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第42話・月餅(後編)

オム「【カキカキ】……うっかり夏のジパングに来てしまうだなんて。こんなことでは月だろうがケツだろうが見てもしょうがないじゃないか。一体どうすればいいんだ……と、途方に暮れるばかりでしたが、ふと空を見上げればそこには煌々と輝く満月がありました。拍子抜けです。夏の月だって秋の月に劣らぬ魅力があるではないですか。湿気を含んだ空気と清涼感のある白い月光。両者のコントラストを肌で感じられるのは、夏ならではの体験です。人生30年、当たり前すぎて意識したことさえなかったこの事実は、私を感動させるのに十分な発見でした。月見と言えば秋。そんな固定観念に縛られていた自分を恥じるばかりです。秋に限らず春夏秋冬すべての月を眺め、五感で月の恩恵を堪能してこそ、真の月見なのでしょう。そして古の人々があらゆる季節の月を眺めて、比べて、吟味してきたからこそ、秋の月が最も美しいと結論づけられ、今日の月見の文化に受け継がれているのでしょう」


***


ナレーション6「時に。ミナト==スタ=ハツなる女がおりました。彼女は雪ウサギ隊のサイキッカー。サイコパワーで強化した腕力で数多の敵をなぎ倒す様はまさに圧巻。その一方、敵兵に気付かれることなく肉薄し、接吻で思考を読み取って情報を抜き出す技巧派な一面も。俗に言うサイコキネシスは扱えず、パワーとテクニックに特化した白兵戦専門の戦闘員であります。しかしながら敵兵に逢うこともない山奥ではそうそう戦闘員としての出番もなく、今夜はタチの悪い絡み酒を披露した末、だらしなく酔い潰れる醜態を晒していたのでした」


ハツ「ZZZ」


***


ナレーション6「前回に続き、身を寄せ合って語らうブレンとメガネ。雪ウサギ隊の経歴が少しずつ明らかになってゆきます」


メガネ「農場の厳しい環境を生き抜いてきたっちゅー話はわかった。けど、アンタらが今4人揃ってここにおる以上、なんらかの方法で農場から脱出したんやろ?それはどうやったん?」


ブレン「……」


メガネ「どしたん?」


オム「【カキカキ】……ところで、私は自分が相当な間抜けであることについさっき気が付きました。今現在、私の頭上には雲ひとつない夜空が広がっています。これ程の快晴ならばわざわざ山に登らずとも、麓の街の公園などでも十分に月は見えたはずです。月見に執着するあまり、わけもわからないままにケツを求めて辺鄙な山へ入ってしまった自分の浅はかさを後悔せずにはいられません」


ナレーション6「ダンボールの上で眠る雪ウサギ隊の仲間たちに目をやるブレン。しばしの沈黙の後、何かを決意するかのような口調で話の続きを切り出すのでした」


ブレン「……ママ」


メガネ「何々?『あれは××96年の1月だった。農場を脱出したと言うよりは、農場が潰れて外に出ることになったと言うのが正しい』?」


ブレン「ママ」


メガネ「『SAURUS(ザウルス)の経営終了……つまり地上のスキー場の閉鎖に伴って、同時に地下の農場も閉鎖された。表向きにはそういうことになっている』」


ブレン「ママ」


メガネ「『正規軍が入手した幕府の機密文書にはさも計画的な閉鎖であったかのように記されていたが、実際のところは違う。多数の死者を出した事故とアンチY染色体協会の介入が原因で施設の継続的な運営が困難になったというのが事の真相なのだ』」


オム「【カキカキ】……こうなったらもうヤケです。普段の私ならば行く気にもならない高所まで来たのですから、ケツを眺めまくってなんとしてでも元を取ってやろうではないですか。私のなけなしの表現力を総動員して、眼前のケツの存在を文字に残してやります。ええ、絶対に残してやりますとも」


ヒレイ「ZZZ」


ブレン「ママ」


メガネ「『あの日のことは鮮明に覚えている。作業開始前、朝イチで数人の子供が監視員に連れていかれた。幕府の高官が訪問しているので、適当に顔のいい女を見繕ってもてなすとのことだった。その頃にはヒレイに手を出したオヤジの不審死の噂が関係各所に広まっていて、通常ならば雪ウサギ隊の女は忌避されるはずだったのだが、たまたま訪問していた高官も担当の監視員も着任したばかりで噂を知らない連中だった故、ヒレイにもお呼びがかかった。だから、当日の雪ウサギ隊はヒレイ抜きで小生、ハツ、マローの3人で作業にあたっていた』」


ブレン「ママ」


メガネ「『ところが、少し経つと作業現場にオヤジどもがぞろぞろと入ってきた。幕府の高官が懇意にしている企業の重役を連れてきたのだ。監視員が見繕った女が気に入らなかったので、オヤジどもが直々に女を選びに作業現場まで来たらしい』」


ブレン「ママ」


メガネ「『そこでマローに手を出そうとするオヤジがいた。そういう時、いつもならヒレイが割って入って隊員を守るところなのだが、先の通り予め朝イチで連れ出されていたので不在だった。当然、警戒心の強いマローは嫌がって暴れる。若い女を選び放題で最初はご機嫌だったオヤジも次第に不機嫌になって、高圧的な態度を取り始める。小生とハツはどうすることもできず、ただ傍観するしかなかった』」


オム「【カキカキ】……それは他に類を見ない美ケツでした。肌は滑らかで、色白ながら血色がよく、傷や痣もなく、生まれたての赤子のものと比べても遜色ありません。臀囲は目測90センチ以上で、重量感がありながらも引き締まっています。持ち主はうつ伏せの体勢ですが、ケツの肉は潰れたりたるんだりすることなく素晴らしいアーチ状を保っています。いや、ドーム状と称するべきでしょうか。とにかく筆舌に尽くしがたい、見事な曲線です。まるで地球の重力に逆らうかのような上向きの肉付き、そして真球にも迫る鮮やかな丸み。最早、私の前にある物体を月と呼んでも過言ではないのでしょうか」


ヒレイ「ZZZ」


ブレン「ママ」


メガネ「『そして事故は起こる。ストレスの許容量が限界を超えたマローが"DOG(ドッグ)"状態に突入したのだ』……ドッグ?」


ブレン「ママ」


メガネ「『"Domination Or Genocide"。略して"DOG"。かつて野犬の群れに混じって生活していたマローがパック同士の戦いの中で培ったある種の防衛本能だ。自己暗示により自身が凶暴な存在であると言い聞かせ、一時的に極限まで暴力性を高める。そして敵対するパックを半殺しにした上で、支配と虐殺のいずれかを受け入れさせる。支配を受け入れたパックは地位が低い仲間としてマローのパックに迎え入れ、一生涯に渡る絶対服従を誓わせる。対して、虐殺を受け入れたパックは子犬であろうと容赦なく、一匹残らず惨殺する。そうやってマローは自身の中に暴力的な一面を確立し、群れを守ってきたのだ』……血生臭いトリック・オア・トリートやな」


ブレン「ママ」


メガネ「『その後マローは山岳警備隊に保護され、本来ならば人間の家庭に引き取られるはずだったのだが、諸事情で農場に来ることになり、オヤジに手を出されそうになって、DOG状態を再発させるに至る』」


オム「【カキカキ】……月といえば月面の模様がウサギに見えるという話も有名ですが、なんの因果かケツの持ち主がウサ耳のカチューシャを装着しており、ビジュアル面の偶然の一致にささやかな感動を覚えている次第です。月面の模様は他にも髪の長い女性になぞらえる見方がありますが、持ち主の横顔がそれっぽく見えるので、これも一致する点と呼べるでしょう。2つも月面の模様に通ずるネタを仕込んでいるとは流石、月同然のケツを持つ女性です。とはいえ、月面ネタはせいぜいこの程度かな……と、思っていた矢先、雪の中で冷凍カニチャーハンの袋を見つけ、まさかのカニ要素までカバーしていたことに驚愕しております。まったく、このケツはどれだけ私を楽しませてくれるというのでしょうか」


ヒレイ「ZZZ」


ブレン「ママ」


メガネ「『DOG状態に陥ったマローは凄まじかった。手を出したオヤジに支配と虐殺の二択を迫り、呆気に取られて言葉に詰まったオヤジを返答の意志がないものと見なして虐殺した。続けて別のオヤジ、監視員、他の子供たちすらも見境なく虐殺し、8ヘクタールの畑をあっという間に死体置き場へと変貌させた。死者数48人に対し、生き残ったのは小生とハツ、朝イチで別室に移動していたヒレイと他6人、作業現場の監視担当から外れていた監視員4人……あとは施設の清掃に回されて畑にいなかったアバラ、ポンコツ、みそっかすの3人くらいなものだ』……え、ポンコツとみそっかすって山小屋におった2人?」


ブレン「ママ」


メガネ「『そう。正規軍には農場の元従事者もいる。実際、数ヶ月前の小生たちも軍属だった。マローの暴走の後、農場の子供たちを外に連れ出したのが正規軍の前身組織・アンチY染色体協会なのだ』」


ブレン「ママ」


メガネ「『アイスキャンディー農場は旧ジパングの各地に点在していたが、船橋農場は女子ばかりが集められていたことから、特に協会が力を入れて突入の機会を窺っていた。マローの暴走の後、協会はいち早く農場の異変を察知して、幕府から派遣された調査員が到着しないうちに子供たちの救出と施設の破壊工作を済ませたのだ』」


オム「【カキカキ】……ケツを肴に喰らう月餅もまた美味です。最近まで知らなかったのですが、月餅は餅ではなくお菓子だそうですね。と、いうことは、私の左手にあるものは餅ではなくお菓子。そして、私の眼前にあるものは月ではなくケツ。最早、月要素も餅要素もありません。なのに、『月餅』。不思議なものです」


ヒレイ「ZZZ……うーん、もう食べられないよぉ」


ブレン「ママ」


メガネ「『ちなみに協会の工作員が農場に突入する際、先陣を切ったのが現首相のサローインだ。子供たちの安全を真っ先に確保しつつ、生き残った監視員を口封じのために銃殺し、管制室をを乗っ取って施設の機能を停止させた。世間的にはテロリストでも、子供たちにしてみればサローインは間違いなく救世主だった。船橋だけでなく全国の農場で同じことをやってのけ、たくさんの子供を助け出してきた。あの人を慕って、鸛下共生党や正規軍で活動する農場出身者は結構多いのだ』……へー、アンタらもそういう理由で軍に所属しとったんか?」


ブレン「ママ」


メガネ「そう。……けど、方向性の違いで辞めたんやろ?救世主とまで呼ぶ人のもとを去るからには相当な事情があったんとちゃう?……そこんとこ、訊いてもええか?」


ブレン「ママ」


メガネ「『それは


ナレーション6「長くなりそうなので一旦この辺でお開きとさせていただきます。次回、もう少しだけ酔っ払いの会話が続きますが、懲りずにお付き合いください。悪しからず!」


オム「【カキカキ】……ところで、月を見ながら食べる餅は『月餅』ですが、ケツを見ながら食べる餅はなんと呼べばよいのでしょうか。『ケツモチ』でしょうか」


ハン「『しりもち』じゃないスか?」


オム「あれ?ハンちゃん?」


ハン「悪かったっスね。急に主人公代理なんか任せちゃって」


オム「北海道旅行はどうしたの?帰ってくるの随分早くない?」


ハン「姉上がインフルエンザに罹っちゃって。早(・)々(・)に引き上げてきたんス」


オム「あ、『そうそう』って書かなきゃ。えーと……【カキカキ】……草々」


ハン「そっちは何やってるんスか?」


オム「入院中の知り合いに手紙書いてる。よくわかんないけど缶詰のせいで入院したんだって」


ハン「缶詰のせいで入院?軟弱っスね。オイラと姉上なんかパンパンに膨張したシュールストレミングの缶を開けても平気だったというのに。……まあそれはさておき、なんでわざわざこんな山奥で手紙書いてるんス?」


オム「月見ながら書こうとおもったけど日本は雨降ってるからジパングでケツ見てるの」


ハン「なるほど」


オム「ケツモチ食べる?」


ハン「いただくっス【モグモグ】……そうだ、オイラの方もお土産あるんすよ。……はい、主人公代理やってもらったお礼ということで」


オム「何これ?」


ハン「ニポポ」


オム「へぇ~、これがあのニポポ?初めて見た。……【ボリボリ】」


ハン「うまいっスか?」


オム「……ゴメン、微妙」


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