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 少女リサ・リーチェは大荷物を背負って歩いていた。女性の平均身長より低い彼女が身の丈ほどもある荷物を抱えて歩くのは、傍から見ていて不安しか抱かないであろう。

 しかし彼女が持つスキル《荷物拡張》により一度に持てるアイテムの数が大幅に増えているためにこれは解消されている。このスキルは戦士職にはあまり人気の無いものであり、これを取得する者たちは商いを生業にする者たちが多い。

 故に、彼女を横眼で見る者たちはこの少女のことを商人だと思っていることだろう。その考えは間違っていない。

 何を隠そうこの少女は商人だ。体を覆っている大きめの外套の内側から、押し出しているように波打っているのは、きっと外套の中にもアイテムをしまい込んでいるのであろう。見る者が勘違いしてしまえばギョッとしてしまうかも知れない。


 リサ・リーチェが商人としての才覚を現し始めたのは一つの好奇心が始まりだった。

 幼い頃、同じく商人として名を馳せていた祖父の仕事に興味を抱き、無理を言って着いて行ったのだ。

 その時、たまたまやってきていた客に、類稀なる話術(重要)でただの石ころを高額な値段で売ったことから、祖父の元で修業を重ねて今に至る。


 そんな商人の天才である彼女は平和都市エルムへとやってきていた。

 目的は帝国からの依頼である平和都市と帝国との商業ルートである。表向きは。

 帝国では大商人と言っても過言ではない彼女が起用されたのも、このプロジェクトを必ず成功させたいと言う帝国の思いからであろう。

 実際のところはこの平和都市を陥落させたいがために大森林を開拓するためだ。誰も説明してもらってはいないが、ここにいる開拓民に選ばれた者たちならば皆分かっていることだろう。

 もちろん、そうとなれば王国も黙ってはいないが王国側に内通者がいれば別の話だ。それも、上層部にだ。


 そんな話にリサ・リーチェは機嫌を悪くする。

 この大商人リサ・リーチェを政治に利用するなど吐き気を催す。そして、断れなかった自分にも。


 リサ・リーチェは頭を振って嫌な思考を振り払う。代わりに意識を向けるのは周りにいる者たち。

 総勢三十人ほどの小隊だ。皆思い思いの武装をしているが、手ぶらなものは一人もいない。

 ここにいる者たちはこれから大森林へ開拓へ行くのだ。身なりや装備の質から見て、彼女はこのもたちはそれなりの強さを持っているのだと判断する。

 持っている得物はその者の強さの身分証明書みたいなものだ。より強い武器や防具を持っていることが、その者たちの強さのランクを示している。

 もちろん、スキルの中には《拳》なるスキルが存在するが、彼女の知る限りそのスキルを取得している者は見たことが無い。その理由は前述した武器と言う身分証明書が大きいのだろう。

 世の中にはそんな変わり者もいるのだろうが、と彼女は独り言ちる。手ぶらなのはそれだけで無力だと言う証明に他ならないのだから。


 そして、この者たちも帝国から遣わされた開拓民である。それぞれ胸中に抱く感情は、はたしてリサ・リーチェと同じ物なのか。

 同じなものか。リサ・リーチェはさらに俯き、溜息を、ほんの小さく吐いた。


 リサ・リーチェがこの小隊での役割は、大森林に生息していると言うゴブリンないしオークの集落と貿易するためである。

 亜人に分類されモンスターとは別のくくりにされてはいるが、本質はモンスターと変わらない。人を襲う亜人もいれば、人と友好的な関係を結ぶ亜人もいる。

 オークは別としてゴブリンはその友好的な亜人に分類される。中には反人間的な者たちもいるにはいるが、この大森林に生息しているゴブリンたちが友好的な者たちかは分からない。

 そのためのリサ・リーチェであり、武装した小隊の出番である。友好的であればリサ・リーチェが持ちつ持たれつの関係を築き、反抗的であれば武装した小隊が蹂躙する。

 本当の目的はその先、ゴブリンたちにこの大森林の抜け道を案内させることだ。彼らならば知っているに違いない、という上の見解である。


 ならば、ならばと彼女は何度目かの考えに行き付く。

 最初からリサ・リーチェという者を使わずに、ゴブリンたちを力で屈服させて案内させればよいではないか、と。

 商人、それも大商人と謳われるリサ・リーチェとしては取引をする相手は悪魔でさえも対等に……という考えが一番なのかもしれない。

 しかし、彼女自身としては知能の低いゴブリンやオークたちとは関わりたくないのだ。ましてや取引などせずに奪えるものは奪ってしまえば良い、とさえ思っている。

 帝国から見ればゴブリンなどの亜人種からは恨みを買いたくないのだろう。けれども、彼女はそんな醜悪な者たちと肩を並べるのは吐き気さえ覚える。

 けれども、同じように亜人種を軽く見て恨みを買ったために滅ぼされた国も、歴史上では存在する。

 だからこそ帝国は亜人種と友好的な関係を結び、それを外交に利用している。この国は亜人種にも分け隔てなく接する良い国ですよ、と。


 あぁ、あぁ、あぁ。彼女は何度目かの吐きたい唾を飲み込む。

 そろそろ、大森林へと辿り着く。願わくば、ゴブリンたちが反抗的でありますように。





 そう思っていたのだ。

 だが、現実はどうだ。この有様を。

 三十人ほどいた小隊は壊滅。生き残りは皆方々へ逃げて行方は知れない。

 今現在、境界面上の大森林で一人歩いているリサ・リーチェは満身創痍だった。


 ゴブリンが目撃された場所を記された地図を元に、大森林へと踏み入った開拓民一行は着々と進んでいた。しかし、そこでモンスターに襲われてしまったのだ。

 決して弱くはない者たちだった。むしろ強い部類に入る猛者と言っても過言ではない。そんな者たちが集まった小隊なのだ。

 こんな結果を誰が予想出来る。どんなモンスターでさえ蹴散らせそうな、そんな自信が溢れた集団がこうもまで蹂躙されるものなのか。


 襲い掛かって来たモンスターは彼女が知る限りでは“ブラックファング”と呼ばれる四足歩行のモンスターだ。

 黒い体毛にしなやかな体を持つネコ科を思わせるようなモンスターで、大きなもので牛程のもの。

 けれども小隊を襲ったブラックファングは体高が三メートル以上あった化物であった。

 別種なのか、それともこの大森林に適応した種なのかは彼女には分からなかったが、このプロジェクトが失敗に終わったのだけは分かった。


 あれだけあった大荷物ももうない。逃げる際にどこかへ落としてしまったようだ。

 大事な商売道具や希少価値の高いアイテムが入っていたのにも拘らず、彼女は逃げてきた方を見向きもしない。

 コレだけ絶望的な状況に置かれても彼女の眼は死んではいなかった。むしろギラギラとさえしていた。

 商売道具などまた買いなおせばいい。アイテムなどまた手に入れればいい。大事なのはここから生きて抜け出すこと、そう言っているような眼だった。


 しかし、戦う能力の無いリサ・リーチェが、この場でモンスターと出くわせば確実に命を落としてしまうであろう。

 彼女の職業は商人。本来ならば戦うことを目的としていない職業だ。中には余りあるアイテムを駆使して戦う商人もいるのだが、生憎彼女の荷物は落としてしまった。

 着ている外套の下には目くらましのアイテムや、己の臭いを消すアイテムなどもあるが、果たしてどこまでもつか分からない。

 ましてや彼女がいる場所は人の手が一切入っていない魔境である。どこかに人の集落があるわけでもない。


 その時、彼女の頭に一つの案が浮かぶ。幸運にもゴブリンの集落を見付ければ助かるかも知れない、そんな案だ。

 彼女としては唾棄すべきゴブリンに助けられるなぞ屈辱以外の何物でもないが、この際背に腹は代えられない。

 今は生き残ることが最優先なのだ。プライドなぞ二の次にしかならない。


「っ!?」


 そんな彼女に緊張が走る。

 今まで鳥の鳴き声と己の息遣いしか聞こえなかった森の中に別の音が響いたのだ。

 それはがさがさと草木を掻き分けるような、そんな音だった。つまり、この近くに自分以外の何物かがいると言うことである。

 彼女の脳裏に先ほど自分たちを蹂躙した化物の姿が映る。脚がガクガクと震えるのが分かる。息も震えていた。


 荒々しいまでに進んでくる何かは彼女に恐怖を与えるには充分だった。

 気が付けば彼女は脇目を振らず走り出していた。目的地などない。ただ、ただその何者かから逃げるために。

 しかし悲しいかな、その何者かはリサ・リーチェを追いかけるように進んできている。


 どうしようもなく、理不尽な、足音。

 そんな恐怖の中走る彼女の足がもつれるのも仕方のないことだった。

 その場に倒れ伏し、動かなくなった脚に叱咤するように殴りつけるが、意味は無し。

 やがてその場に恐怖が訪れる。草木を掻き分け、現れた顔は醜悪なモンスターの顔。


 泣き叫ぶことも出来ない、本当の恐怖の中彼女は……懐を探っていた。

 何かこの状況を覆すものはないかと必死にアイテムを探しているのだ。そう、彼女は未だ諦めていなかった。

 そして探していたものを見付けたのか、恐怖しかなかった目に少しだけ力が戻る。外套が翻るほどの勢いで振り抜かれた手から放たれた物はとあるアイテム。

 それは対象に火属性の魔法ダメージを与えることが出来る魔石だ。

 決して安くはない。だからこそ威力が約束されている、そんなアイテムだった。


 そう、そのモンスターには効果が無いと知るまでは。

 再び彼女の眼に恐怖が宿るのも時間の問題だった。

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