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 平和都市にて数刻経った頃、シュルは大きな壁にぶち当たっていた。

 境界面上の大森林に挑むにあたって情報収集をしている時だった。大森林は国で管理、もとい封鎖しているために入るためには役場での申告が必要だと分かったのだ。

 そうとなればさっそく申告をせんと役場を兼任している冒険者ギルドへ向かうのが世の常と言うもの。

 そこで、問題にぶち当たった。


「えぇ!? 今って入れないの!?」


「そうなんだ。先日、国たっての依頼でね、調査しているから冒険者を入れないでくれって言われてんだ」


「そんなぁ……」


 あまり日が入って来ない窓口の中でくたびれた男が疲れたように言う。

 煙草を咥え、頭髪も薄くなって来た初老の男だ。長年ストレスにさらされてきたのか、顔のしわ以上に老けて見える。

 冒険者ギルドでも奥の奥にある窓口は人気は無く、少し離れたところから聞こえてくる喧騒が少し寂しく感じるほどだ。

 シュルはここで申告、証明書を発行すると聞いてやって来たのだが、返って来た答えが生憎のものであった。

 なんでも国からの調査隊が入っている間は大森林へ入れないのだと言う。これは運が悪かったと言うほかないだろう。


 しかし、シュルは気が付いていないが、もし国からの調査隊が入っていなくともシュルでは大森林へ入ることは叶わなかっただろう。

 この境界面上の大森林は帝国との防波堤の役割をしているが、その実危険も大いに伴うのである。前述から分かる通り境界面上の大森林は敢えて人の手を加えておらず、王国が出来る前からその地に広がっていたと言うくらい長い間この地を見守ってきたのだ。

 故に地元民からは信仰の対象とされたり、自然の恵みをもたらしてきた結果、もはや人の手を入れることが禁忌とされるまでである。

 時折、生態調査という名目で調査隊が派遣されることはままあるが、いかんせん帰還する確率はそこまで高くはない。

 人の手が入っていない未開と言うことは、独自の生態系を築いていることであり、大森林の中で生存競争を勝ち抜いてきたモンスターたちも独自の進化を遂げている。無論、狩る者から身を守るように。

 その結果、大森林の中のモンスターたちの強さは群を抜いており、激戦区の魔界近辺にも劣らないと言われるほどである。

 そうとなれば自ずと大森林へ入ることを禁止するのが普通ではあるが、大森林にはその分貴重な資源が沢山あるために制限という形で落ち着いている。

 そして、その入林するために様々な条件があるのだが、シュルはその条件のそれにも該当してないので結局のところ入ることは叶わなかったのだ。


 入ることが叶わないと分かったシュルはトボトボと重い足取りでその場を後にする。

 静寂から喧騒へと移り変わる中、彼女はこのように考えていた。では、今の状況でどうやったら入れるのか、と。

 冒険者ギルドは酒場が併設されており、そこには用もないのにたむろしている冒険者であふれかえっていた。先ほどまでいた場所が静かだっただけに、彼女は少しだけ面食らってしまった。

 そもそも冒険者とは魔物を退治する者たちの総称で、国とは別の独自の機関として冒険者ギルドが置かれている。街の人々の治安を維持するのが騎士だとしたら、外のモンスターによる被害を抑えるのが冒険者というのが世間一般的での認識だ。

 そんな冒険者たちが集うところでは、もちろんのことモンスターの情報や危険が跋扈する場所の情報が集まってくる。

 彼女はまだ諦めていない。ならば次にする行動も決まっているようなものだ。


「おねぇさーん! こっちにエールを一つ! それとからあげ!」


「はい、かしこまりましたー」


 テーブルに着き、酒を飲むことだった。

 実のところを言うと、彼女は考えるのがあまり得意ではない。そのため、こうして行き詰ってしまうと問題を後回しにして、とりあえず息抜きを始めてしまうのが彼女の悪い癖であった。

 実際、今の彼女では直ぐには大森林へ入る方法なぞ考え付かない。そうとなれば考える方が間違いなのであり、また日を改めて考えれば良いのである。

 もちろん情報収集も兼てではあるが。


 この国での飲酒による法律は無いに等しい。未成年だとかこの国では関係ない。

 飲酒をしてなにか事件や事故を起こした場合は全て自己責任になるだけであって、何歳からでも飲酒は出来るようになっている。

 もっとも、明らかに小さな子供にはさすがに店側も提供してはいない。彼女はまだ未成年ではあるが、酒の味は知っているつもりである。

 事実、ふろ上がりの一杯は自分の意思ではもはや止められないところまで来ている。


 テーブルに注文の品が揃い、から揚げの良い匂いが鼻腔を突く。そして傍らにはキンキンに冷えたエール。

 口の中に涎が溜まり、それを溜飲する。辛抱堪らんとそれに齧りつこうとする……が、それを邪魔する音が冒険者ギルド内に響き渡った。

 音の方向を向けば、そこには息を切らした執事風の老翁。急いできたのか整えていた髪の毛は若干乱れていた。

 あれだけ騒がしかった冒険者たちが静まり返り執事の方を凝視している。中には武器に手を伸ばしている者まで見受けられる。

 あれだけ浮かれていたのに、あれだけ騒いでいたのにも関わらず、この場にいる者のほとんどの者が臨戦体勢に入っているのはさすがと言うべきだろう。もちろん、シュルも例外ではない。


 冒険者ギルド職員が駆け寄っていく中、その執事は息が整わない内から大きく息を吸い、こう叫んだ。


「マルク辺境伯からご依頼したいことがございます! 先日送り出した大森林への先遣隊が消息を絶ちました! なにとぞ、捜索願いたい!!!」


「その話、乗ったわ!」


 執事が言い終わる方が早いか、シュルが大きな声で名乗りを上げた。

 シュル自身でも驚いているくらいだ。しかし、ここが一番のチャンスと言わんばかりに上げられた右手は降ろさないまま天に向かっている。

 おあつらえ向きと言っても過言ではない。ここまで出来過ぎた話が果たしてあるだろうか。

 半ば無意識のうちに上げた声に少しだけ驚いた表情をする執事。けれども、直ぐに表情を直し柔和な笑みを浮かべると頷き、こう言った。


「可愛らしいお嬢さん。是非とも、お願いします」


「は、はい!」


 言質を取った。今のシュルの表情はとてもいい笑顔をしていることだろう。

 これで大森林へ入る大義名分が出来たのだ。笑顔にならないわけがない。

 そんなシュルに続くように周りから上がる熱い声。その波は徐々に大きくなり、冒険者ギルド内は爆音の濁流にのみ込まれる。

 その様子を呆れたように眺めるギルド職員たち。どうやら冒険者ギルドとしても受けざるをえないようだ。


 実のところ、シュルに調査隊の捜索をする気はなかった。

 何故なら本来の目的である境界面上の大森林の中に住まうゴブリンの集落、ひいてはゴブリンキングの錫杖を手に入れることなのだから。

 共に行ってくれる捜索隊がその調査隊を見付けてくれたら万々歳なのだが、そう簡単には見つからないことだろう。

 なので、ゴブリンの集落を目指すついでに調査隊を捜索すると言うのが第一の目的となる。しかも、正式な依頼となれば境界面上の大森林の地図をもらえるかもしれないのだ。それを利用しない手は無い。

 実に俗にまみれた考えだが、この場の彼女の考えにしては上出来だろう。


 そうとなれば早速準備である。

 正式な依頼として受注するには一度窓口を通さなければならない。

 そういうわけで窓口に並ぶシュル。周りには自分と同じ目的の冒険者たち。

 今彼女の表情は先ほどとは打って変わって上機嫌であろう。鼻歌まで歌ってしまいそうだ。

 そうして、自分の番が回って来た。


「ええと、依頼を受けたいんですけど」


「はい、お伺いします……ええと」


 窓口で自分の情報が書かれた冒険者の会員証を渡すと、窓口のギルド職員が少しだけ怪訝そうな声を出す。

 その様子に疑問符を浮かべていると、ギルド職員は申し訳なさそうにこう言った。


「あの、レベルが全然足りないので境界面上の大森林へのご案内はできません」


「え」


 しかし悲しいかな、境界面上の大森林に入るためには幾つか条件がある。

 よってその条件のどれにも当てはまらない彼女が大森林へ入ることは叶わないのであった。

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