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 衝撃の事実が判明する。なんてことだろうか。

 俺がいつの間にかゴブリンたちの王になっていただなんて。そして、その事実を突きつけられてもいまだに信じられない自分がいる。

 それもそうだろう。ゴブリンたちを助け、助けられているうちに王になっていただなと誰が予想するだろうか。


 そんな急な俺の変わりように目を白黒させる二人。

 ランスさんに至っては俺の体調を心配するような表情をしているのが分かる。そして、その瞳の中に敬意が混じっているようにも見えた。


「王よ、体調がすぐれないのですか!? 今すぐヒーラーを読んで参りますので!」


「いや、ちょっと……!」


 急に叫び出した俺を一大事だと思ったのかランスさんが屋敷を飛び出して行く。

 今ここには俺とリーチェさんと二人きり。そもそも見張りのためにランスさんがいたんじゃないかと言いたいところだが、そんな場合ではない。

 そんな未だに理解が追い付かない俺を見てか、リーチェさん口を開く。その瞬間に体が震えたのは秘密だ。


「あの……もしかして知らなかったのですか?」


「し、知らないってもんじゃない! 俺はただゴブリンたちを助けて……」


 思わず声を荒げてしまう。それほどまでに余裕が無くなっているのだ。

 その俺の様子を見てか、リーチェさんが宥めるような口調でゆっくりを話しかけてくる。


「でも、ゴブリンたちは貴方に敬意を持っているようでしたし、なにより“王”や“尊き御方”と呼んでいたではありませんか」


「いや、なんかゴブリンたちなりのお世辞かと思って……」


「えぇー……」


 自覚がなかった俺に対してドン引きする彼女。

 思い返してみればそんな風に扱われていたような気もする。

 歩けばゴブリンたちが跪いたり、声を掛ければ敬意を表したりしていた。

 俺が皆の前で座る時だって一番高い席だったし、食べるものだって一番良いもので、住むところも一番良いところだ。

 そういえばそうだ。なんかいつも周りに侍女がいるし、身の回りの世話だっていつだってゴブリンたちがやってくれた。唯一集落に近づく強い化物の相手は俺だったが、それ以外ならなんだってやってくれた。

 それに額冠だってもらったし、なんかやけに立派な錫杖だってもらった。


 あれ、なんか心当たりが一杯ある。


「はぁ、なるほど、先ほどからの違和感に合点がいきました」


 頭を抱えてうんうん唸っていると、なぜだか俺よりも納得している彼女。

 俺が理解できていないのに何で理解できているのかと思う俺。

 そんな俺を彼女は大きな瞳で覗きこんでくる。俺の中を見透かす様に。


「なんで貴方が他人事だったのかようやく分かりましたよ」


「ど、どういうことだ」


「いえ、こちらの話です。端的に言いますと、貴方はゴブリンたちの王として認められています。その証拠に、その錫杖です」


 彼女が俺の腰に下がっている錫杖を指さし、それが何よりの証拠だと言う。

 どうやらこの錫杖は大層な物のようだ。ランスさんにはこの錫杖を常に持っているように言われていたので、それは間違いはない様だ。


「それは“ゴブリンキングの錫杖”というものでして……まぁ、簡単に言えばそれを装備している間は《王位》のスキルを取得できるのです」


「《王位》……?」


「……まさか、御存じないと?」


 彼女が言うにはこの錫杖を持っていると《王位》なるスキルを取得できるらしいのだが、そんなことは初耳だし、そんなスキルは知らない。名前からして凄いスキルなのだろうが、知らないままだったら宝の持ち腐れも良いところ。

 嘘を吐く必要はないので知らないと言うことに対して頷く。すると、彼女はこめかみを押さえ、まるで頭痛を耐えるかのような仕草をする。

 もしかしたらこのスキルはこの世界では一般常識的なものだったのかも知れない。それを知らないとなると疑われても仕方のないことだと言える。


「ええと、ええ、わかりました。では、では、こうしませんか?」


 彼女の中で考えが纏まったのか近くまで寄って来る。思わず後退るが、それでもなお近づいてくる。

 そして壁際まで追い詰められた俺。身長差ゆえか相手が見上げる形となっているが、どことなく威圧感を感じる彼女の瞳から目を離すことが出来ない。

 もしかして何かスキルを使っているのだろうか。俺はこの世界のことに疎いので分からないが、理不尽な世界ならあり得ると思ってしまうのは仕方ないのかも知れない。


 満を持して、彼女が口を開く。


「私と取引しませんか?」


「取引……」


「えぇ、取引です」


 取引。

 その言葉に不思議と魅力を感じる。彼女と取引をしたら、一体俺に何の利益があって彼女に何の利益があるのか。

 彼女は商人だと言う。ならば彼女の掌の上で転がされているのではないかという思いもある。

 しかし逃げられない。逃げることが出来ない。彼女の瞳に吸い込まれそうになる。

 表情からは何も読めない。それもそのはず、彼女は真顔なのだから。


「貴方を助ける代わりに、貴方を通してゴブリンとの商売をしたいのです」


 持ちかけてきたのは商売の話。

 俺を助けると言うのは少し大雑把すぎて全ては理解できないが、彼女はゴブリンたちと取引がしたいのだと言う。

 そもそも彼女がここに来た理由はゴブリンたちと取引をするためだと言う。しかし、ゴブリンたちの様子を見るにそれは難しい話だと俺は思う。

 そして、彼女もここに来て思ったに違いない。このままでゴブリンたちと取引するのは難しいと。

 しかし、しかしだ。ゴブリンたちの王となっている俺が、彼女と取引をすると言えば可能な話なのだろう。

 だからこその取引。俺を助ける代わりに、ゴブリンたちとの間を取り持ってくれ、と。


 それが俺にはできる。何故なら俺はゴブリンたちの王なのだから。

 この集落に弱肉強食が適用されるならば一番強いであろう俺の意見が通らないわけがないのだ。

 けれども俺はどういうのは正直に言って御免被りたい。


 なぜかって?

 わかるだろう?


「……というのは、冗談です」


「は?」


 しばしの沈黙の後、その沈黙を破ったのは話を持ちかけてきた彼女であった。

 何事もなかったかのようにスッと俺から離れると、それと同時に不可思議な魅力から解放される。

 未だ壁際から動けない俺とは対照的に、どこか余裕を持った表情で俺を見る彼女。しかしながら油断は出来ない。

 彼女はそんな俺を見てにっこりと見た目相応の笑顔を浮かべると、辺りを歩きながら話し始めた。


「貴方には命を救っていただいた御恩があります。そんな恩人が膝を着くところなんて見たくはありません」


 胡散臭いセリフを吐く。


「私は商人です。ですので、貴方が得をする交渉術をお教えしましょう」


 非常に、胡散臭い笑顔で。




◆ ◆ ◆




 ホフゴブリンのランスが王の住まう屋敷から飛び出してから十分にも満たない頃。

 集落で一番のヒーラーとプリーストを連れて戻ろうとした時、集落が異様な雰囲気に包まれているのに気が付いた。

 余程焦っていたせいか、はたまたただ気が付かなかっただけなのか。集落のゴブリンたち……お世辞にも頭が良いとは言えない者たちが、王の住まう屋敷の方角を向いていたのだ。

 その光景自体は特に珍しいものではなかった。ゴブリンたちの全てである王が坐方角を向いて礼拝するなど日常茶飯事であるからだ。

 しかし、そんなことでは済ますことが出来ない違和感をランスは感じた。ゴブリンたちは屋敷の方角を向いているだけで、そこから何のアクションも起こさないのだ。

 ともなれば、なにかホフゴブリンでは感じられない、ゴブリンならではの獣に近い本能で何かを感じているに違いない。

 ではその何かとは何か。何に駆られてゴブリンたちが本能で王の方角へ向いていると言うのか。


 ふと気が付けばランスが連れていたヒーラーとプリーストも同様に呆けたように立っていた。

 ランスは直ぐ様に行動へと移す。己がホフゴブリンとして当てられた役割は王の近くにいること。

 ならばと駈け出すランス。向かう場所は言わずもがな。


 しかし、ランスは動き出した足を早々に止めることなる。否、己の意思とは関係なく止まってしまったのだ。

 そう、ランスはこの時点にして他のゴブリンたちと同様に王が坐屋敷へ向いて止まってしまったのだ。


 その理由は今になってしてみれば分かる。

 集落を包むかのような威圧感。それでいて体の奥底から湧き上がるような興奮と歓喜。

 肌をピリピリと焦がすかのような緊張。止めどなく溢れる汗。

 それを理解したランスは思わず口角を上げていた。


 ゴブリンたちの視線の先。屋敷の扉が開き、一層大きくなる威圧感とともに現れたのは我らが王。

 しかし、そこに現れた王は今まで(・・・)の王ではなかった。

 ゴブリンたちの王である証の錫杖を手に持ち、《王位》を纏いて闊歩する様は正にゴブリンキング。

 今までの我らゴブリンたちが不甲斐なかったせいか、一度も我らが王として振る舞うことなく過ごして来た。

 だがここに今、我らが絶対に無敵にして不変の王が復活したのだ。


 これまで長かったとランスは感動を噛み締める。

 オークの支配下に降ってから幾星霜。ランスが生まれた時から既にその状況であったゴブリンの集落は悲惨なものであった。

 ゴブリンキングはゴブリンたちの総意によって生まれる者。このような虐げられている状況では王など置けぬ。

 しかし、これもひとえにこの時のためであったのなら、全てが報われる。


 集落中のゴブリンが歓喜の声を上げる中、ランスを入れたホフゴブリンのみがその場に跪き、王の帰還を心より感謝したのであった。

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