14話 みぃちゃんと洗面台
みぃちゃんから電話があった。
「トイレの洗面台をきれいにするからおいでよ。ガチャン。」
みぃちゃんは自分でガチャンと言ってから電話を切った。
僕は電車に乗って、みぃちゃんのうちに行く。家の前まで来るとみぃちゃんが見えた。五十センチくらいのアルミのタライが目の前にある。みぃちゃんが重そうな袋をぶちまけて、たらいの中に砂を入れた。
「ハル君、これから水を入れるからね。そしたら、力いっぱい混ぜるんだからね。寝てたらダメなんだからね。あくびしてる場合じゃないんだからね。寄り道したらダメなんだからね。帰るまでが遠足だからね。しっかり手伝ってね。これがセメントになるんだからね。遊ぶのは宿題やってからなんだからね。」
「うん、わかった。まかせてよ。みぃちゃん。」
僕はみぃちゃんの冗談を無視して返事をした。ちょっと、寂しそうにしてる。かわいいな、みぃちゃんは。僕はみぃちゃんに見とれながら、右手に持ったスコップを握り締めた。
みぃちゃんが別の洗面器に入れておいた水をたらいの中に流しいれた。
「よし、混ぜてっ。」
二人で一生懸命に混ぜた。初めての共同作業だ。白っぽい砂がべとべとになりながら灰色に変わっていく。ケーキだろうか。いやセメントだ。
「このぐらいで、良さそうよ。」
「うん。そだね。結構、重たかったねー。」
「ほんとうね。これは一回限りにしたいわ。」
「さ、これをトイレまで持っていくからね。お願いね。」
「えっ、僕が持つの?」
返事もせずにみぃちゃんが家に入っていった。僕はあわててタライを持ち上げた。すっごい、重い。みぃちゃんっていじめっ子なのかな・・・・・
トイレの前に着いた。僕はタライを置いた。トイレ用にしては少し大きい洗面台があった。古めかしいコンクリート製の四角い洗面台だ。
「洗面台の中に貼ってあったタイルを全部はがしたの。」
「それで、中がざらざらしてるんだね。」
「そうなの。ちょっと汚いでしょ。それでね、綺麗にするって訳よ。」
そう言って、みぃちゃんは練り上がったセメントをスコップで掬って、その洗面台の中に入れ始めた。僕も四回くらい掬って入れた。そうして、洗面台の底に三センチくらいの厚みができた。二人でそれをスコップでならしていく。ときどきみぃちゃんと腕があたって僕はどきどきする。
「排水溝の周りを低くして、蛇口の下は高くしてね。斜めに水が流れるようにね。」
みぃちゃんがそう言った。僕たちは二人で丸いスコップを使って平たくならすのに、四苦八苦していた。
やっと、できあがった。何本かのスコップの跡が線になって浮き出た少しでこぼこな平面だった。とても平面とは呼べないくらいでこぼこだった。
「ふぅ、大変だね。だけど、これからが楽しいところだからね。」
「そうなの?」
「うん、ここにビー玉を埋めていくの。キラキラ洗面台を作るんだっ。えへっ。」
みぃちゃんはそう言って、てへぺろをした。
馬鹿だろうか。いや馬鹿じゃない。だけどやっぱり馬鹿かもしれない。馬鹿じゃないよ。
頭の中からいろんな声が聞こえてきた。
「どうしたの?さっ、やろう。ビー玉はいっぱいあるからね。」
それから二人でみぃちゃんの用意していたビー玉をセメントに埋めていった。キラキラ洗面台だなんて、わくわくするな。みぃちゃんも女の子だったんだね。
「なかなかきれいにできたんじゃない。」
「うん。かわいくできたね。みぃちゃん。」
僕がそう言うまえから、みぃちゃんは得意気だった。準備からアイデアまでみぃちゃんがして、古い洗面台が綺麗な新しいキラキラ洗面台に生まれ変わったのだから、得意になるのも当然だ。
「みぃちゃんは天才だね。」
僕が適当に褒めると、みぃちゃんはとっても照れて、
「そんな。天才だなんて。もう、褒めたって何もでないんだからねっ。」
と言って、恥ずかしそうに笑った。
かわいいな。急にみぃちゃんが光って見えた。ビー玉よりも透きとおって、キラキラまぶしい。このままみぃちゃんとずっと二人で一緒にいられたらいいのに。僕はそう思うとみぃちゃんに言ってみた。
「ずっと、こうやって二人で過ごせたらいいね。みぃちゃん。」
みぃちゃんは黙った。ずっと洗面台のビー玉を見ている。
「何いってるの。あたりまえじゃない。ずっと二人で一組。いつも一緒よ。」
みぃちゃんは僕のほうを見た。
「だって、そうじゃないと、私、どうしていいかわかんないもの。離れちゃ嫌だよ。ずっと一緒にいてね。」
みぃちゃんは目をうるうるさせて、そう言った。僕はもうどうなってもかまわない。みぃちゃんと二人でずっと一緒にいるんだと固く誓ったのだった。
「乾くまでがDIYだからね。」
誓いに水が差されたのだった。




