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大丈夫、大丈夫


「公爵閣下……」


エドガーは腕を組んだまま固まった。


私と目が合うと、父は静かにうなずいた。

それから、言葉を続けた。


「ナルシアン令息。君がクラディエ公爵家の使用人たちに対し、たびたび権限を越えた振る舞いをしていたという報告を受けている。そして今日は、娘の客人たちから寄せられた厚意までも、自分の善行を見せびらかす道具にしようとした」

「公爵閣下……それは」

「君はクラディエ公爵家の後継者であるルアの夫にはふさわしくない。ナルシアン伯爵家との婚約は破棄する」


エドガーは力が抜けたように、その場に崩れ落ちた。

今、自分が置かれている状況を信じられないかのように、呆然としていた。


皆が、冷ややかな視線を彼に向けていた。


「そういえば、ナルシアン令息はずっとお優しかったけれど、周りの目を気にしている感じがしたわね」

「親切な自分に酔っていらしたのかもしれませんね」

「人から称賛されるのを楽しんでいたようにも見えました」


囁き声に耐えきれなくなったのか、エドガーは耳を塞いで叫んだ。


「ありえない。僕がこんな目で見られるはずがない! ……そんな目で見るな。僕は、僕は……いい人だろう?」


けれど彼が泣き叫ぶあいだ、これまで彼に親切にしてもらったはずの者たちは、誰一人として彼を庇おうとはしなかった。


むしろ、彼の姿を嘲るような声ばかりが大きくなっていった。

その中で、何人かの客人だけが少し心配そうに声を潜め、囁き合っていた。


「聞こえているようですわ。少し声を落としたほうがよろしいのではなくて?」

「大丈夫ですわ。今日のことで、ナルシアン令息は伯爵からも見放されるでしょう。気にする必要はありません」

「つまり、糸の切れた凧ということですわね」


糸の切れた凧。


その言葉もまた、はっきりとエドガーの耳に届いているはずだった。

エドガーの瞳から、すっと光が失われていった。


これからエドガーはどうなるのだろう。


そもそも彼は、公爵家の跡取りである私と結婚し、婿入りする予定だった。

けれど私との婚約は破棄され、貴族たちのあいだでの評判まで地に落ちた今、伯爵家の四男である彼に行き場などあるのだろうか。

彼には行く場所も、継ぐ爵位もないはずだった。

少なくとも、彼の父であるナルシアン伯爵は激怒して、彼を家から叩き出すに違いない。


座り込んだままのエドガーは、力なく周囲を見回したあと、私に視線を留めた。


「ルア、ルア……」


弱々しく呼ぶ声に、私は彼が何を言うつもりなのか気になり、近づいた。

すると、エドガーの目が少しだけ輝いた。


彼はゆっくりと立ち上がった。


「ルア、聞いてくれ。僕が悪かった」


エドガーは眉尻をこれでもかと下げ、すがるような声で言った。


「今まで君が、僕のことをそんなふうに思っていたなんて本当に知らなかったんだ。ずっとつらかったんだね、ルア」


私は何も言わず、ただ聞いていた。


彼の考え方は、本当に少しでも変わったのだろうか。


「僕は、君がそんなにつらい思いをしていたことにも気づかず、自分のことばかり考えていたのかもしれない」

「……」

「本当に反省しているんだ」


エドガーは頭を下げてみせ、さらに言葉を続けた。


「君の未熟なところを教えてあげたのが、そんなに気に障っていたなんて知らなかったんだ。善意でやったことだったのに……」

「……」

「これからはしない。……だから、許してくれ」


エドガーの謝罪は、実に驚くべきものだった。

あまりにも何も変わっていない姿に、心から驚いた。


本当に、何ひとつ反省していないのね、この人は。


「もう終わったことです。私たちはもう、何の関係もありません」

「ルア……本気なのかい? 僕がこんなに反省しているのに……」

「本気です」


エドガーのひどく虚ろな視線が、宙をさまよった。

まるで魂が抜け落ちたような顔だった。


私はそんなエドガーに、平然と言葉を投げかけた。


「大丈夫ですよ、エドガー様。生きていれば、婚約を破棄されることも、家を追い出されることもありますわ。誰にだって失敗はあります。大丈夫、大丈夫」


ぽかんと口を開けたエドガーは、何も言い返せないまま、その場で石になったように固まっていた。


言い返す言葉などないのだろう。

自分がいつも口にしていた、軽くて無責任な言葉を、そのまま返されたのだから。


今なら、その「大丈夫」という言葉がどれほど軽いものなのか、少しは分かっただろうか。


分かっていても、いなくても。

もう私の婚約者でも何でもない彼を、これ以上目の前に置いておきたくはなかった。


「それでは、エドガー様。いえ、ナルシアン伯爵令息」


その名で呼ばれることも、そう長くはないでしょうけれど。

今はまだ、そう呼んで差し上げましょう。


「もう、この場からお引き取りくださいませ」


私は優雅な仕草で、出口を示した。


お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
しかも、チョコクッキー好きだったよね?バラが好きだったよね?ってどこの女の好きなものなんだよ。浮気してんのか? て思って読んでました
親がまともで良かったε-(´∀`;)ホッ まだざまぁが足りんけど、きっとこいつは実家からも捨てられるな。まだちゃんと反省してないからな、ちゃんと後悔してほしい。
「大丈夫 大丈夫」がこんな風に使われるのが新鮮。スッキリ!!気持ちのいい ざまぁ をありがとうございます。
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