇らしい。

 まぁ、俺は神託(オラクル)があるからどこでも同じなのだが。


 そんなことを思いながら、俺は石像の前で手を合わせる。すると温かな光に攫われ、次の瞬間俺は別世界で意識を覚醒させる。


「やっと来たなー! ケッコー待ったぞー!」


 久しぶり聞く無邪気な声がとても懐かしく感じられ、俺の口角は自然と上に上がった。


「久しぶり。中々こっちに来れなくてごめんな」


「ホントホントー! ティフォってばずっと待ってんのにー! もー!」


「ごめんごめん。ティフォが転生させてくれた世界が楽しくてさ」


 頬を膨らませて怒るティフォに、俺は笑いながら謝る。


 神様に対してこう思うのはどうかとも思うが、怒っていてもやはりティフォは可愛い。そんな高貴な感じも殆どなく、話しているだけでも心が落ち着く。


「んー。まぁティフォはしっかりヌシのキボー通りにテンセーさせたかんなー。スライムとルーカスはどー? カワイーでしょー?」


 やはり、ルーカスは俺の最初に望んだ約束での出会いか。まぁそれは分かってた事だけど、スライムってことはスイもそうだったのか?

 そう言えばスイがあの時逃げなかったのは、そういう意図があった生まれた存在だったからか……?


「スイはねー! ティフォがヌシの為に生んだんだよー! フツーは一番最初にドンって出来てそこからグルグル回るんだけど、スイのはティフォが新しい命作ったの!」


 そうか。普通なら、人間だけじゃなく他の生き物も転生して循環してるのか。でもスイの場合はティフォが新しく命を作って――って、命を新しく作るっても出来るのか。

 そう言えばスイの喋り方もティフォに似てる気がするし、それもティフォが一から作った影響か?


「いっぱい作る時はテキトーに作れるけど、一つだけ作るとティフォに似ちゃうのー! でも別に違く作ろうとしたら作れるし、てゆーか他のより強くしたんだからいーでしょー!」


 お、久しぶりに心の中を読まれたな。

 少しムキになって赤くなるティフォも可愛い。スイもこうなったりするのか? 今度から意識的にティフォと比べてみるか。


「まーそんなことよりさー! ヌシはホントに今のセカイ楽しー? なんかここに来る前落ち込んでたでしょー」


 ん? ああ……カルロスさんのところで色々気付かされてから、確かにどうも気分が上がってなかったな。そう言えば、その事も相談しようと思ってたんだった。


「――なぁ、ティフォ。俺の能力(スキル)って、どんくらい努力すればどんくらい強くなるんだ? 限界がないのは嬉しいけど、成長の速度がイマイチなんだ」


「えー? んー……ティフォはそーゆー難しいこと分かんないなー。セバスにきーてみよ! セバスそーゆーの詳しい!」


 そっか。確かに、ティフォは気分で動くし、そもそも何でも出来るからな。こういうことには疎くても仕方ないか。


「お呼びですか? ――おや。これはこれは、お久しぶりですね。どうかしましたか?」


 呼ぶ――と言うか、話に出しただけで、セバスさんはどこからともなくふと現れた。


 全知がセバスさんの凄いところなのに、呼ぶ前に一瞬で来るとは。意外とこっちもチートだな。


「いや、実は元Sランク冒険者の人と手合わせをしたんですけど、本当に足元にも及ばなくて。それで圧倒的な実力差を見せつけられた後にダメなところを言われて、それは全部分かってるはずだったのに、最後まで真面に聞いてられなかったんです。それに、知らず知らずのうちにどこかで自惚れてたみたいで、俺の努力が間違っていたのか、出来てなかったのか、自信が持てなくなって……」


「そうでしたか。ですが、元Sランクということは確実に貴殿よりも歳上ですね。そこで、貴殿はきっと負けると思っていたと思います。――でも、負けることを想像していなかった。何処で負けるのか、何故負けるのか、勝つイメージが無かったのと同時に、負けるイメージもなかったのでは無いですか?」


「――っ」


 ――確かに。負ける、という事実は分かっていた。でも、どう負けるかなんて……相手の戦い方もわからないのに、どう負けるかなんて分かるはずもない。それは、当たり前の事じゃないのか?


「負けるイメージが湧かなかったのは、貴殿が負け慣れていないからです。相手がどう戦うにせよ、押して負けるか押されて負けるか、ギリギリで負けるか圧倒的に負けるか、近距離で負けるか遠距離で負けるか、負け方は色々あります。そしてその全ての負け方を、貴殿は体験したことがなかった」


 まぁ、この世界に来てから本気で負けるのは初めてだ。それも、あそこまで圧倒的な差をつけて。そもそも、実戦経験すら俺は少ない。相手の出方もそれに対する対応も、俺は全く知らないまま戦っていた。


「戦いで勝つことに必要なのは、努力と経験です。努力――例えば素振りを何十年もやったところで、実戦になれば相手に合わせなければならない。経験だけを積んだところで、強くなろうとせずにいなければいつまでも勝てない。貴殿には、戦闘という実戦と、勝敗という経験があまりにも少なすぎます」


 言い切って、俺はセバスさんに真っ直ぐ見つめられる。

 セバスさんの言うことは、事実正確に的を射ている。きっと、ティフォと一緒に俺の生活を覗いていたのだろう。

 確かに俺には実戦が少なく、そに伴って勝ちも負けも経験が少ない。どうすればいいか、どうしたらダメか、その知識が絶対的に少ないのだ。


「貴殿は、成長が出来ていない訳ではありません。成長するために――次の段階に行くために、必要不可欠な経験が足りていないだけです」


 次の段階に行くための、経験……

 その経験と言うものが積めれば、俺も次の段階に踏み出せるということか?


「貴殿の好きだったゲームで言うのなら、レベルは最高値。でも、進化素材が足りていない――みたいなことでしょうか。心当たり、ありませんか?」


 ――なる、ほど?

 確かに、ゲームじゃSSRをレベルMAXにしてもURに進化させなきゃダメだな。星五も星六に、星七に、星八に……


「――ふふっ」


 セバスさんの言葉は、間違いなくソシャゲ系統の例えだ。何処から、と言うか誰からそれを見ていたのかは分からないが、そこまで見ていることが意外だった。ティフォが見ているならまだしも、意外とセバスさんも興味があるんだな。


「何か?」


「いえ。セバスさんって、そういうことも知ってるんだなぁって。色々見てるんですね、セバスさんも」


 そう言って、笑いかける俺に、セバスさんは少し気恥しそうに一瞬目を反らした。しかしその後コホンと咳払いをし、若干赤らめた頬が白く戻ってから俺に再び向き直る。


「ま、まぁ、ティフォ様の付き添いでしたり、そうでなくても全知の肩書きがありますしね。必要な知識です」


 ――ま、そういうことにしておこう。

 セバスさんの意外な一面、まだまだありそうだな。


「それで、答えは見つかりましたか?」


「――――はい。まだそれが正解かどうかは分からないですけど、一応」


「そうですか、それなら良かっです。因みに、それを自らの手で正解にするのもまた一興ですよ」


 自らの手で、自らの答えを正解に――か。意外と強引なところもあるんだな。早速、セバスさんの意外な一面第二弾だ。

 平然とした顔でスラッと言ったけど、それがどんなに難しいことか。それすらも分かってる、でも、俺なら出来るだろう――いや、するだろう、って顔か。

 神の領域にいる人たちは、結構なことを期待して来るんだな。平々凡々な人生を送ってた俺に。


「分かりました、どうもありがとうございました。ティフォも、ありがとな」


「――んっ!? ん? んー!」


「寝てたな……」

「寝てましたね……」


 セバスさんとの話が終わってティフォに目を向けると、いつの間にかうとうととしていたティフォ。

 俺の呼び掛けにバッと顔を上げて目を覚ましたが、可愛い顔のクリクリおめめが微妙に開ききっていない。そんな眠そうな目を片手で擦り、ティフォは若干潤った目を俺に向けた。


「もー帰るのー?」


「うん。もうそろそろ時間だろうし、帰るよ」


「んー、そっかぁ……あんま話せなかったなー」


「そうだな、また近い内にもう一回くらい来ることにするよ。そん時は色々話そーな」


「ん、分かった! ヤクソク!」


 そんな約束を交わし、俺は二人から少し離れたところに移動して手を振る。


「あ、そうそう。神託らしい助言を、最後に一つ」

「あ、ティフォもティフォもー!」


「えっ、ちょ、二つ一気に!?」


 帰り際いきなりの二人の言葉に、俺はあたふたと戸惑った。しかしそんな俺を無視して、二人は同時に――しかししっかりと分かれた形で、俺の脳に言葉を残した。


『解を知るには方式を、解を壊すにも方式を』


『同なら全て均等に、全に等しく愛を与えよ』




 またもや最後に畳み掛けられ、俺は頭を困惑させながら光に体を包まれた。

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