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 集落の方から南南西。

 森の駆るはゴブリンの一団。数にして十に満たないが、構成しているほとんどのゴブリンが狩に慣れた者たちだ。

 この森で狩りが出来ないとは死を意味する。オークに搾取され、飢餓に襲われる。

 もはや走り慣れた森の道に迷いなく突き進む。先導するはホフゴブリンのランスさん。

 その直ぐ後ろに俺が続き、そしてゴブリンたちが続く。皆一様に鋭い目をした戦士だ。


 俺が森に入った人を助けると言ったら、何も訊かずに賛同してくれたホフゴブリンたちには驚いたが、ここまでして俺の意見を聞いてくれるのはありがたいことである。

 だとしたら必ず成し遂げなければならない。信じてくれたゴブリンたちのために。


「このまま突き進んだ先です!」


「相分かりました!」


 そうして目的の場所の近くまで来たのかランスさんが道を譲る。この先は俺の道と言うことだ。

 確かに何らかの気配がする。一つはよく分からない気配。そしてもう一つはとても臭い気配。

 やがて“それ”が姿を現す。一人の女性と思しき人が地面に倒れており、もう片方が襲い掛かろうとしていた。

 その正体は一本足に一本の腕を持つ一つ目の巨人。三メートルはあろうかという巨体に握りしめた棍棒はまさに暴力と言う言葉がふさわしい。

 背後から息を飲む声と「ファハン」という言葉。どうやらあの巨人のことを指しているらしく、その反応からしてかなりの強敵なのだろう。


 攻撃する対象はもちろん――


「フンッ!」


 勢いのままに突っ込み拳を繰り出す。

 そちらが暴力ならば、こちらだって暴力だ。




◆ ◆ ◆




 目の前の絶望。決死の反撃と見られたマジックアイテムは意味をなさず、ただただ相手の怒りを買うだけであった。

 もはやこれまで。風前の灯火とはこのことかと自嘲気味に呟くその姿は、どこか達観した様子であった。

 ゆっくりと口角が弧を描いていくのはモンスター。リサ・リーチェが知る限りでは名をファハンと言う。

 なりそこないの巨人ではあるが、元来巨人とはそれだけで強大なのだ。本来の巨人の半分ほどしか力が無いとは言え、戦闘能力を持たないリサ・リーチェにしてみればこれ以上ない強敵である。


 だからだろうか。彼女が年甲斐もなく颯爽と助け出してくれるヒーローを期待するのは。

 限りなく詰みの状態で描くのは、小さなころ夢見た王子様。銀毛棚引く白馬に乗って現れる、そんな誰もが思い描くようなヒーローだ。


 そうして、また自嘲気味に笑う。おかしすぎて涙が出てきてしまいそうだ。

 えてしてそういうものである。現実というのは――


「フンッ!」


 ――夢とは違うのだから。


「……え?」


 それはまさに暴力だった。

 目の前の巨人が突然やってきた何かに吹っ飛ばされ、きりもみしながら地を跳ね、やがて止まる。

 あっけない程に過ぎ去った絶望に思わず呆けたような声を出してしまうが、それを気に掛けるものはここにはいない。

 そしてやっと理解が追いついたころには暴力を消し飛ばした暴力がいた。

 そうだ、そうだとも、現れたのだ。あれほどまでに夢に見たヒーローが現れたのだ。


 その姿を見ようと被っていたフードを脱ぎ、壊れかけた黒縁の眼鏡をかけなおして見上げる。

 屈強な体に高い身長。鬣といっても過言ではないくらいにもじゃもじゃな髪の毛に伸び放題の髭。

 ギラギラとした眼光に暴力的なまでに達した威圧感。

 そんな夢にまで見た――


「だいじょうぶかい?」


 ――全裸の原始人が目の前に立っていた。


「……きゃああああああああああ!!!」


「おわっ!?」


 彼女が叫ぶのは無理もないだろう。

 なんせ、予想とは正反対の人物が立っていたのだから。


「どうかいたしましたか!?」


 彼女が叫ぶと、その叫び声につられてやって来たのか周りからぞろぞろと姿を現すゴブリン。


「んーーーー!!!」


 再び理解が追い付かない状況になり、声にならない叫び声を上げるリサ・リーチェ。

 それもそうだろう、ここで全裸の原始人とゴブリンたちを見て全てを理解できる人物など居るはずがない。居るとすればそれはもはや神以外はいないだろう。

 目の前から恐怖が去ったとなど大間違いだ。また別の恐怖がやって来たに過ぎない。

 先ほどまでの恐怖は絶望からくる生命の危機だとすれば、今感じている恐怖は意味不明過ぎて未知に対する理解のオーバーフローであろう。

 無理もない。今の今まで死の瀬戸際にいたのだから。


「少し混乱しているようです。えっと、言葉は通じるかい?」


「は、はい!」


「怪我はしていないかい?」


「だ、大丈夫です!」


「なら良かった」


 そう言って人間臭く笑う原始人。そんな彼に彼女は口を開こうとするが、何を言って良いのか分からない。

 そうこうしているうちに原始人はゴブリンの方へ体を向けて話をし始めた。

 その様子にリサ・リーチェは今の状況を理解しようと耳を傾ける。


「怪我は無い様です。意識もはっきりしている」


「それはなによりです。あのファハン……あー、先ほどの巨人でしたらとどめを刺しましたので」


「イモムシ、カンタン」


「そうですか、よかった」


 必死に理解しようとリサ・リーチェは耳を傾けるが、何を言っているのかわからなかった。

 しかし、これだけは理解することはできた。自分の安否を確認しているところを見ると、自分は助かったのだ。自分は卑下するゴブリンに助けられたのだ。


(……少しだけ、ゴブリンの評価を上げてあげましょう)


 さすがに命を助けられた者に当たる程リサ・リーチェはバカではない。

 ここで「ゴブリンに助けられたことが屈辱だ」と言えば間違いなく彼女の首は飛ぶ。

 賢い選択として、ここは“命を助けられた者”として振る舞うのが得策だろう。

 ともかく助かったのだ。この瞬間に彼女は今一度自分が信仰する神に祈りをささげた。


 しかし、と思う。

 大森林のゴブリンに出会えたことは図らずとも目的の一部は達成することはできたと言える。

 もともと彼女がここにいる理由はゴブリンと出会い、友好的な関係を築くことであった。そして帝国までの安全な道、もしくは最短ルートを教えてもらうこと。

 彼女を助けたのならば、このゴブリンたちは人間に友好的とみるのが道理だろう。そうでなければ彼女をわざわざ危険を冒して助けはしまい。

 そして、一番わからないのが全裸の原始人だ。リサ・リーチェが見るに、おそらくゴブリンではないだろうと結論付ける。

 リサ・リーチェが知る限りではゴブリンは人間より大変小柄な亜人種で、その上位種のホフゴブリンでも成人男性よりも小柄なのだ。

 そして原始人は人間としては比較的高い方であり、知性が見られる。そしてなにより、周りのゴブリンたちが敬っている。ホフゴブリンもだ。


 そこから結論を導くと一つしかない。


(もしや……これがゴブリンキング?)


 伝説では竜をも屠ったといわれるゴブリンたちの王。かつてはゴブリンの王国さえあったといわれる程強大な先導者。

 ゴブリンの集落でもゴブリンキングが生まれることは非常に稀で、今もなお研究されている亜人種である。

 この境界面上の大森林にゴブリンキングがいるという情報はなかったが、本当だとすると大発見である。


 そこで彼女は思い出す。

 先ほどの巨人を素手で殴り倒した光景を。ゴブリンキングであれば巨人など赤子にしか過ぎない。

 それほどまでに強いのだ。ゴブリンキングという亜人種は。

 尤も、ゴブリンキングの本当の強さはステータスではないのだが。


 そこまで考えたところで、ゴブリンの集団からホフゴブリンが近づいてくる。

 それに少しだけ身じろぎしてしまうが、怯えていると思われたくない気持ちで睨む……が、どう見ても怯えているようにしか見えないのだった。

 その様子に少しだけホフゴブリンは一瞬だけ止まったが、直ぐに何食わぬ顔で耳打ちしてくる。


「我らが王に感謝しろよ。かの御方が助けると仰ったから助けたのだ」


 そう言って離れていくホフゴブリン。

 そこで彼女の中で合点がいく。間違いない、この原始人はゴブリンキングだと。

 そしてもう一つ分かったことがあった。あまり自分は歓迎されていないのだと。


 彼女がよく見てみると、どことなく己を見る目が少しだけ棘を持っているように感じた。

 つまりはこのゴブリンキングの機嫌を損ねれば自分の安否はわからないということ。

 その事実に少しだけ身震いしながら、大人しく彼らの後をついて歩くのだった。

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