誕生日の夜会、善人の仮面
誕生日の夜会のあいだ、エドガーは本当に多くの人に親切に振る舞っていた。
花瓶を割った侍女に「大丈夫、大丈夫」と声をかけ、幼い令嬢には私の分のケーキを勝手に譲っていた。
今日も彼は誰にでも親切で、まさに善人の鑑だった。
そしてエドガーは、私が動くまでもなく、自分から隙を見せた。
客人たちからいただいた贈り物が山のように積み上がっているのを見て、彼が私に話しかけてきた。
「ルア、君はもう十分に恵まれているだろう? 今日いただいた贈り物を、孤児院の子どもたちに寄付してはどうかな」
私は一瞬言葉を失い、彼の顔と贈り物の山を交互に見た。
「……あの贈り物を、ですか?」
「そうだよ。我がナルシアン伯爵家では、昔から孤児院に金品を寄付してきた。今日も父と母は、孤児院を支援するための慈善バザーに出席しているんだ」
「そうなのですね」
「せっかく君の誕生日に、これほど多くの贈り物が集まったんだ。あのかわいそうな子どもたちがこんな贈り物をもらったら、どれほど喜ぶだろうね」
「ですが、それは私への贈り物です」
いくらなんでも、誕生日の贈り物を寄付しろだなんて……。
思いもよらない提案だった。
困惑した私の顔を見て、エドガーは失望したような表情を浮かべた。
「ルア、そんなに惜しいのかい」
「いえ、そうではなくて……」
エドガーはため息をつき、周囲を見回した。
いつの間にか、私たちの会話に興味を持った者たちがこちらを見ていた。
その視線を自分に都合よく受け取ったエドガーは、眉尻を下げた。
「ルア、周りの目が気になるんだね? 大丈夫、大丈夫。僕が皆に、ルアのことをきちんと説明しておくから」
エドガーは、周囲の人々にも聞こえるように言った。
「皆様、どうかルアを誤解しないでください。ルアはただ裕福な家で育ち、世間を知る機会がなかっただけなのです。決して心の狭い令嬢ではありません」
すると、会場の空気が微妙にざわついた。
何も言っていない私は、いつの間にかまた、かわいそうな子どもたちを見捨てる冷酷な令嬢に仕立て上げられていた。
私の様子を見てさらに調子に乗ったエドガーが、一段と大きな声で言葉を重ねた。
「さあ、僕の言う通り、これらの贈り物を孤児院に送ることを真剣に考えてみたらどうだい? ルア」
貴族たちのざわめきは、少しずつ大きくなっていった。
ざわめきが大きくなるほど、エドガーはますます得意げに胸を張った。
私はゆっくりと息を吐き、口を開いた。
「そうですか。そこまでおっしゃるなら、ここにいらっしゃる皆様に伺ってみるべきでしょうね」
私は客人たちのほうへ体を向けた。
そして、はっきりとした声で告げた。
「皆様、ナルシアン伯爵令息が、皆様からいただいた贈り物をすべて孤児院に寄付してはどうかとおっしゃっています。皆様はどうお考えでしょうか」
「私たちがクラディエ嬢に贈ったものを、ですか?」
「それは少し……」
貴族たちの反応が自分の思惑と違ったのか、エドガーの表情がこわばった。
そこでようやく、自分の失言に気づいたのだろうか。
彼は慌てて口を開いた。
「い、いえ、私はすべてを寄付しようと言ったのではなく、重要な方々からの贈り物は残して、一部だけを寄付すればと……」
けれど、取り繕おうとしたその言葉で、彼はさらに墓穴を掘った。
私は優雅に扇を閉じ、手のひらにぱちんと打ちつけた。
「エドガー様、そのお言葉はまるで……この場に、重要ではない方がいらっしゃると言っているようにも聞こえますが」
私は静かに会場を見渡した。
「この場にいらっしゃる方々は皆、私の誕生日を祝うために足を運んでくださった大切なお客様です。その中に、重要ではない方などいらっしゃるのでしょうか?」
私の言葉に呼応するように、客人たちが一人、また一人と口を開いた。
「そうですわね。では、わたくしども子爵家の者は、重要ではない客人として扱われるのでしょうか?」
「ナルシアン令息は、そういう意味でおっしゃったのですか?」
「そんな方だとは思いませんでしたわ。重要ではない贈り物だなんて、少々ひどいのではなくて?」
エドガーの顔から、みるみる血の気が引いていった。
そのとき、アデル公爵夫人が一歩前に進み出た。
「ナルシアン令息、今のご発言は看過できませんね」
重みのある彼女の声が響くと、周囲の貴族たちは自然と一歩身を引いた。
「慈善は立派な行いです。けれど、他人に贈られた祝福と厚意の証を使って慈善を行うのは、礼を欠く振る舞いです」
「っ……私は、その……」
エドガーは言葉を探しているようだったが、結局うまい返事は見つからず、赤くなった顔を伏せた。
「それに、以前から気になっておりましたが、あなたは婚約者であるクラディエ嬢を、ことあるごとに貶めています。それが婚約者として正しい態度と言えるでしょうか」
公爵夫人の声は、針のように鋭かった。
彼女の言うとおりだった。
いつも人目を気にしながら優しく振る舞い、「いい人」でいようとしていたエドガー。
エドガーが善人ぶるたび、私は悪役に仕立て上げられていた。
その振る舞いは、私だけでなく、我が家の名まで傷つけるものだった。
「ルア、僕はそういうつもりじゃなくて、本当に君の評判のために……」
弱々しい声でつぶやくエドガーの言い訳は、あまりにも見苦しかった。
「私の評判、ですか? あなたの隣にいるせいで、いつも下がっていたその評判のことですか?」
私は冷ややかに笑った。
「あなたはいつも、誰かにとっては優しい人でした。困っている人には手を差し伸べるほど親切で、失敗した人には『大丈夫、大丈夫』と言えるほど慈悲深かった」
「……いったい何を」
「でも、そのたびに大丈夫ではなかったのは、私のほうでした」
「……」
「私はもう、あなたの隣であなたを引き立てるための悪役を演じるつもりはありません」
「ルア、それはどういう意味だ……」
「あなたとの婚約を終わらせるという意味です」
「何だって?」
エドガーは一瞬眉をひそめると、すぐにいつもの尊大な態度に戻り、腕を組んだ。
「ルア、君はいつもそうやって感情的になるね。分かっていないようだけれど、貴族の婚約は感情でどうこうできるものじゃない。家と家との契約だ」
「その契約を続けるつもりは、当家にはもうない」
その言葉とともに、父が私の隣に進み出た。
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