第40話・食パン
オム「……どうも、オム=ライスです」
オム「……」
オム「……ショウ=ライスとハン=ライスのいとこです」
オム「……」
オム「……今日は諸事情によりショウとハンが不在なので、主人公代理として自分が呼ばれました」
オム「……」
オム「……なぞかけやります」
オム「……」
オム「……『イケメン』とかけまして、『食パンのおかわり』と解きます」
オム「……」
オム「……その心は『二枚目』」
オム「……」
オム「……こんな主人公代理で、サーセン」
***
ナレーション6「時に。アユム=メガネウラなる若者がおりました。故郷ジパングに帰るべく、新ジパングの地で銃を手に取り正規軍と戦っていた彼女でありましたが、紆余曲折の末、今は雪山でエキセントリックな女どもに囲まれながらチビチビと酒を啜っていたのでありました」
メガネ「チビチビ」
ハツ「ダ~メじゃない、中学生がアルコール飲んだら!おまわりさんに捕まって死刑になっちゃうわよ~ん!!キャハハハハ!!!」
ブレン「……」
マロー「オエーッ……ウウ……」
ヒレイ「……10年前、俺らは少年労働者だった」
メガネ「……チビチビ」
ハツ「コレは没収!責任を持ってあたしが処分しときます!!グビグビ……プハーッ!!!」
ブレン「……」
マロー「ウッ、ウッ……ウエーン」
ヒレイ「『SAURUS』って知ってるか?船橋市にあった屋内スキー場。実はアレ、単なるレジャー施設じゃなくて、地下から漏れ出る冷気を誤魔化すためのデコイだったんだぜ。あの地下にデカいアイスキャンディー農場があって、俺らはそこで働かされてたんだ」
メガネ(うーん、意識がボンヤリしてきた……アルコールのせいやろか?)
ハツ「何よ、その顔は!?文句あるわけェ!?未成年の分際で酒飲もうとするのがいけないんだからね~!中学生は家に帰ってママのおっ◯い吸ってなさいな!!」
ブレン「……ママ【ガサガサ】」
マロー「ウッウッ」
ヒレイ「後になってから知ったんだけど、どうもその農場は大宮幕府が秘密裏に運営してた労働施設だったらしい。全国の孤児を集めて、タダ同然の労働力としてこき使ってたんだと」
メガネ(【ガサガサ】……いや、アルコールだけのせいとちゃうな。今日は朝から晩までいろんなことがあったし)
ハツ「キャハッ!ホントにおっ◯い吸おうとしてる~!!なっさけな~い!!!」
ブレン「【ガサガサ】ママ」
マロー「ウプッ」
ヒレイ「あそこは……地獄だった……。セ氏マイナス15度の地下農場でショボい防寒具と薄っぺらいゴム手袋だけよこされてな、毎日朝6時から夜9時までひたすら畑仕事をさせられた」
メガネ(一日中山ん中這いずり回って……正規軍の連中にも出くわして……大変やったなぁ……)
ハツ「おいちいでちゅか~?キャハッ!」
ブレン「ママ」
マロー「マ……」
ヒレイ「畑には大量のアイスキャンディーがズラーッと植えられてて……こう……収穫時期になったヤツを手で掘り出して、棒から身を剥がしてくんだよ。1本1本は大した手間じゃねぇが、毎日数百本も手作業でやらなきゃならなかったから結構な重労働だったよ。神経もめちゃめちゃ使うしな。おかげで慢性的な倦怠感としもやけに悩まされたぜ」
メガネ「……」
ハツ「……え?『小生はこう見えても26歳だ』?……ウッソだ~!」
ブレン「ママ」
マロー「マロロロロ……」
ヒレイ「信じられねぇだろうけど、当時売り物になってたのはアイスキャンディーの身の方じゃなくて棒の方なんだ。海外で当たり棒のバブルが起きてて、特にアジア圏では天然物が1本ウン百万円っていうバカみたいな高値で取引されてたそうだ。本当、世の中が狂ってた時代さ」
メガネ「ZZZ」
ハツ「あのね~、いいこと教えてあげる!年齢詐称したらおまわりさんに捕まって即刻死刑になっちゃうのよん!!」
ブレン「ママ」
マロー「……ヘェッ……ヘェッ……」
ヒレイ「最悪なことに農場では毎日当たり棒納品のノルマが課せられててな、最低でも1人1本当たり棒を納品できなきゃメシ抜きだった。しかも納品できなかった本人だけじゃなくて、タコ部屋のルームメイト全員が、な。当たり棒の発生確率は1万本につき1本と言われているから、連日メシ抜きにされるのも珍しくなかった」
メガネ「ZZZ」
ハツ「え?『年齢的にはどちらかといえばお前の方が中学生に近いだろ』?キーッ!自分が大人だってまだ言い張るつもり!?子供だから優しくしてあげてるのに生意気ね!」
ブレン「ママ」
マロー「……ゲェ」
ヒレイ「労働時間以外はタコ部屋に押し込まれて、ほぼ軟禁状態だった。風呂トイレ共同。風呂は3日に1回。食事は朝晩2回。大概は冷たいおにぎりとたくあんだけ。土日は現場を仕切る大人が来ねぇから労働はなかったが、メシも出なかった」
メガネ「ZZZ」
ハツ「生意気な子供にはお灸据える必要があるわね!えーっと、お灸、お灸……」
ブレン「……」
マロー「……き、キモチワルイ」
ヒレイ「そういう労働環境なもんだから、身体壊して倒れるガキが後を絶たなかった。とはいえ孤児だし、いなくなったところで表沙汰になるわけでもねぇ。……一体どれだけのガキが誰にも悲しまれることなく死んでったのやら、な。……あの農場はまさしく旧ジパングの暗部と呼ぶにふさわしい場所だった」
メガネ「フゴッ……うーん……」
ハツ「……お灸ってなんだっけ?」
ブレン「ママ」
マロー「……だ、誰か、水を、ください」
ヒレイ「けどな、俺らは屈しなかった。202号室の4人……俺とハツとブレンとマローで支え合って、いつか農場から脱出するその日まで絶対に生き抜くと誓った」
メガネ「……」
ハツ「まあいいわ!お灸がないならおチューでお仕置きよん!!」
ブレン「ママ」
マロー「ハ、ハツ……水……」
ヒレイ「ハツがサイコパワーを使えたのは不幸中の幸いだった。経口熱移動術を使って体温や栄養を4人で分かち合えたからな。……特にアレはアイスキャンディーを食う時に役に立ったよ。俺ら、メシの出ない土日にこっそりタコ部屋を抜け出して廃棄予定のアイスキャンディーの身を盗み食いしてたんだけどな、アイスキャンディーだけで1日分のエネルギーを賄うとなるとそれなりの量を食わなきゃならなかったんだ。とは言え食い過ぎれば間違いなく腹を壊すし、何より身体が冷えることで低体温症になるリスクがあった。……そこで4人のうち2人が食う担当、残り2人が体温を維持する担当で役割分担をして、最終的に経口熱移動術で4人に体温と栄養が均等に行き渡るようにやりくりしたんだ。この方法のおかげで低体温症になることなく、俺らは食い繋ぐことができたのさ」
メガネ「ZZZ」
ハツ「んん?あら可愛いワンちゃん。あなた、どこから来たの~?」
ブレン「ママ」
マロー「水……水を……」
ヒレイ「けど、そんな生活を10年近く続けた代償に、俺らの身体はイカれちまった。寒さには滅法強くなったが、暑さにはとことん弱くなった。食事も基本的に冷食しか胃が受け付けねぇ。常温の冷や飯くらいならギリギリ食えなくもねぇが、温かい食事は口に含んだだけで即座に戻しちまう」
ハツ「店内はペット厳禁よん!!!」
ブレン「ママ」
マロー「ヒッ……オロロロロ!!!」
ヒレイ「こんな身体だから……つくづく思い知らされるよ……俺らは……社会の中で……普通の生活……は……できねぇ……二度と……グゥ……」
メガネ「フゴッ!?店内!?サーセン!!!」
ハツ「キャ~!ゲロかけられた~!!バッチイ~!!!」
ブレン「ママ」
マロー「み、水……」
ヒレイ「ZZZ」
メガネ「……なんや、山やないの。うっかりどっかの店で居眠りしてもうたのかと思ったわ。飛び起きて損した」
ナレーション6「聞くに耐えない酔っ払いの戯言ばかりで恐縮ではございますが、今回はこの辺でお開きとさせていただきます」




