034...執着心増加
その日の夜。
肉は少なかった。
鹿はもうほとんど残っていない。
木の実も減っている。
だから。
俺は何度も器を見ていた。
土器。
歪んでる。
不格好。
でも。
“残せる”。
その感覚が妙に大きかった。
【《縄文》適応率 8%】
【“蓄えへの執着 微上昇”】
「……嫌な進化だな」
ミナが首を傾げる。
「何が?」
「なんか最近、食い物減るとイライラする」
「前からじゃない?」
「前より強い」
男が火を見ながら低く言った。
「定住するとそうなる」
「え?」
「持つようになるからな」
持つ。
確かに。
前までは何もなかった。
火も。
壁も。
道具も。
全部その日限り。
でも今は違う。
積み上げ始めてる。
その時だった。
ガサッ。
三人同時に顔を上げる。
茂み。
音。
反射的に石槍を掴む。
「……誰だ」
男が低く言う。
数秒後。
小さな影が飛び出した。
「っ!?」
子供だった。
ガリガリに痩せた少年。
目だけギラついてる。
そして。
肉を掴んで走った。
「おい!!」
反射的に追いかける。
だが。
その瞬間。
胸の奥がドロッと熱くなった。
盗られる。
俺たちの食料。
俺たちの火。
俺たちの蓄え。
【《縄文》適応率 10%】
【“所有物を盗られる怒り 微上昇”】
「っ……!」
自分でも驚くくらい一瞬で頭に血が上った。
石を掴む。
投げる。
ビュッ!!
ゴッ。
「いっ!?」
少年が転ぶ。
鹿肉が落ちる。
俺は走る。
息。
怒り。
寒さ。
全部混ざる。
少年は震えながら後ずさった。
「ご、ごめ……!」
その顔を見た瞬間。
俺は止まった。
……少し前の俺だ。
腹減って。
死にそうで。
必死だった。
俺は無言で鹿肉を拾った。
そして。
半分だけ投げた。
「……食ってどっか行け」
少年は目を見開いた。
「……いいの?」
「全部は無理」
本音だった。
前の俺なら全部あげたかもしれない。
でも今は違う。
“残さなきゃ”って感覚がある。
それが少し怖かった。
少年は肉を掴むと、 一瞬で森へ消えた。
静かになる。
火の前へ戻る。
ミナが小さく言った。
「レクト、ちょっと怖かった」
「……」
否定できなかった。
縄文になってから。
少しずつ。
“自分たちの場所”を守りたくなってる。




