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第35話・未来世紀ブタジル

ラジオ《白い粉の販売価格をめぐり価格カルテルを結んだ疑いがあるとして、中央地検特捜部は9日、独占禁止法違反の容疑で製薬会社5社の関係先を家宅捜索しました》


ハン「この物価高のご時世にカルテルとは……けしからん!やはり資本主義は人間を堕落させる!!姉上もそう思いますよね!?」


ショウ「……思想は個人の自由なんだけどさ、今は運転に集中してくれない?信号青だよ」


ハン「あ、ほんとだ【ブーン】」


ショウ「……」


ハン「……で、姉上はどう思います?資本主義」


ショウ「ノーコメント。私はノンポリよ」


ハン「良くないっスよ、そーゆーの。中立のフリして結局のところは無関心なんでしょ?そんなんじゃいつか資本主義のブタに足元すくわれますよ!?【ファーン!】」


ショウ「うるさい!無駄にクラクション鳴らすな!!……まあ、主義思想についてはどうこう言わないけど、お前、動物に対して敬意を欠く発言はやめなさい」


ハン「ん?なんの話?」


ショウ「お前が資本主義者を毛嫌いするのは構わない。でも、人を罵る時に『ブタ』って言葉を使うのはよせ。ブタさんに失礼でしょーが」


ハン「ブタ野郎をブタと呼んで何が悪い」


ショウ「ブタは昔から人類の食文化を支えてきた立派な家畜よ?私欲で違法行為に走る守銭奴と一緒にしたらいかんでしょ」


ハン「何言ってんスか姉上。食の分野でブタ程悪行三昧してるヤツはいないっス」


ショウ「悪行?」


ハン「ズバリ、不自然なほどに特別扱いされすぎなんスよ。例えば『豚汁』。味噌で味付けした汁なんだから『味噌汁』を名乗るべきっスよね?なのに、大抵の定食屋では豚汁と味噌汁が別物として扱われてる……。これはきっと、豚汁だけ特別扱いしてもらえるようにブタと定食屋の間で裏取引があったに違いない!」


ショウ「裏取引って……陰謀論に踊らされすぎ!あのね、一般的な線引きとして、豚汁は『おかず』、味噌汁は『汁物』なの。『一汁三菜』の観点で説明するなら、具材重視の豚汁は『菜』寄り、汁気重視の味噌汁は『汁』寄りね。ご飯のお供として求められる役割が具材か汁気かで違うから、両者が区別されるのはある意味当然なの。つまり、裏取引のせいとかじゃないの!」


ハン「『豚骨ラーメン』もそう!『醤油ラーメン』、『塩ラーメン』、『味噌ラーメン』に並ぶ第4のジャンルとして定着してますけど、他3つのジャンルが『調味料』なのに豚骨だけ『出汁』なんスよね。味付けは醤油なり塩なりに頼るのに、料理名としては豚骨がフィーチャリングされる……。豚骨が特別扱いされて調味料が蔑ろにされてるあたり、きな臭い大人の事情が見え隠れするっス!」


ショウ「いやいや、ちゃんと『豚骨醤油ラーメン』って呼んでる店もあるわけだし、豚骨を特別扱いしたり、調味料を蔑ろにしてるってことはないでしょ。それに、豚骨醤油ラーメンを略して『醤油ラーメン』だと語弊があるじゃん。豚骨が苦手なお客さんが豚骨出汁と知らずに、普通の醤油ラーメンと勘違いして注文しちゃう可能性があるし。そういう誤解を防ぐために『豚骨醤油』の『豚骨』の方を残して『豚骨ラーメン』って呼んでるんだと思うよ。知らんけど」


ハン「それから『生姜焼き』!ブタが出汁として使われる豚骨ラーメンとは対照的に、生姜焼きはブタが肉として料理の具材のメインを張りますよね?にも関わらず、料理名から自身の存在を抹消してる……。生姜を矢面に立たせて、自分はトラブルから逃れる気満々じゃないっスか!別の話題を盾に自らの不祥事の責任追及から逃れる国会議員の如く!!これを特別扱いと呼ばずしてなんと呼ぶ!?」


ショウ「生姜焼きは肉の種類を言わなくても暗黙的に『豚生姜焼き』だから。むしろ豚肉以外の時は『鶏生姜焼き』とか『牛生姜焼き』みたいな呼ばれ方するだろうし。家庭料理としてメジャーであることを考慮すれば、『生姜焼き』と聞いて、生姜を単体で焼いたのを連想するような間違いもまず起きないだろうし。とにかく、決して生姜に全責任を押し付けてる的な話ではない……はず」


ハン「なんスか姉上、さっきから!ブタの味方ばっかりして!!姉上はブタの肩を持つつもりなんスか!?肩ロース派なんスか!?【ファーン!】」


ショウ「持たないけど!ブタの肩は!!……いや、そもそも今の話、ブタ、全然悪くないよね?」


ハン「え?なんで?」


ショウ「だってブタは料理される側であって、料理名を考える立場じゃないじゃん。料理名に問題があるのは料理する側、つまり人間のせいじゃないの?」


ハン「……確かに!」


ショウ「理解した?」


ハン「……これはつまり、あえて消費者の誤認を誘う料理名で汚い商売をしようと目論む資本主義者の策謀であって、日本経済を食の分野から


ショウ「あーうるさいうるさい!豚まんあげるからちょっと黙ってろ!!」


ハン「わーい」


ショウ「てゆーかお前、豚肉好きだろ?」


ハン「大好き!」


***


ナレーション4「前回のあらすじ。メガネの呼び名のバリエーションに『関西弁』が増えた」


シマチヨ「関西弁……番菜山の時以来だな。こっちはあれから大変だったよ。積もる話、いろいろとじっくり聞かせてもらおうか」


関西弁ことメガネ「……っ」


ナレーション4「咄嗟に逃亡を図るも、挫いた足のせいで思うように動けず、捕縛されてしまうメガネ。マルチヨが身柄を押さえ、シマチヨが尋問する」


シマチヨ「何から訊いたもんかな……そうだな……まず、山火事の件について訊こうか。あの日、アタシらはお前たちを追跡してる途中で山火事に遭遇したわけだけど、山に火を点けたのはお前たちか?」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「逃げる過程で火の不始末から意図せず延焼を起こしたのか、混乱に乗じて逃げるためにわざと山に放火したのか、あるいはまったくの無関係か……どれだ?」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「……【バチン!】」


ナレーション4「シマチヨがメガネの頬をひっぱたく」


シマチヨ「山ひとつ丸焦げになってるんだ!たまたま怪我人が出なかったから良かったものの、一歩間違えたら民間人を巻き込む大惨事になってたんだぞ!?黙ってないで関係あるのかないのかくらい、答えたらどうなんだ!?」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「……話す気はない、か。ひとまず、質問、続けるぞ。お前、山火事の後、中央レジスタンス連合に加入してたよな?こないだの反乱軍制圧作戦の時、東部、北部、南西にいた連合軍の関係者はもれなくしょっ引かれたはずだし、中央にいたヤツは与野本町の怪人のせいで全滅したと聞いてる。にも関わらず、なんでお前、こんな場所を1人で彷徨いてるんだ?いつ、どうやって連合軍から抜け出した?」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「……で、足を挫いてこの山小屋に助けを求めに来たって話だけど、ここが軍の関係施設と知ってて近付いたのか?」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「……()()はなんだ?犬耳のカチューシャか?最近の登山者はカチューシャを着けるのがブームなのか?……いや、ブームはどうでもいいけど、アタシの知り合いによく似たカチューシャを持ってる連中がいるんだよ。そいつら、正規軍を抜け出した4人組でさ、アタシらは今その4人を探してるんだよね。……お前、何か心当たり、あるだろ?」


関西弁ことメガネ「……」


マルチヨ「……」


シマチヨ「……やっぱりダンマリか。ま、いいや。ここまでの質問は本題じゃないからな」


マルチヨ「え?雪ウサギ隊の件が本題では?」


シマチヨ「でも、次の質問には絶対答えてもらうからな?次、答えなかったら多少痛い思いをしてもらう。こちらとしても人を痛めつける趣味はない。穏便に済むならそれに越したことはない。そう前置きした上で訊くぞ?……番菜山で一緒に行動してた『三つ編み』は今どこにいる?」


関西弁ことメガネ「……!」


シマチヨ「相棒だろ?知らないわけがないよな?ほら、言えよ。……3、2、1【バチン!】」


ナレーション4「再びメガネの頬をひっぱたくシマチヨ」


関西弁ことメガネ「……っ」


マルチヨ「シマさん、あんまり叩いたらまずいでしょ。オラたちの仕事はあくまでも捜索であって拷問じゃないんですから。しかも、元々のターゲットは雪ウサギ隊ですし。たまたま見つけた反乱兵をほっとくわけにはいかないにせよ、過剰に暴行を加えたとなれば後で叱られますよ。軍の応援を呼んで引き渡すなり、それかいっそ下山して近くの支部に連れてくなりすべきじゃないですか?うん、それがいい。下山しましょうよ」


シマチヨ「お前は黙ってろ、マル。番菜山でこいつらを追っかけてた時、オサガリ司令の指示でひと芝居打ったよな?確か、中央レジスタンス連合の『ミハラ』と『モモ』が正規軍の追手から反乱兵を助けるってシナリオだったっけ?あの時お前は『モモ』になりきったスズネ司令の手引きで逃げたフリするだけだったから、危険な目に遭ってないだろ?けど、アタシは『ミハラ』になりきったオサガリ司令に撃たれて捕まったフリをして、こいつらの目の前に出ていく必要があった。役割としては、明らかにお前よりアタシの方が危険だった。お前とアタシは対等な関係だけど、この一件に関しては自分の身をより危険に晒してる分、アタシの方にあれこれ口出しをする優先権があると思ってる。違うか?」


マルチヨ「はあ」


シマチヨ「まあ、あの時は反乱兵相手に中央レジスタンス連合の実力を示すデモンストレーションができれば良かったから、本来ならアタシの役目は撃たれて捕まったフリだけで終わるはずだった。……はずだったんだけど、三つ編みが暴れる想定外のアクシデントが起きて、アタシは縛られて動けないまま蹴られて、肋骨にヒビが入った。あの時のヒビはいくら治療しても何故か完治しなくて、後遺症が残ってる。今だって現在進行形で結構痛い。今後の人生にずっと付き纏う程の傷を受けたんだから、それなりの仕返しをする正当性はあるよな!?」


マルチヨ「はあ」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「……ま、そういうわけだよ、関西弁。お前のことはそこまで恨んじゃいないけど、三つ編みは別だ。きっちりお礼参りさせてもらう。三つ編みの場所、吐いてもらおうか」


関西弁ことメガネ「……」


シマチヨ「あくまでもしらばっくれる気だな?ならいいよ、お前が吐くまでとことん付き合うよ」


ナレーション4「クロスレンチの銃口をメガネの脚に向けるシマチヨ。メガネと目を合わせたまま、ゆっくりと引き金に指をかける」


マルチヨ「シマさん!」


シマチヨ「邪魔すんなよ、マル?こいつは殺さない。情報を吐くまでちょっと痛めつけるだけ」


マルチヨ「でも


シマチヨ「殺すなら三つ編みの方だ。何年かかっても、仕返しはきっちりとやり遂げる。これはアタシの人生の問題だ!」


マルチヨ「そうじゃなくて!室内で流血沙汰起こしたら掃除がめんどくさいでしよ!?やるなら外でやってください」


シマチヨ「……それもそうだな。わかった。ってなわけだから、関西弁。話の続きは表でやろうか」


ナレーション4「メガネを屋外に引きずり出そうとして、玄関の扉に手をかけるシマチヨ。だが、扉を開けた瞬間、ものすごい勢いで犬が押し入ってきた」


犬「ガウッ!!!」


シマチヨ「え?」


ナレーション4「犬に飛び付かれ、腕を噛まれるシマチヨ。そのまま壁に激突し、倒れ込む」


シマチヨ「グハッ」


関西弁ことメガネ「!」


マルチヨ「!」


犬「メガネウラ、迎えにきたよ」


ナレーション4「そう、犬はカチューシャの効果で化けていたマローであった」


マロー「ヴーッ……『ポンコツ』に『みそっかす』……お前たち、メガネウラに、酷いこと、してないだろうな!?」


メガネ「マロー……」


ポンコツことシマチヨ「うーん……」


みそっかすことマルチヨ「……あーあ、雪ウサギ隊、見つけちゃったよ。見なかったことにするってわけにはいかないよなぁ……。めんどくさ」


ナレーション4「あだ名、偽名、蔑称など、様々な登場人物の呼び名が飛び交い、状況は混迷になってゆくのであった。続く」

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