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 中心にリサ・リーチェ、隣にゴブリンキング、周囲にゴブリン、そして先頭にホフゴブリンという陣形でゴブリンの集落へと向かう一行。

 先ほどまで襲われていたリサ・リーチェを気遣ってか、ゴブリンキングが何かと話しかけてきている。その様子にゴブリンたちは耳を傾けているのを、リサ・リーチェはどこか居心地の悪さを覚えつつ返答するのであった。


「森の外から来たと言うが……近くに街があるのかな?」


「えっと、はい。直ぐ近くに都市と言えるほど大きな街があります」


「そっか、そこから来たのかな?」


「一応は、はい」


 言葉に気を付けながらリサ・リーチェは一つずつ応えていく。

 現状、このゴブリンキングの機嫌を損ねる、あるいはゴブリンキングに粗相を働き周囲のゴブリンたちの機嫌を損ねればリサ・リーチェの命は無い。

 何故ならば彼女を助けると判断したのはゴブリンキングであり、ゴブリンたちの王を侮辱してしまえば民が黙っていない。願うならば、もう話しかけてほしくなかった。

 しかし、そんな願いとは裏腹に彼は饒舌であり、どこか興奮さえ見える。まるで無垢な子供が知らないことに胸をときめかせるように。


(ゴブリンたちは外のことに疎いのでしょうか)


 そんな感想さえ覚えるほど。そうとなれば別の考えも浮かんで来る。

 ゴブリンたちが外のことに疎いのならば、外のものを欲しがるのではないか、と。都市で売っている何でも無いものを珍しがり、代わりに境界面上の大森林で採取出来るものを取引する。

 と、そこまで考えて首を振る。それではバレた時のリスクが大きすぎると判断したためである。

 もしバレたとしたら、先ほどの拳が己の頭に飛んできてもおかしくないためだ。そんな初歩的なトラップを彼女が踏み抜くはずがない。


 そうでなくとも、こうしてゴブリンと関係が持てただけでも儲けものなのだ。そして帝国に帰った後、もう一度ここへ来て交渉すればいいのだから。

 そもそもこの依頼は失敗に終わっているのであり、今ここで出来ることはゴブリンと友好的な関係を結び、あわよくば利害が一致した商談を結ぶこと。

 危険を冒す必要はない。己にそう言い聞かせるリサ・リーチェ。


「ええと、実のところさ、俺もゴブリンの皆さんにお世話になっている身でさ。みんな優しいから大丈夫だよ」


(……ん?)


 再びゴブリンキングとの会話に集中し始めた時だった。会話に違和感を感じた彼女。

 本来ならば彼の口から出てくるはずの無いフレーズに思わず足を止めた。それに合わせてゴブリンを含めた全員が止まってしまう。

 周りの者が訝しげな表情で見る中、彼女は恐る恐ると言った表情で確認の言葉を口にした。


「……貴方は別のところから来たんですか?」


「そうだね。ここがどこにあるかよく分からないけど、違うところから来たんだ」


「そうだったのですか」


 それを聞いて彼女ははてと首を傾げる。

 基本的にゴブリンは己が生まれた部族から出て行くことはあまりせず、他のゴブリンの部族とは関わらないはずだと彼女は記憶から思いだす。

 それともゴブリンキングは別なのかと考えるが、彼女は魔物学は詳しくないのであまり深くは考えないでおいた。

 少しだけ悪くなってしまった雰囲気を謝り、再び歩き出す一行。

 やはり会話は続くようだ。


「わけあってここに来たんだけど、サバイバルなんて初めてでさ。彼らを見つけることが出来なかったらきっといつか死んでただろう」


「そうですね。ここは特に厳しい環境ですから」


「でも、彼らは凄いよね。ここで暮らしているんだからさ。同じ人間として尊敬するよ」


「は?」


 再び、足を止める。


「……あの、貴方はゴブリンなのでは?」


「ん? いや、俺は違うよ」


「……んん?」


 どうも会話がかみ合わない。

 それを聞くためにと口を開こうとするが、戦闘を歩いていたホフゴブリンのわざとらしい咳払いに我に返る。

 己の足が止まっていることにより、皆の足も止まっているという状況を思い出したのだ。

 そして自分は助けてもらった身。今の状況は大変よろしくない。


「えっと、ごめんなさい!」


「疲れたのかい? ちょっと休憩していこうか」


「いえ! 大丈夫です!」


 今は自分のことよりも先を急ぐ方が賢明だと言い聞かせ、再び歩き出したのであった。




◆ ◆ ◆




 巨人に襲われていた女性を助け出して、無事に集落まで戻って来れたところで一息つく。

 今はその女性から話を聞くために俺の私室にいる。俺の私室は集落の一番奥の一番大きな建物なのだが、おそらく俺がゴブリンたちを救ったことに対する感謝として用意してくれたのであろう。

 正直広すぎて落ち着かないが、せっかく用意してくれた部屋にどうして文句が付けられよう。

 本来ならば入口の方にゴブリンの侍女が常にいるのだが、今回は何故かホフゴブリンのランスさんが立っている。こちらを……というよりは彼女を見張る名目として。

 いくら俺が決めたこととは言え最低限のラインは譲れないらしく、俺もそこまでは口出しする気はないので気にしてはいない。

 あくまでもここは彼らゴブリンたちのものだ。俺のものではない。


「さて、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「はい」


 彼女……名をリサ・リーチェというらしい。

 お互いに自己紹介を済ませた俺たちは、緊張した面達で話に臨むことに。

 聞きたいと言うのは何故彼女たちがやって来たのか。これはゴブリンたちからぜひ聞いてほしいと言われ、断る理由も無いので快く引き受けたのだ。

 俺も彼女から色々と聞きたいことがあるし、何より外の話を聞きたいのだ。俺が恋焦がれた外の世界のことを。


 ランスさん曰く、この森に人間がやってくることはあるが、ここまで奥まで踏み入れてこないそうだ。

 たまに冒険者風の者たちが奥までやってくるらしいのだが、集団ではやって来ないのでどうもきな臭いとのこと。


「えっと、単刀直入に訊くけど、どうしてここに?」


「それは……あなた方ゴブリンに会うためです」


「なんでまた」


 背後から不穏な雰囲気を感じたが、どうやら元々の目的はゴブリンに会うことだったらしい。

 今のランスさんからすると、彼女はこの集落に問題を運びに来たと言うことなのだろう。そういうことだったら少しだけまずいことになる。

 しかし、ランスさんはそれ以上何も言って来ないところを見ると、まだ判断に欠けると言うことらしい。

 なので、俺は話を続けることに。


「今、帝国とこの国で大森林を安全に抜けるためのルートを作ろうとしているんです。そのためにゴブリンたちに協力を仰ごうと」


「なんでゴブリンたち?」


「人間と交渉が成り立つからです。実は私は商人でして、私が交渉人としてここへ来ようとしていたのです」


「なるほど」


 帝国と言うのは分からないが、話に聞く限りこの森は二つの国の境目にあるらしく、そこを繋ぐ道を開拓しようとしているのか。

 そして彼女がゴブリンたちとの懸け橋役だったのだと。けれども彼女の部隊はあえなく壊滅し、こうなってしまったと言うことなのだな。

 ということはこれからは俺の仕事ではない。あくまでも俺は部外者であり、ここからはゴブリンたちの問題となる。


 そういうことで背後にいるランスさんに目配せをする。するとランスさんは俺の意図を理解したのか、俺の元まで来ると俺にこう言った。


「全ては貴方様の意のままに」


「……いやいやいや」


 思わずランスさんの言葉に目を白黒させる。

 いくら俺がゴブリンたちを助けたとはいえ、いくら俺が彼女を助けたとはいえ、そこまで重要なことを俺が決めるわけには行かない。

 そのためのホフゴブリン議員なのであり、完全に部外者の俺が決めて良いことではない。


 ランスさんの方を向いて固まっていると、リーチェさんが何やら懇願する様子で口を開いた。


「偉大なるゴブリンの王よ。これも何かの御縁。私を取引致しませんか?」


「え? ランスさんってゴブリンの王だったんですか?」


「御戯れを。このような時に御冗談を言うものではありません!」


「ん? ん? んん? え、じゃあ誰が王?」


「貴方様ではありませぬか。御冗談が過ぎます」


「……んー」


 こめかみを押さえ、考える。

 今、リサ・リーチェさんが俺に向かってゴブリンの王だと言った。

 そして今、ランスさんも俺に向かってゴブリンの王だと言った。

 この場に三人しかいないのだから、消去法で残っているのは俺だけとなる。


 だとしたら、俺がゴブリンの王と言うことになる。


「……んー?」


 あれ、おかしいな。


「え? 俺が?」


「「はい」」


 綺麗にはもる二人の声。


「……えぇえええええええええええええええええええええ!!!???」


 その俺の声は集落全体に響き渡ったと言う。

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