アデル公爵夫人のサロン
私は一覧に記された名前と記録を、一つひとつ追っていった。
そして最後まで読み終えてから、ゆっくりとそこから視線を上げた。
ある程度は分かっていた。
けれど、思っていた以上に、エドガーの影響は根深かった。
完全に取り除かなければ危険なほどに。
「ロイド、ご苦労さまでした」
「恐れ入ります。またご指示がございましたら、いつでもお申しつけください」
ロイドは深く腰を折って一礼し、下がっていった。
◇
数日後の夕方、私はアデル公爵夫人の開くサロンに出席した。
夫人は母の親友であり、母が亡くなってからも、幼い私を何かと気にかけてくれた。
デビュタントのときも、自ら後見人を務めてくれた方だ。
そんな方からの招待を、私が断れるはずもなかった。
今日のサロンは、夫人の応接室に有名なピアニストを招き、演奏を聴くための集まりだった。
当然のように、エドガーも私とともに招かれていた。
ピアノの演奏は美しく、出席者たちは皆、楽しげな顔で耳を傾けていた。
私もまた、深く感じ入りながら演奏を聴いていた。
最後の高音には、肌が粟立つほどだった。
やがて曲が静かに終わり、ピアニストが椅子から立ち上がった。
拍手の音が応接室に響いた。
「本当に素晴らしい演奏でしたわ」
「アデル公爵夫人のおかげで、よい音楽を聴くことができました」
「まあ。皆様に楽しんでいただけたのなら、私も嬉しいですわ」
アデル公爵夫人の顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。
そのときだった。
エドガーが席を立つと、ピアニストの前へ大股で歩み寄った。
彼はひどく感動したように目まで潤ませ、ピアニストを褒め称えた。
「まるで天使が奏でる音楽を聴いているようでした」
「身に余るお言葉、ありがとうございます、ナルシアン様」
「これほど美しい音楽を聴いて、何もしないわけにはいきませんね」
エドガーは、少し声に力を込めて宣言した。
「私が個人的に後援いたしましょう」
ピアニストは驚いた顔をしたあと、ぱっと明るく笑った。
「ありがとうございます、ナルシアン様」
周囲の貴族たちから、次々と感嘆の声が上がった。
「まあ、さすがナルシアン伯爵令息ですわ」
「美しい音楽の価値をよく分かっていらっしゃる」
「後援とは、文化のためにも実に意義深いことですな」
貴族たちの、エドガーへの好意に満ちた称賛。
その中には、純粋な好意からエドガーを見ている者もいるだろう。
けれど、それがすべてとは限らない。
たとえば、エドガーの機嫌を損ねれば、物資の輸送の際に何か面倒が起こるかもしれない。
それにエドガーは、いずれクラディエ公爵家へ婿入りする予定の身でもある。
なおさら、彼の機嫌を取っておいて損はなかった。
使用人たちも同じだ。
厳しい主人より、優しい主人のほうが、彼らにとっては都合がいい。
緊張せずに済み、叱られることも少なくなり、失敗も大したことではないと流される。
そのほうが、ずっと楽に働けるのだ。
けれど、エドガーはそれをまるで分かっていないようだった。
人々が自分を褒めるのは、すべて自分の人柄のおかげだと思っているらしい。
そうではないかもしれないと、エドガーに教えてやるつもりはない。
教えたところで、どうせ彼には通じないだろう。
皆の称賛を受け、エドガーの顔はますます明るくなっていった。
彼は胸を張り、堂々と言った。
「この程度、大したことではありません。今日のことが、皆様がより素晴らしい音楽に触れるきっかけとなれば幸いです」
黙ってその様子を見ていた私は、そっとアデル公爵夫人の顔色をうかがった。
予想どおり、夫人の口元はわずかにこわばっていた。
こうしたサロンで、主催者を差し置き、客が前に出て人々の注目を一身に集めるのは、決して礼儀にかなった振る舞いではない。
夫人の様子を見た私は、急いで話題を別のほうへ向けようとした。
「そういえば、最近は夜会であまりお見かけしませんでしたね、夫人。お忙しくなさっていたのでしょうか」
「年を取ると、夜会に出向くのもなかなか大変なのです」
「とんでもございません。まだお若くてお美しいですのに」
「そんなふうに言ってくださるのは、クラディエ嬢くらいです。うちの息子たちにも、少しはあなたを見習ってほしいものですね」
夫人は柔らかく微笑んだ。
そこでようやく、私は安堵の息をついた。
一方、エドガーは、私が慌てて話題を変えたことが気に入らなかったのか、不満げな顔をしていた。
だが、すぐに柔らかな笑みを浮かべ、その表情を取り繕った。
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