7話:鍛冶師カルロス
先の対談の後、俺は預かられていたスイと大剣を引き取り、紹介された鍛冶屋に行くため一度王宮を出た。
「どうだ、スイ。これからの冒険はルーカス様と一緒だ。楽しくなりそうだな」
「キュゥ……」
「ん? 何だ? どうした、スイ?」
少し気分の上がっている俺に対し、腕の中にいるスイは何やら元気の無い様子だ。腕の中で少し体を小さくして、ため息のような鳴き声を出す。
昨日からずっと顔を見せてなかったからだろうか? 確かに迎えに行った時は顔を合わせた瞬間に飛びつかれたから、寂しい思いをさせたのは間違いないだろう。突然倒れたのだし、心配もかけていたかもしれないな……
『アルはこれからどこ行くのー?』
「ん? あぁ。新しい武器を買いに行くんだよ。国王様から鍛冶屋さんを紹介してもらったから、ちょっと挨拶しに行くんだ」
『そっかー』
いつもと喋り方は変わっていないが、やっぱり何となく元気ないな。まぁ今日一日一緒に過ごして明日になればいつも通りに戻るか。あんまり心配しすぎて過保護になってもアレだしな。
そんなことを思いながら地図を見て歩いていると、それらしき鍛冶屋が見つかった。
「国王陛下御用達の鍛冶屋が、こんな路地裏にひっそりと……知る人ぞ知る、って感じだな」
国王に渡された地図通りに進むと、いつの間にか王都の大通りから大きく外れた裏路地に来ていた。そしてふと顔を上げると、そこには如何にも歴史ありと言った風格の店がどんと構えてあった。
「あのー……」
「――ん? 何だ、珍しい客が来たもんだな。お前さんくらいの若造じゃ表にある立派な店に行くもんだが」
確かに、国王などという国のトップと会っていなければこんな隠れ家的な店とは縁がなかっただろうな……
ゆっくりと扉を開けて中に入ると、奥から屈強な体の低身長の男が出てきた。頭には薄汚れた頭巾のようなものを被り、長く立派な白い髭を生やす、彫りが深く厳格な面持ちの男。褐色肌の体は、かなり歳のいってそうな顔からは想像出来ないほどの筋肉がある。服も体も汚れと傷だらけで、その風貌からは熟練の風格がある。
「あ、えっと……アルフェイル・フロンティアです。今って営業してますか?」
「どんな時でも、客が必要としたんならその時点で営業開始だ。儂はこの店の主、カルロス・スミス・ファウゼン。見ての通りドワーフだ」
ドワーフ……なるほど。確かに言われてみれば、俺の知ってるドワーフのイメージと似てるな。そう言えばこの世界に来てから人間以外の人型種族を見るのは初めてだし、なんかちょっと親近感。
「んで、何の用だ?」
「あ、えっと……今日はスティーブン国王陛下の紹介出来たんです」
「何? あの国王陛下からの紹介だと? お前さんは一体……」
帽子を取って近くの椅子に腰を掛けるドワーフ――カルロスさんに手で勧められ、俺も近くの椅子に腰を掛ける。そして「これを――」と言いながらポケットから国王に渡された招待状を出し、そのままカルロスさんに渡した。
手紙の内容は、国王自らが直々に筆を走らせたものだ。
国王陛下御用達の鍛冶屋と言うだけあって、壁に掛けられている武器には様々な特徴が見られる。武器に関しては全くの素人だが、橙色の灯しに照らされたそれらはどれも輝いて見えた。
「――なるほど。『カルロスよ、元気にしておるか? 突然だが、今日は其方に頼みがあってこれを書いている。今其方の前にいるアルフェイルは、先日話していた私の息子であるルーカスとパーティを組んでくれることになった冒険者だ。そこで、私は彼に対する謝礼として其方を紹介することにした。まだまだ青い駆け出しの冒険者だが、将来の有望性は私が保証する。どうか彼の力になってはくれまいか。』――か。いいだろう。国王達ての願いだ。お前さんの武器は、儂が腕に縒りを掛けて拵えてやる」
国王の手紙を読むや否や、カルロスさんは二つ返事で引き受けてくれた。「例の」という言葉からして、ルーカス様の事情は知っていたのだろう。
「――して、お前さんは何を扱うんじゃ?」
「主に扱う得物は大剣ですが、他にも短剣に槍、弓も使います」
「――。悪いが、お前さんの能力を聞かせてもらっても良いか?」
俺の言葉に、カルロスさんは突然顔を顰めた。そして眉間に皺を寄せ難しそうな顔で、鋭く俺の目を射抜いてくる。
「あまりその話はしたくないのですが、武器を造ってもらうために必要なことでしょうか?」
「いや、直接的には関与しない。――しかし、今のお前さんの発言からは色んな物に手を出して楽しもうとしているようにしか思えん。無論、国王陛下が認めたとなれば何かあるのだろうが、儂もこの仕事には誇りと信念を持っている。中途半端な扱いはされたくないのだ」
つまり、俺が複数の武器を使うことにより、それぞれを中途半端に扱っていると思われているのか。確かに大体の職人は自分の造った物を中途半端に扱われるのは嫌いだろう。
しかし、俺としても中途半端に扱っているという気はない。時と場合に応じて、使い分けているだけだ。
でも、これは国王から折角貰った大事な伝だ。ここで反発しては紹介してくれた国王にも申し訳ないし、何よりもやはり勿体ない。
「――そう言えば、国王陛下とはどう言った経緯で今のご関係に?」
「ん? そうだな……国王とは、元々共に旅をするパーティメンバーだったんだ。儂も彼も他の面々も、その実力で世界に名を馳せたSランク冒険者だった。しかし、ある日突然先代の国王が病によって床に伏せてな。そこで彼は国王を引き継ぐことを決意し、その時に儂らのパーティは解散。それから儂は鍛治一本の職人となり、今でも昔の誼みで贔屓にしてもらっている」
なるほど。国王もカルロスさんもかなりの体格だと思っていたが、元Sランク冒険者だったのか。
あの国王が今でも信頼していると言うのだから、カルロスさんはそれだけ信頼に足る人と言うこと。それに、もしもこの先ずっと武器を造ってもらうことになるのなら、何の蟠りもなく理解して貰えていた方が良い。
あまり多くの人に話すのは気が進まないが、それで何かあっても俺には国王というこの国のトップという後ろ盾がある。そこまで気にすることでもないか。
と言うか、そんなことでいざこざを起こすことがないくらい強くなれば良いのだ。その辺の怪しい輩に声を掛けられることも無いような高みまで上れば良い。
そうして俺は、国王陛下に話した時と同じように自分の能力について話した。
「――なんと。努力をすればその分の……そういう事であったのか。分かった、そういう事であれば、お前さんが思う存分努力出来るような得物を造ってやろう」
「本当ですか!?」
「ああ。しかし、最初の武器の材料はこっちで持つが、それから先はお前さんが集めて来い。自分で集めることすら出来ない材料を武器に使うなど、それこそ釣り合いが取れないからな。その分、質は保証してやる。必ずや満足のいく物を作ると約束しよう」
なるほど。確かに、実力以上の材料で造った武器では武器に俺が負けてしまう。あくまでも、武器と扱う者は同等。俺の実力で集められるもの――つまり俺よりも少し劣っている材料で、カルロスさんにはそれをより良くした状態で武器を造ってもらう。それで初めて、俺と武器は同等になるということだな。
「そしたら、また一週間後に取りに来るといい。大剣に短剣、槍、弓。その四つを一週間で用意してやろう」
「一気に四つもですか? それは出来るのなら有難いですが……大丈夫ですか?」
武器については詳しくないが、形も用途も全く違う物を四つ、それも一週間で。他の仕事もあるだろうに、本当にそれで間に合うのか……?
「儂の能力の一つに、エクストラの鍛冶(超級)がある。ノーマルの鍛冶能力は刀鍛冶などの種類別だが、エクストラの場合は武器に関すること全てに対し圧倒的な質と技術を身に付けることが出来る。それに、自慢の息子もいるからな」
エクストラの超級……
確かルーカス様の鑑定でさえエクストラの上級だったわけだから、相当なものなのだろう。可能であれば、今度その作業工程も見させてもらおう。
「――あ、そうそう。儂としたことが大事なことを忘れとったわ」
「ん? 何でしょう?」
「お前さんがどんな戦い方をするのか気になるから、明日辺りもう一度武器を持ってここに来い。儂と手合わせをしようじゃないか」
――なっ!? カルロスさんと……手合わせ?
いや、いくら鍛冶師と言えど、元はSランクの冒険者……それなりの死地を超えてきたわけだろうし、今の俺に適うはずが――いや、違うな。適うはずがないからこそ、良い機会なのか。
「それ、今からでも出来ますか?」
「あ? そりゃ構わないが、お前さん武器持ってねぇじゃねぇか。どうすんだ?」
「いえ、武器なら持って来てますよ。――スイ」
「キュキュー!」
椅子から立ち上がりスイに声を掛けると、スイはヒョイっと跳ねて腕から床へ降りる。そして小さい体にある小さい口を大きく開け、その奥から大剣を出す。
「――!? お前さん! まさかそのスライム……ユニークか!?」
「え? あ、はい。そうです。ずっと住んでた村の森でたまたま見つけて、テイムしたらユニークでした」
そう言えば、ユニークの個体もかなり珍しいのだったか。最近は能力にばっかり夢中で、スイも特殊だと言うことをすっかり忘れていた。
平然とスライムの収納能力を披露すると、カルロスさん目を見開いて驚いていた。そしてスライムがユニークと知るや否や、カルロスさんは俺の肩を力強く掴んだ。
「もし良かったら――いや、是が非でも! 後でそのスライムを見せてくれないか!? そのスライムの防具も造らせてくれ!」
「え? あ、ん? スライムの防具も作れるんですか……?」
「ああ。基本は人間が使う武器や防具しか造らないが、偶に魔物用の防具も造ることがある。どうだ? そのスライムも一緒に旅をするのだろう!?」
さっきまであれだけ静かだったカルロスさんが、ここまで食い気味に……ユニークの魔物とはそこまで珍しいのだろうか? それとも、スライムのユニークだからか?
まぁそれは良いとして、スライムの防具が作れるなんて思ってもみなかったな。この小さくてキュートな体のどこに付けるか分からないが、作ってもらえるのなら作って貰おう。
「じゃ、じゃあ……お願い出来ますか?」
「ああ、任せておけ! 今回の金はお前さんの武器も含めて一切要らん! その代わり、後でそのスライムを少し見せてくれ」
――!
武器を四つにスライムの防具を只でやってくれるのか? 店に並ぶものでさえ、値段は白金貨が何枚も必要なものばかりだ。少なくとも見た限りでは、金貨以下の標記がある武器はここには置いていない。つまり、ここに並んでいる武器にはそれだけの質があるということ。
それを只で一から造ってもらうなんて、少し申し訳ない気もするが……
「まぁ、何はともあれ今はお前さんの実力だ。さぁ、こっちに付いて来るといい」
そう言って、カルロスさんの後を追って俺は店の奥へと入っていった。




