01...石しかない
冬が近かった。
山から吹く風は冷たい。
畑は痩せ、獣も減り、村人たちの顔から余裕が消えている。そんな中でも今日だけは、皆が空を見上げていた。
十五歳。
“スキル授与”の日。
人生が決まる日だ。
強いスキルを得れば、騎士や魔導士になれる。 弱ければ村人。ハズレなら……冬を越せない。
広場の焚き火の近くで、俺は黙って手を擦っていた。
「寒い?」
振り向く。
アイリスが立っていた。
金色の髪。
青い瞳。
小さい頃からずっと一緒だった幼馴染。
「まぁな」
「はい」
彼女はパンを半分差し出してきた。
「お前の分減るだろ」
「レクト細いから」
「失礼だな」
笑い合う。
少しだけ、寒さを忘れた。
俺には親がいない。
小さい頃、魔物に襲われて死んだ。
珍しい話じゃない。
この世界では。
だから俺は、村の外れの小屋で一人暮らししていた。
アイリスの家には、何度も助けられた。
食べ物を分けてもらったこともある。
だから、俺はアイリスに頭が上がらない。「次! アイリス!」
神官の声が響く。
アイリスが立ち上がった。
「行ってくる」
「強そうなの引いてこいよ」
「レクトもね!」
彼女は笑って祭壇へ向かった。
神官が杖を掲げる。
魔法陣が光る。
次の瞬間。
空気が変わった。
「……っ!?」
村人たちが息を呑む。
白銀の光が、アイリスの背後に現れていた。
剣。
巨大な光の剣。
神聖な圧が、広場全体を包み込む。
神官が震える声で告げる。
「《聖剣姫》……!」
ざわめきが爆発した。
「聖剣姫!?」
「王級スキルだぞ!!」
「なんでこんな村に……!」
アイリス本人だけが困っていた。
「え、そんなすごいの?」
神官は青ざめながら頷く。
「国宝級です……!」
一瞬で空気が変わった。
希望。
熱狂。
歓声。
皆、アイリスを“未来”を見る目で見ていた。
そして。
「次、レクト」
俺の名前が呼ばれた。
アイリスが振り返る。
「レクトも絶対大丈夫!」
「だといいけどな」
少しだけ期待していた。
幼馴染が《聖剣姫》なら。
俺にも少しくらい夢を見てもいいんじゃないかって。
祭壇へ上がる。
神官が杖を掲げた。
光。
……弱い。
えらく地味な光だった。
ホタル?
「……あれ?」
神官の顔が曇る。
嫌な予感。
羊皮紙を確認。
沈黙。
もう一回見る。
周囲がざわつく。
「どうした?」 「空欄か?」
やがて神官は、困った顔で言った。
「スキル《時代》」
聞いたことがなかった。
村人たちも首を傾げる。
「なんだそれ?」 「生活系か?」
神官は続きを読む。
「レベル1……《旧石器》」
静寂。
「……旧石器?」 「なんだそれ」
さらに嫌な間。
神官が言いづらそうに続けた。
「初期技能は……《石を投げる》」
沈黙。
そして。
笑い声が起きた。
「ぶははは!!」 「石ぃ!?」 「ガキでもできるだろ!!」 「ハズレすぎる!」
腹を抱えて笑う村人たち。
俺は立ち尽くした。
頭が真っ白だった。
アイリスだけが怒っていた。
「笑うな!!」
一瞬静まる。
だが。
神官は現実を告げる。
「……戦闘能力は、ほぼありません」
その言葉が、ゆっくり胸へ沈んでいく。
《聖剣姫》
《時代》
天と地。
その時。
「じゃあ投げてみろよ!」
若者の一人が笑いながら石を投げてきた。
コツン。
胸に当たる。
俺は黙って石を拾った。
……投げればいいのか。
適当に、近くの木へ向かって投げる。
ビュッ。
ゴッ。
木に当たった。
普通の音だった。
ただそれだけ。
歓声もない。
奇跡もない。
魔法みたいな光もない。
若者は言う。
「うお、強ぇぇ!!」 「世界救えそう!!」
爆笑。
大人は、つぶやいた。
「弱っ……」
俺もそう思った。
石は。
ただの石だった。
はじめまして!
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