第39話・シューストリングポテト(不在)
ハン「どーしたもんか……」
ショウ「悩み事?」
ハン「姉上、最近オイラが絵画教室に通ってるの知ってますよね?」
ショウ「ああ、公民館で毎週月曜にやってるヤツね」
ハン「そうそう。その絵画教室で絵を描いてこいって課題が出されたんスけどね、まだ全然描けてないんスよ。明日のレッスンまでに描かないといけないのに」
ショウ「描けばいいじゃん」
ハン「何描けばいいのかわかんないんスよ」
ショウ「何描いてもいいんじゃないの?あれこれ考える前にとりあえず描いてみるってのも大事だと思うよ?プロじゃないんだから、上手いとか下手とか気にせずにさ」
ハン「そーゆーことじゃないんス。課題の内容書いたメモをポケットに入れたままズボン洗濯しちゃって、描くべき題材がなんだったのかわかんなくなっちゃったって話なんス」
ショウ「バカか!」
ハン「一応そのメモはサルベージしたんスけど、字が滲んでまったく読めないんスよね」
ショウ「先生か他の生徒の人に連絡して聞けないの?」
ハン「連絡先知らないんスよ」
ショウ「うーん……でも、一旦は自分で課題の内容をメモってるわけでしょ?断片的にでも何かしら覚えてたりしないの?」
ハン「えーと……確か『シュなんとか』を描いてこいっていう課題だったような……」
ショウ「シュなんとか?集合写真とか?」
ハン「いや、海外の言葉だったような……」
ショウ「春秋戦国時代」
ハン「横文字だったような……」
ショウ「シューベルト」
ハン「人名ではなかったような……」
ショウ「シュー・ア・ラ・クレーム」
ハン「あ、なんかそれ惜しいっス」
ショウ「マジで?シュー・ア・ラ・クレームってシュークリームのことだよ?お姉ちゃん、ひとっ走りしてシュークリーム買ってきてあげようか?」
ハン「いやでも違う。まだ微妙に違うんスよ。もっとこう……シュ……シュー……シュール……シュール、レ、ア、リ、ズ
ショウ「シュールストレミング?」
ハン「それだ!!!」
***
ナレーション5「現代日本よりもほんのチョットだけ物騒な歴史を歩んだパラレル軍事国家『ジパング』。さらにそのパラレル空間に位置し、ジパングの後継国を自称する『新ジパング』」
ショウ「……あのさー、自分で言っといてアレなんだけどさ、シュールストレミングは違うんじゃない?」
ハン「いーや、間違いないっス!オイラの直感がこれを描けと訴えかけてくるんス!!」
ナレーション5「西暦××99年。××世紀の到来を目前に、女どもはコウノトリのトンデモ科学力で男と引き剥がされ、新ジパングの地に放り込まれた。男手を失った女どもはメシにありつけず、腹を空かせながら無惨にバッタバッタと倒れ、死に絶えた……なーんてことはなく、割としぶとく逞しく生きていた」
ショウ「……まあ、そこまで自信満々に言うなら止めないけどさ」
ハン「何よりオイラ自身、今となってはこれを描きたくて仕方ないんスよね~」
ナレーション5「そんな、案外食うには困らない女社会の片隅……何がなんでもジパングに帰ってみせると誓いを立てた2人の若者がいた」
ハン「開けますよ?開けますよ!?……芸術は……爆発だッ!!!」
ショウ「バカ!もっと慎重に開けろって!!」
ナレーション5「この物語は、彼女たちが故郷に帰るまでの紆余曲折を綴った奮闘記であ【ブッシャァァァァーーーーッ!!!】
ショウ・ハン・ナレーション5「ギャーッ!!!」
***
ヒレイ「俺たちに何か言うべきことがあるんじゃねぇか?」
メガネ「……勝手にカチューシャ、持ち去ってゴメンナサイ」
ヒレイ「違う!」
メガネ「えっ……じゃ、じゃあ、軍のヤツらに捕まってゴメンナサイ?」
ヒレイ「それも違う!」
メガネ「……」
ハツ「まあまあ、こうして無事帰ってきてくれたんだし、そんなに責めなくてもいいんじゃない?」
ヒレイ「いいや、言う!断固言う!!2度と同じ事態にならねぇように、断固言う!!!」
メガネ「……ゴクリ」
ヒレイ「俺が怒ってるのはな、お前がいきなり俺らの前からいなくなったことについてだよ!なんだよ、コレ?【カチッ】」
ボイスレコーダー《……ろくにお礼もせず、いきなりいなくなってゴメンナサイ。……今まで黙ってたけど、ウチには大切な仲間がいます。……ウチ、その人を探しに行きたいと思います。勝手なことして申し訳ないけど、カチューシャ、お借りします。代わりと言うたらなんですが、このボイスレコーダーと金になりそうなもんを置いていきますので、リサイクルショップで売って生活費の足しにしてください。……お世話になりました。……ホンマにゴメン》
ヒレイ「【カチッ】……こんなメッセージひとつで俺らが納得すると思うか?」
メガネ「……それは……ホンマに弁解の余地ないわ。世話になった以上、ボイスレコーダーなんか使わずにきちんと直接挨拶してから去るべきやった」
ヒレイ「ほら、その時点で間違ってる!ボイスレコーダーで挨拶したってのが問題なんじゃなくて、俺らを置き去りにしようとしたのが問題なの!!」
メガネ「え」
ヒレイ「目的があってこの座礁山を出て行くってんなら引き止めはしねぇ。けどよ、一言声をかけてくれたら俺らは喜んでお前に着いてく。どうせ暇を持て余したプータローだからな」
メガネ「……」
ヒレイ「今のお前には身寄りも頼る組織もねぇんだろ?もうちょっと頼ってくれてもいいじゃねぇか、俺らをよ」
メガネ「……うん」
ヒレイ「元軍属の俺らを信用できねぇ心中は察する。中央レジスタンス連合の件があるからな。でも、だからって、家族になった仲間を置き去りにするのはあまりに酷い仕打ちじゃねぇか?」
メガネ「……ん?」
ヒレイ「身近な家族がいなくなった時の喪失感……お袋さんを亡くしたお前ならわかるだろ?人間、いつか別れの時が来るとはいえ、今日みてぇな別れ方はねぇよ!頼むからさ、もうちょっとママとしての自覚を持ってくれよ!!」
メガネ「……んん?いやいや、ウチ、アンタらのママになった覚えはあらへんのやけど?」
ヒレイ・ハツ・マロー「えー!!!」
ヒレイ「だってさ、ほら、メシ、一緒に?食ったじゃん!寝る時もさ?一緒に?寝たじゃん!!この前だって、えーっと
マロー「……ヒレイ、もう、やめにしよう」
ヒレイ「マロー……。くっ……」
ハツ「ごめんなさいね、メガネウラさん。変なこと言っちゃって。忘れてちょうだい」
ヒレイ・ハツ・マロー「……」
メガネ(……あれ?ウチが悪いのかな、コレ?)
ヒレイ「……いや、本当はわかってたんだ。お前がここに来たのは単なる偶然にすぎないって……天が俺らにママを授けてくれたわけじゃないって……【カチッ】」
ボイスレコーダー《イナリッ……アンチY染色体協会の勧誘を受けた時、夢を見たよ……ゴクン。……軍人をやめて……新しい世界で惚れた女とささやかな2人暮らしをするって夢さ。……でも結局、私は最後まで惚れた女に支えてもらうことが叶わなかったし……惚れた女の支えにもなれなかった……!》
メガネ「!?……それ、オサガリ兵長のデータ……消去したはずやのに……なんで残っとるん!?」
ヒレイ「【カチッ】……ブレンが復元したんだよ。お前がいなくなった後、消去されたデータの中に行き先の手がかりがあるかもしれないってことでな」
ブレン「ママ」
メガネ「……」
ヒレイ「……良かったのか?オサガリのデータ、消去しちまって。幕府の仲間にオサガリの釈明、聞かせるつもりだったんじゃねぇのか?」
メガネ「……それはオサガリ兵長が墓場まで持って行くはずやった『想い』や。仲間とはいえ、ウチの一存で他人に聞かせるわけにはいかへん。いっそ聞かなかったことにした方がええ……そう思って、消去したんや」
ヒレイ「そうか。そういうことならその選択は尊重する。……まあ、本題はそこじゃねぇ【カチッ】」
ボイスレコーダー《……だからね、セミちゃん、君に私の夢を託すよ。もしも、君が惚れた女にまた会えた時は、君がその人を支えるんだ!》
ヒレイ「【カチッ】反乱軍制圧作戦の最中に与野本町の怪人が現れて、メガネウラはオサガリを逃がそうとしたけど、逆にオサガリのグランドクロスに乗せられて逃されることになった……と、ボイスレコーダーの記録を聞いた限り、事の顛末はこんなもんか?」
メガネ「……うん」
ハツ「前にメガネウラさんが話してくれた通りね」
ヒレイ「ただし、ボイスレコーダーの記録から判明した新事実もある。実はメガネウラに想い人がいたってことだ」
メガネ「【ドキッ!】そ、そんな……想い人なんて……」
ヒレイ「つまり、オサガリがメガネウラを逃したのは想い人に再会させるためであって、俺らにママをプレゼントするためじゃなかったってことだ!」
ハツ・マロー「……」
メガネ「……ママを……プレゼント?」
ヒレイ「……勝手にボイスレコーダーのデータを復元したお詫びと言っちゃなんだが、ひとつ、俺らのこともカミングアウトするよ。……別に隠してたわけじゃねぇんだけどな、俺ら全員、みなしごなんだよ」
メガネ「え……」
ヒレイ「昔、俺らは……船橋の……ウッ」
ハツ「ヒレイ、無理して話さなくていいわ」
ヒレイ「……いや、いつかは話すべきだと思ってた。いい機会だ。この先俺らを連れて行くかどうか、俺らのママになってくれるかどうか、話を聞いた上でメガネウラに決めてもらいたい」
メガネ「う、うん」
ヒレイ「船橋の……ウッ」
ハツ「ヒレイ、やっぱり……」
ヒレイ「……ああ、流石にシラフじゃキツいな。今日のところはやめておこうか」
メガネ「……」
ブレン「ママ」
メガネ「え?『酒を用意してある。この際、アルコールの力を借りて、言いたいことを徹底的にぶちまけた方がいい。今夜くらい酔っても神様は許してくださるよ』やと?」
ヒレイ「ブレン……。いやでも、ハツが……」
ハツ「大丈夫。あたしこの前、ちゃんと20歳になったわ」
ヒレイ「あ、ああ……そうだったっけ……でも
マロー「大丈夫、マローたち、家族」
ヒレイ「マロー……よし、わかった。飲もうか。腹割って話合おう」
メガネ「……」
ヒレイ「メガネウラ、先に伝えておく。俺の生き別れの親父はとんでもなく酒癖が悪くてな……酒に酔って暴れ回る人だった。娘である俺も、もしかしたら酒癖が悪いのかもしれない。事実、酒を飲んだ経験は何度かあるけど、飲んだ後の記憶はすっぽりと抜け落ちちまってる。もし、俺が酔って暴れるようなことがあれば、多少荒っぽい手段を使っても構わないから止めてほしい。頼めるか?」
メガネ「わ、わかった」
ハツ「……はい!どうせなら楽しく飲んで、語り明かしましょう!!辛い過去もお酒の力でさらっと、ね?」
ヒレイ「……そうだな。じゃ、とりあえず乾杯しよう。明るい感じで。みんな、適当な酒持ったか?……いくぞ、乾杯!」
メガネ・ハツ・マロー「乾杯!」
ブレン「ママ」
***
ハツ「キャハハハハ!あー、ちょっと!!なーんで中学生が酒飲んでるわけ~!?」
メガネ「いやアンタが酒癖悪いんかい」
ブレン「ママ」
マロー「オロロロロ……オエー……」
ヒレイ「ふふっ、缶チューハイって意外とうまいんだな……」




