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ジェーンの末路


ジェーンは、はじかれたように顔を上げ、目を見開いて私を見た。


最悪でも解雇で済むと思っていたのだろう。衛兵隊に引き渡されるとは、考えてもいなかったような顔だった。


「そんな……そんなこと……」


警備兵がジェーンの両腕をしっかりとつかんだ。


その時になって、ようやく自分の置かれた状況を実感したのか、彼女は抵抗しながら激しく首を振った。


「どうして……。これはあんまりです! 小さな失敗だけで、こんなことをなさるなんて!」


彼女にとって、自分のしたことは、いまだにただの小さな失敗でしかないらしい。

本当に最後まで、彼女は反省しなかった。

反省するどころか、状況も正しく理解できていないようだった。


私はそんな彼女を一瞥し、警備兵に言い添えた。


「クラディエ公爵家名義の正式な招待状を、無断ですり替えた件です。詳しい経緯はロイドが説明します」


警備兵は私に一礼すると、なおも抵抗するジェーンを連れて部屋を出ていった。ロイドもすぐにその後を追う。


連れていかれるジェーンの、涙混じりの声が聞こえた。


「誰か……エドガー様に。エドガー様に知らせてください……お願い……」


最後の一言まで、彼女らしかった。



ジェーンの件は、誰かがエドガーに伝えるだろうと思っていた。


それから数日後。

エドガーが訪ねてきたという報告が入った。


私はすぐには向かわず、わざとゆっくり応接室へ向かった。


予想どおり、エドガーと誰かが話している声が聞こえてきた。


「ジェーンが解雇されました。それだけではありません。王都衛兵隊へ連れていかれたのです」

「……そうか。気の毒なことになったね」

「貴族家の名誉に関わることですから、事が大きくなったようです。このままでは、きっと厳しい裁きを受けることになります」

「そうか。彼女も、きっとつらいだろうね。僕も胸が痛いよ」


トムの切羽詰まった声。そして、エドガーの困ったような声。

二人は私の気配にも気づかないまま、会話を続けていた。


「ジェーンを助けていただけませんか」

「……僕が?」


エドガーはしばらく目を瞬かせた。

その表情は、まるで「なぜ僕が」と問い返しているようだった。


けれど、彼はすぐにその色を消し、いつもの優しく、思いやり深い顔を作った。


「もちろん、助けてあげたい気持ちはあるよ。けれど、すでに王都衛兵隊に引き渡されたのなら、僕が軽々しく口を出せることではない」

「ですが……どうか、お嬢様にお口添えくださいませんか。ジェーンのことを、少しでも……」

「これはクラディエ家のことだ。僕が下手に動けば、かえってジェーンの立場を悪くしてしまうかもしれない。彼女のためにも、ここは騒ぎを大きくしないほうがいいと思うんだ」

「……そう、ですか」


トムの顔に失望の色がにじんだ。


トムも、今ようやく分かったのだろう。

エドガーは「大丈夫」と言うだけで、何一つ責任を取らないのだと。


「本当に、つらいことだね」


エドガーは胸に手を当て、痛ましげに息を吐いた。


ひどく沈んだ表情で眉尻を下げていたエドガーが、廊下に立つ私に気づいた。

すると、すぐに明るい声で私を呼ぶ。


「ルア! 会いたかったよ」


そう言って、肩を落としているトムの横を通り過ぎると、私のほうへ大股で歩み寄ってきた。


「ルア、今日も忙しかった? 疲れていない?」

「ええ。エドガー様が今日いらっしゃるとは思っておりませんでした」

「久しぶりにチェスをしないかい?」

「そういたしましょう」


私と並んで廊下を歩く間、エドガーは一度もトムを振り返らなかった。

顔には絶えず笑みを浮かべたまま、ジェーンのことは一言も口にしない。


ジェーンの件など、何でもないという様子だった。

実際、何とも思っていないのだろう。


「ルア、どうしたの? 何かあった?」


エドガーが私の表情をうかがいながら尋ねた。


「いいえ。何も」


私は静かに答えた。


今日のことは、トムを通じて使用人たちに広まるだろう。

そして今日を境に、使用人たちのエドガーに対する態度も変わるはずだ。


最近、ジェーンが起こした一連の件で、クラディエ家のために働いている使用人が誰なのか、私は知ることができた。

そして結果として、使用人たちにエドガーの本質を見せることにもなった。

それは、今回の件で得られた数少ない収穫だった。



ジェーンは衛兵たちによって、王都衛兵隊の詰所まで連れてこられた。


「入れ」


衛兵が牢の扉の前で、ジェーンの背を乱暴に押した。


詰所まで連れてこられる間も現実感がなかったが、牢の冷たい石床に身をぶつけた瞬間、ジェーンはようやく自分の置かれた状況を実感した。


「待ってください、待ってください」


がしゃん、と牢の扉が閉まった。

鍵が掛けられると、彼女は鉄格子を両手でつかんだ。


「私は大きな罪なんて犯していません。どうして閉じ込めるんですか?」

「大きな罪を犯していない、ねえ」


衛兵が呆れたように舌を鳴らした。


「公爵家名義の書状を不正に使ったんだろう? まだ自分の罪が重いって分からないのか」

「そんな……私は、これからどうなるのですか?」

「少し前にも、お前と似た罪でここに入れられた者がいた。そいつも伯爵家の印が押された書状をこっそり持ち出して、二十年の労役刑を言い渡されたそうだ」

「労役刑を……二十年も?」


ジェーンの目が大きく見開かれ、青ざめた唇が小さく震えた。


「ああ。お前にも、似たような裁きが下るかもしれないな。貴族の名誉を傷つけるってのは、そういうことだ」


そこでようやく、自分のしたことの重さを知ったジェーンは、石床に力なく座り込んだ。


「私を……助けに来てくださる方がいます」

「お前を? 誰が」

「貴族の方です。きっと、助けてくださいます」


そう自分に言い聞かせるように、彼女は胸の前で両手を握りしめた。


衛兵はそんなジェーンを鼻で笑うと、自分の持ち場へ戻っていった。


ジェーンの両頬を、熱い涙が伝った。


エドガー様が、私を助けに来てくださる。

助けに……来てくださる。

……来てくださる、はずよね?


不思議なことに、はっきりした答えは得られなかった。


いつも憐れむような目で自分を見つめ、「大丈夫」だと言ってくれていたエドガーなのに。

牢に入れられた自分を助けてくれる姿だけは、どうしても思い浮かばなかった。


代わりに頭の中にはっきりと浮かんだのは、衛兵詰所の牢に閉じ込められたまま裁きを受け、労役刑を言い渡される自分の姿だった。


昼は監視の目の下で働かされ、夜は労役場の薄汚く臭い宿舎に押し込められる日々。


……助からない。

誰にも助けてもらえない。


私は、どこから間違っていたのだろう。


考えてみても、答えは分からなかった。


ジェーンは石床に座り込んだまま、虚ろな目で冷たい鉄格子を見つめていた。


お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
始めは小さなことだったかもしれないけど、「このくらい」と考え始めた時点でやらかすのは必然ですよね。小さなことでも「ミスはミス」と受け入れられない人は進歩しないですから... そして、そんな人を量産し…
バ◯に厳しく指導すると、ミスを隠そうといらん事をする もしも時間の書き間違いに気付かず、予定外の時間に招待客が来てしまったら、招待主、招待客共に不名誉な事になると、考えが及ばない辺りがダメダメですね…
清々しいザマァをありがとうございます (^^)v
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