8話:圧倒的実力差
カルロスさんの後を追い店の奥へと入って行くと、そこには地下へ繋がる階段があった。そしてその石造りの階段をどんどんと降りて行き、カルロスさんは階段下にあった大きな扉を開く。
「さぁ。ここなら思う存分、手合わせできるな」
「ここは――?」
何分も掛けて降りた先――階段下の開かれた扉の奥には、広く大きな空間があった。その空間の周りには無数の穴があり、台車やら鶴橋やらが綺麗に置かれている。
「あれ、カルロスさんじゃないっすか。どうしたんです?」
そのだだっ広い空間を見渡していると、奥にある穴の一つから一人の男が現れた。泥の付いた作業服に厚手の軍手、ライトの付いたヘルメットを被っている男は、土の入った台車を転がしながらカルロスさんに声を掛けた。
「ああ、気にするな。ちょっとここ借りるぞ」
「また実力調べっすか。――って、そんな子どもと!? ははっ、おい坊主。カルロスさんはマジで強ぇからな。気を付けろよー」
それだけ言うと、男はまた穴の中に空の台車を押して戻って行った。ここは炭鉱か何かか?
「すまんな。ここは国が動かしてる地下の炭鉱で、近くの鉱山にも繋がってんだ。ここはそんな鉱夫たちが鉱石を運ぶ中継地点にもなっててな。まぁここじゃ勿論儂の顔が利くから、安心しろ」
なるほど。ここは元々カルロスさんが使っていた炭鉱で、きっと国王との仲で国でも使わせくれということにでもなったのだろう。それでそんな各所に広がる道の中継地点が、この空間ってことか。
「まぁ、儂もお前さんも暇じゃないだろ。早いとこ始めるとしよう。準備は良いか?」
そう俺に問掛けるカルロスさんの手にあるのは、刃が柄の半分ほどもある両刃斧だ。銀色に光る刃はかなりの傷と汚れで年季を感じさせるが、決してボロい訳では無い。今も尚輝き続けるあの斧は、素人目から見ても十分にわかる。
――あの戦斧は、まだまだ現役で生き続けている。もしもカルロスさんが本気で斬りかかりに来れば、俺の今の大剣など容易に真っ二つだろう。
しかし、俺は退くわけにはいかない。ここでの戦いで、何かしら新しいヒントを見つけ出す。
ゴクリと喉を鳴らし、俺はゆっくりと大剣を構えた。
「――はい、大丈夫です」
「使える手は全部使って来い。魔法もスライムも、全てだ。武器だけでお互い対等に――なんてつまらないこと考えるなよ? お前さんにその余裕はない」
確かに、相手は元Sランクの冒険者。俺がどんな手を使って本気を出しても、勝てないことくらい目に見えている。だから、俺はそんな配慮などしない。
殺す気でかかったところで、一撃入れられるかどうかも怪しいんだ。ここは何の躊躇もなく、全力でいこう。
――筋力強化、脚。
「――スイ!」
「キュッ!」
一度構えた大剣を降ろし、俺は扉の傍で待機させていたスイに声を掛ける。そしてそのままカルロスさんを見据えながら後ろに跳び、スイから投げられた弓矢を取る。
「――ハッ!」
空中で受け取った弓を構え、三本の矢を一気に弦にセット。そのまま力強く弦を引っ張り、三本を同時に放つ。
「ほう。遠距離攻撃とは考えたな。しかし、三本では全く足りんな!」
空中から放った三本の矢を目掛け、カルロスさんは斧を構えながら跳躍。そのまま宙を走る矢に近付き、大きな戦斧をバトンのように回しながら三本の弓を全て防ぐ。
「――さぁ、防いでみろ!」
グルグルと回した斧を空中で構え直し、斧を振り下ろしながら降りて来る。
しかし、あの高さであの大きさの斧を受け止めるのは困難だ。いくらカルロスさんが手加減をしてくれるかもと言っても、その時点できっと負けは決まる。――そんな早い段階で負けてたまるか。勝つのは不可能でも、一矢――いや、一槍報いてやろう。
「――うぉらァッ!」
叫び、俺は上から降ってくるカルロスさんを目掛けて右手に持っていた槍を投じた。
「む!?」
真下から一直線に放たれた槍に、カルロスさんは俺に合わせて振り下ろそうとしていた斧を槍に合わせて振り下ろした。案の定俺の槍は弾かれ、そのまま遠くに叩き落とされる。
――しかし、それでいい。槍一本程度で元Sランク冒険者に勝てるとは思っていない。今の槍は囮で、本命は――、
「――フレイム!」
――あのオーク戦。元々魔法を使っていなかったから、俺はブレイズがどれほどの威力でどれほどの魔力を消費するか知らなかった。と言うか、努力不足によって魔力が制御出来ず、ブレイズに必要な魔力をごっそり持って行かれたのだ。
だから、今回はブレイズの下位互換――フレイムで様子を見よう。
この炎は、人に当たればどれほどの――、
「――んんんむっ! ハァッ!!」
「――」
――当たれば、どれほどの?
馬鹿なのか俺は。いつから、元Sランク冒険者のカルロスさんに魔法を当てられると自惚れていた? この人の真の実力は知らないにせよ、俺ごときの魔法が当たるわけもないだろう。
カルロスさんは、矢を防いだ時と同じやり方で俺の放った炎を蹴散らした。
「考えられてはいるが、やはり実力――いや、努力不足だな」
「――くっ!」
放たれた炎を全て蹴散らし、カルロスさんは今度こそ俺に向かって戦斧を振り翳す。その攻撃に、俺も慌てて大剣を持ち、既のところで斧を受け止める。
「がっ、あァ……っ!」
一瞬の斬りではなく、継続的な押し。大剣に支えられる斧に体重を掛け、カルロスさんは未だ地面に足を付けていない。それなのに、足で踏ん張ることの出来ないはずのカルロスさんからは、未だ押さえるのでやっとな程の圧力が掛かる。
「あ、がっ……ぐっ! んっ……んんッ!」
そんな圧力に何とか耐え、俺は大剣を斜めにする。そして俺に圧力を掛けていた大剣を滑らせ、弱まった瞬間を見計らって一気に抜く。
そこからはまた息付く間もなく、自ら攻撃を仕掛ける。
「ふアッ! ハッ! おァッ!」
右、左、上、下、正面――斬り、薙ぎ、払い、掬い、押す――!
数多の方向から、数多の攻め方。しかし、俺の全力の攻撃全てを、カルロスさんは悉く防ぐ。
「――ん。お前さんの実力は大凡分かった」
「――?」
攻撃を防ぎながら、カルロスさんは余裕の表情で俺に話しかけてくる。しかし、今の俺にはその言葉を理解する余裕もない。今の俺には、カルロスさんの放つものを、言葉ではなく音としか認識出来ないのだ。
普段なら――というか大体の人間が無意識に出来る言葉を頭で理解する工程。そんな簡単なことが、今の俺には出来なかった。
「――終わりだ」
言葉は、理解出来ていなかった。カルロスさんの口から放たれた、その小さな声を、言葉を、俺は理解出来ていなかった。
しかし、
――終わった。
それだけは、理解出来た。無論、カルロスさんからの言葉ではなく、今のこの、目の前の現状で。
――ガンッ!
という鈍い音が響き、その音により俺は普段の俺に戻った。
「お前さんの実力は、大方理解出来た。剣筋のブレ、手足のズレ、思考の遅延、振りへのラグ、力の入れどころも抜きどころも――」
上げていけばキリがないとばかりに、俺は自分の戦闘の至らなさを言葉で叩きつけられた。
自惚れてはいない、過信もしていない。頭の中では、常にそう思っていた。それをしてはいけないとも、しっかりと実力を把握しているはずだった。なのに、この戦闘では一瞬自分の力を過信し、今言われていることも分かっていたはずなのに耳が痛い。
本当にわかっていたのなら、きっと今の言葉もきっと受け止められただろうに。いつから自分の実力を過信していたのだろうか……
その後は、約束通りスイを少しカルロスさんに見せ、王宮に戻った。
ルーカス様の支度と俺の武器が完成するまでの間は、王宮に止まっていていいとの事。国王の手厚い対応に甘え、一週間は王宮で寝泊まりさせてもらうことにした。
そして俺用に貸してもらった一つの客室にスイを置き、俺は一人で教会に向かう。今回のことと、これからのこと、ティフォとセバスさんには、色々と話したいことが出来てしまった。




