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誰の屋敷の使用人ですか


まるでクラディエ公爵家の主人にでもなったかのようなエドガーの振る舞いが、どうにも理解できなかった。


エドガーに言いたいことは山ほどあった。


「エドガー様、本気で大したことではないとおっしゃるのですか。アデル公爵夫人に非礼を働くところだったのですよ」

「ルア、君は細かすぎる。さっきのジェーンの顔を見た? 今にも泣きそうで、本当にかわいそうだったよ。この程度のことで人を傷つけてはいけない」

「……」


エドガーとは話が通じない。

そうして彼は今日も、自分の望むとおりの善人になった。

私を悪者にして。


口元に浮かびかけた冷笑を飲み込み、私はエドガーに向かって言った。


「エドガー様、それでは先ほど申し上げたとおり、仕事がございますので、私はこれで失礼いたします」

「ルア、怒っているわけじゃないよね?」

「いいえ。そのようなことはございません」


私は彼に完璧な笑みを返し、一礼してその場をあとにした。

執務室へ戻る私の後ろについてきた執事のロイドが、声をかけてきた。


「ジェーンを呼び戻してまいります」

「ええ」


今日のエドガーの振る舞いは明らかに一線を越えていた。


だが、理解できないという点では、ジェーンも同じだった。

主人である私に確認も取らず、エドガーの言葉だけで本当に下がるなんて……。


彼女が私とエドガーをどう見ているのか、よく分かった。

エドガーが日頃から使用人たちを庇い、優しく接しているから、それに甘えているのだろう。


エドガーが使用人たちと少し親しすぎることは知っていた。

けれど、とうとう使用人が私よりエドガーを優先するところまで来てしまったのだ。


まもなく私の部屋に呼ばれてきたジェーンに、私は尋ねた。


「ジェーン、私はあなたに下がって休みなさいと言いましたか」

「いいえ。そのようにおっしゃったのはナルシアン様です」

「そのナルシアン様は、このクラディエ公爵家の主人なのですか」

「……いいえ」


そこでようやく自分の過ちに気づいたのか、ジェーンははっと息を呑んだ。


「分かっているなら結構です。下がって仕事に戻りなさい」


私は「仕事」という言葉に力を込めて言った。

ジェーンは力なく下がっていった。


そのあと、私はそばに控えていたロイドへ視線を向けた。


「ロイド」

「はい、お嬢様」

「使用人たちについて、改めて調べてください。誰が信頼に足るのか、見極める必要があります」


ロイドは私の言葉の意味を理解し、深く頭を下げた。


「かしこまりました」


この屋敷の誰が、本当にクラディエ公爵家のために働いているのか。

そして誰が、エドガーの優しさに身の程を忘れるほど甘えているのか。

正確に把握しておく必要があった。



この件について、私はジェーンにこれといった処分を下さなかった。

処分を下すには十分な不手際だったが、いったん保留し、様子を見ることにした。


そしてジェーンは、数日後、また大きな不手際をしでかした。


令嬢たちがクラディエ公爵家の屋敷に集まる、定例の読書会でのことだった。


紅茶を一口飲んだラヴィス侯爵令嬢が、かすかに眉をひそめた。

私はその小さな違和感を見逃さず、彼女のカップへ視線を落とした。


そしてすぐに、その違和感の正体に気づいた。


ロセル伯爵令嬢が飲むはずだったセイロンティーが、ラヴィス侯爵令嬢の前に置かれていた。

ラヴィス侯爵令嬢のためのローズヒップティーは、反対にロセル伯爵令嬢の前に置かれていた。


セイロンティーとローズヒップティーは、遠目にはよく似た赤みを帯びた色合いに見える。

だが、近くで見れば濃さも香りも違う。

それを取り違えたのなら、接客に必要な確認を怠ったと言うほかなかった。


二人の令嬢は、そろって困ったような表情を浮かべていた。


「何か手違いがあったようです。申し訳ございません。すぐに淹れ直させます」


二人の令嬢に丁寧に詫び、私は茶をいったん下げさせ、新しいものを用意させた。


「私は大丈夫です。どうかお気になさらないでください」

「人のすることですもの、手違いくらいあるでしょう」


幸い、二人の令嬢はそう言ってくれた。

その言葉どおり、こうしたミスは使用人なら起こしうるものだった。


問題は、そのミスをしたのが、またしてもジェーンだったということだ。


誕生日の夜会の名簿から名前を漏らした件から、まだいくらも経っていない。

それなのに彼女は十分な注意を払わず、接客の場でまた不手際を起こしたのだ。


茶の件をそれ以上口にする者はおらず、読書会は滞りなく進み、無事に終わった。


令嬢たちが帰ったあと、私はジェーンと侍女頭を呼んだ。


叱られることは分かっていたのか、ジェーンの表情は暗かった。


「ジェーン、今回のことは注意だけで済ませるわけにはいきません」


私の言葉に、彼女の顔がさらに強ばった。

侍女頭まで一緒に呼ばれた時点で、彼女もおおよその察しはついていたのだろう。


「あなたの半月分の給金を減額します。それから、三日間は接客業務から外します」

「……はい」

「その三日間、侍女頭はジェーンに接客業務を徹底的に再教育してください」

「かしこまりました、お嬢様」


いつの間にか、ジェーンの顔は真っ赤になっていた。

それが自分の不手際を恥じてのことなのか、それとも侍女頭の前で処分を告げられたことが恥ずかしいだけなのか、私には分からなかった。


今回のことで、少しでも何かを学んでくれればいいのだけれど……。


そう思いながら、私は二人を下がらせた。

ほどなくして、ノックの音がした。


「入りなさい」


私がそう告げると、ロイドが静かに部屋へ入ってきた。


「ナルシアン伯爵令息がいらっしゃいました」


またエドガーの訪問だった。


今回もきっと、大した用件もなく、つまらない贈り物を差し出してくるのだろう。

私は小さくため息をつき、答えた。


「少し片づけなければならないことがありますので、お待ちいただくよう伝えてください」


ジェーンの代わりに接客に回す使用人の手配は、思ったより早く済んだ。

エドガーをあまり長く待たせるわけにもいかず、私は席を立った。


応接室へ向かう廊下で、エドガーの声が聞こえた。


「何だって? 三日も再教育? しかも減給まで?」


ジェーンはすすり泣いているらしく、かすかな泣き声が聞こえた。

そして、そのあとに聞こえた涙混じりのジェーンの声に、私は耳を疑った。


「私が悪かったのは分かっています。でも、お嬢様は……本当にひどいです」


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ジェーンは彼の恋人ですか?(真顔/違うと解ってて言ってる) だってまだ婿にすらなってないんですよ?それなのにこんなに甘えるなんて…そのくせ嫌だからやめるとか言わないのって公然と会える場所だからでは…?…
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