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8/21

アデル公爵夫人のサロン


私は一覧に記された名前と記録を、一つひとつ追っていった。


そして最後まで読み終えてから、ゆっくりとそこから視線を上げた。


ある程度は分かっていた。

けれど、思っていた以上に、エドガーの影響は根深かった。


完全に取り除かなければ危険なほどに。


「ロイド、ご苦労さまでした」

「恐れ入ります。またご指示がございましたら、いつでもお申しつけください」


ロイドは深く腰を折って一礼し、下がっていった。



数日後の夕方、私はアデル公爵夫人の開くサロンに出席した。


夫人は母の親友であり、母が亡くなってからも、幼い私を何かと気にかけてくれた。

デビュタントのときも、自ら後見人を務めてくれた方だ。


そんな方からの招待を、私が断れるはずもなかった。


今日のサロンは、夫人の応接室に有名なピアニストを招き、演奏を聴くための集まりだった。


当然のように、エドガーも私とともに招かれていた。


ピアノの演奏は美しく、出席者たちは皆、楽しげな顔で耳を傾けていた。


私もまた、深く感じ入りながら演奏を聴いていた。

最後の高音には、肌が粟立つほどだった。


やがて曲が静かに終わり、ピアニストが椅子から立ち上がった。

拍手の音が応接室に響いた。


「本当に素晴らしい演奏でしたわ」

「アデル公爵夫人のおかげで、よい音楽を聴くことができました」

「まあ。皆様に楽しんでいただけたのなら、私も嬉しいですわ」


アデル公爵夫人の顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。


そのときだった。


エドガーが席を立つと、ピアニストの前へ大股で歩み寄った。

彼はひどく感動したように目まで潤ませ、ピアニストを褒め称えた。


「まるで天使が奏でる音楽を聴いているようでした」

「身に余るお言葉、ありがとうございます、ナルシアン様」

「これほど美しい音楽を聴いて、何もしないわけにはいきませんね」


エドガーは、少し声に力を込めて宣言した。


「私が個人的に後援いたしましょう」


ピアニストは驚いた顔をしたあと、ぱっと明るく笑った。


「ありがとうございます、ナルシアン様」


周囲の貴族たちから、次々と感嘆の声が上がった。


「まあ、さすがナルシアン伯爵令息ですわ」

「美しい音楽の価値をよく分かっていらっしゃる」

「後援とは、文化のためにも実に意義深いことですな」


貴族たちの、エドガーへの好意に満ちた称賛。


その中には、純粋な好意からエドガーを見ている者もいるだろう。

けれど、それがすべてとは限らない。


たとえば、エドガーの機嫌を損ねれば、物資の輸送の際に何か面倒が起こるかもしれない。

それにエドガーは、いずれクラディエ公爵家へ婿入りする予定の身でもある。


なおさら、彼の機嫌を取っておいて損はなかった。


使用人たちも同じだ。


厳しい主人より、優しい主人のほうが、彼らにとっては都合がいい。

緊張せずに済み、叱られることも少なくなり、失敗も大したことではないと流される。

そのほうが、ずっと楽に働けるのだ。


けれど、エドガーはそれをまるで分かっていないようだった。


人々が自分を褒めるのは、すべて自分の人柄のおかげだと思っているらしい。


そうではないかもしれないと、エドガーに教えてやるつもりはない。

教えたところで、どうせ彼には通じないだろう。


皆の称賛を受け、エドガーの顔はますます明るくなっていった。


彼は胸を張り、堂々と言った。


「この程度、大したことではありません。今日のことが、皆様がより素晴らしい音楽に触れるきっかけとなれば幸いです」


黙ってその様子を見ていた私は、そっとアデル公爵夫人の顔色をうかがった。


予想どおり、夫人の口元はわずかにこわばっていた。


こうしたサロンで、主催者を差し置き、客が前に出て人々の注目を一身に集めるのは、決して礼儀にかなった振る舞いではない。


夫人の様子を見た私は、急いで話題を別のほうへ向けようとした。


「そういえば、最近は夜会であまりお見かけしませんでしたね、夫人。お忙しくなさっていたのでしょうか」

「年を取ると、夜会に出向くのもなかなか大変なのです」

「とんでもございません。まだお若くてお美しいですのに」

「そんなふうに言ってくださるのは、クラディエ嬢くらいです。うちの息子たちにも、少しはあなたを見習ってほしいものですね」


夫人は柔らかく微笑んだ。

そこでようやく、私は安堵の息をついた。


一方、エドガーは、私が慌てて話題を変えたことが気に入らなかったのか、不満げな顔をしていた。

だが、すぐに柔らかな笑みを浮かべ、その表情を取り繕った。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
>厳しい主人より、優しい主人のほうが、彼らにとっては都合がいい。 こうやって、相手に都合のいい人を演じる事で、人から好評を得ようと私もしてきたな。会社でも家でも。 だからほんとのコミュニケーション…
きつい言い方をすれば、承認欲求が強いだけのクソガキやん。主催者に気を遣えない振る舞いや態度が、失礼だってわかってないとか、貴族としてどうなん? ていうレベルの……
 所詮はなんちゃって善良貴族よな。善いことする前に礼節を学び直せ。
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