第34話・カップラーメン
ナレーション4「前回の続き。座礁連邦に足を踏み入れた正規軍の兵士『シマチヨ』と『マルチヨ』。彼女たちが入山した事実を知ることもなく、雪ウサギ隊は無為に追跡を撒き、山岳地帯の奥にある自分たちの住処へ帰っていた。そして翌早朝4時。筋肉痛で目を覚ましたメガネは肢体をダンボールの上に横たえたまま、雪ウサギ隊4人の下敷きになりながら思索にふけっていた」
メガネ(ネクラを探そうにも、ここ北部地区から南西地区まで行くのは無理やと思っとった。けど、希望が見えてきた。まず、昨日の買い出しで下山ルートは把握できた。同じ要領で下山すれば、安全に人里まで出られる。人里に出たら、マローに借りたカチューシャの迷彩機能を使って、犬に化けて移動する。正規軍に見つからないよう犬の見た目を維持したまま中央地区を経由して、それから南西地区へ向かう。……うん、粗はあるにせよ、考え得る作戦の中では一番現実的やな。後は……)
雪ウサギ隊一同「ZZZ」
メガネ(四六時中、雪ウサギ隊にくっつかれとるのをどうするかやな。夜、寝る時は団子状態やし、昼でも最低1人誰かしらが近くにおる。見張られとるのか心配されとるのかわからんけど、迂闊に身動きが取れへん)
雪ウサギ隊一同「ZZZ」
メガネ(いっそ正直に事情を打ち明けるか?……いや、元軍属である以上、情報が軍に流れる可能性はどうしても捨てきれん。仮に軍との繋がりが完全に切れてたとしても、無関係なコイツらを巻き込むわけにはいかん。話せば協力の申し出をしてくるやろうけど、ネクラの件はウチ1人の問題や)
ナレーション4「意を決し、積み上がった雪ウサギ隊を押しのけ、寝床から這い出るメガネ」
メガネ「ふぅ……おお寒っ!【ブルブル】」
メガネ(買い出しで疲れとるのか、誰も起きんかったのはラッキーや。コイツらが寝とる隙にこっそり下山しよう。……数週間の付き合いやったが、悪くなかったな)
ナレーション4「眠る雪ウサギ隊をまじまじと見るメガネ。彼女たちの姿にネクラの面影が重なる」
ブレン「ZZZ」
メガネ(そういえばネクラと初めて会った時、アイツ、こんな感じやったな……。確か高校の部活紹介の時やったっけ……。垢抜けてなくて、ガッチガチに緊張してて、いかにも数日前まで女子中学生でしたって顔で……初々しかったなぁ)
マロー「ZZZ」
メガネ(そうそう、会って間もない頃は犬みたいなヤツやった。真面目で素直で、楽しそうにウチの後ろをついてきて。……可愛い後輩ができてウチも嬉しかったわ)
ハツ「ZZZ」
メガネ(身長は丁度このくらいやった。ウチよりちょっとだけデカいんよな。ウチが160センチやから、アイツは162センチってとこやろか?)
ヒレイ「ZZZ……うーん、もう食べられないよぉ」
メガネ(髪はツヤツヤの黒髪……やったんやけど、戦争の後、酷く傷んでもうたのよな。環境が激変したショックで憔悴して、何日も風呂に入らんで……手入れせんからボサボサになって、どんどん汚れて……仕方ないから、20日目でウチが無理矢理風呂に入れて洗ってやった。少しでも元気になってほしくて、毎日オシャレな髪型をいろいろ試して……そのうちいつの間にかウチが毎朝三つ編みにセットしてやるのが日課になっとって……)
ナレーション4「気付くと、メガネの目から涙が溢れていた」
メガネ(もう何ヶ月も髪、結んでやれとらんなぁ……。また会えたら、髪、結んでやりたいなぁ……)
ナレーション4「野生の生き物は体毛を結ばない。髪を結ぶという行為は文明的で人間らしい行為である。ネクラの髪を結んでいる時間は反乱兵として戦いの日々を送ってきたメガネにとって、人間らしさを実感できる数少ない機会なのだった」
メガネ(……ああ、そうか。落ち込むネクラを救いたくて世話しとるつもりやったけど、むしろウチが救われとったんやな……)
ナレーション4「涙を拭い、寒さと悲しみに震える身体を奮い立たせ、四肢の筋肉痛の悲鳴を押し殺して、メガネは南西地区への1歩を踏み出した」
メガネ(短い付き合いやったけどありがとう、雪ウサギ隊のみんな。黙って去るウチを許してな。……そしてネクラ。今からアンタを探しに行く。もうちょっとだけ待っとって!)
メガネ「……」
ナレーション4「1歩。踏み出したところで歩みが止まるメガネ。振り返り、雪ウサギ隊のそばに戻って、ポケットから取り出した小物や雑貨を置く」
メガネ(カチューシャの借りパクは申し訳ないからせめて代わりになるものを置いてこう)
ナレーション4「携行品が減って少しだけ身軽になったところで、メガネは改めて南西地区を目指して歩き出すのだった」
***
ハン「ショートコント」
ショウ「『非効率なカップラーメンの作り方』」
ハン「ポール、今日はちゃんといい子に勉強してたかい?」
ショウ「ううん、今日は4時間くらいアリの行列眺めてたよ、父さん」
ハン「ポール、何をしている!お前をふつつか者に育てた覚えはないぞ!!『光陰矢の如し』という言葉があるように、ボンヤリしてたら人生はあっという間に過ぎてしまうんだぞ!?4時間、すなわち240分もあれば熱湯3分のカップラーメンは80個も作れてしまう……お前はそれだけの時間を無駄にしてしまったんだ!!!」
ショウ「父さん、僕はカップラーメンは食べないよ。だって我が家の家訓は『カップ麺を買うくらいなら袋麺を買え』だからね」
ハン「ポール、その通りだ!カップ麺ならば1食180円かかるところ、袋麺は1食65円で食べられてお得だからな。こりゃ一本取られた。流石我が息子!今夜は特別に2袋食べていいぞ!!」
ショウ「やったー!父さん、太っ腹!!」
ショウ・ハン「HAHAHA!」
***
ナレーション4「約4時間後。メガネは盛大にコケていた」
メガネ「いててててて……」
ナレーション4「寒さに身を縮めながら歩いていたところ、ぬかるみに足を取られ、尻餅をつき、尻で山の斜面を10メートル程滑落。さらに、運悪く左足を捻挫」
メガネ「嘘やろ……まさかこんなところでコケるとは思わんやん」
ナレーション4「雪ウサギ隊の住処と集落のほぼ中間の位置である。よりにもよって、進むのも戻るのもひと苦労な場所でメガネは負傷したのだった。しばらく立ち往生、もとい尻餅往生した後、後戻りはできぬと腹を括り、集落を目指して左足を庇いながらのろのろと歩き出す」
***
ハン「ショートコント」
ショウ「『続・非効率なカップラーメンの作り方』」
ハン「ポール、今日こそちゃんといい子に勉強してただろうな?」
ショウ「ううん、今日は10時間ぶっ通しで二重跳びしてたよ、父さん」
ハン「ポール、何をしている!しっかり者の母さんとちゃっかり者の父さんの間に生まれたお前が何故そんなうつけ者になってしまったんだ!!『時は金なり』という言葉があるように、時間の価値はお金に匹敵する程貴重なんだぞ!?10時間、すなわち600分もあれば熱湯3分のカップラーメンは200個も作れてしまう……お前はそれだけの時間を無駄にしてしまったんだ!!!」
ショウ「父さん、僕はカップラーメンは食べないよ。だってうちはガスも水道も止められてるじゃないか。熱湯はおろか水すら用意できないよ」
ハン「ポール、その通りだ。というわけで、今夜も袋麺を生のまま齧るとしよう」
ショウ「また1食65円の袋麺?いい加減飽きたよ」
ハン「ポール、今夜は1食65円の袋麺じゃないぞ。なんと1食40円の袋麺だ!!」
ショウ「40円!?すげーや父さん!安価なプライベートブランド商品の開拓において右に出る者はいないね!!」
ショウ・ハン「HAHAHA!」
***
ナレーション4「約10時間後。休憩を挟みながら歩を進めたメガネの前に山小屋が現れた。前日の買い出しの道中で見た際には人の気配がなく、雪ウサギ隊が気に留める様子もなかったため素通りした山小屋である。今は窓から明かりが漏れ、有人と見える。足の痛みと疲労で朦朧としていたメガネはこれ幸いと小屋に近付き、インターホンを押した」
インターホン越しの声《……はい》
メガネ「あの、突然すみません。山歩きしとった者なんですが、さっき足を挫いてもうて。ご迷惑は承知なんですが、少し中で休ませてもらえんでしょうか?」
インターホン越しの声《……はあ。じゃ、オートロック開けますんでちょっと待っててください》
メガネ「はい」
メガネ(た、助かった……)
ナレーション4「お察しの通り、そこはシマチヨとマルチヨが使用中の山小屋、正規軍の関係施設だった。つまり、メガネは知らず知らずのうちに敵陣に踏み込んでしまったのである」
マルチヨ「【ガチャン】……どうぞ。段差あるんで気を付けてください」
メガネ「おおきに。……よいしょ。……いやー、助かりました。ほんま、九死に一生を得ましたわ」
シマチヨ「ん?どちらさん?」
マルチヨ「登山客?……みたいです。足、挫いたんですって」
メガネ「どうも。お邪魔してもうてすいません」
シマチヨ「んん?……あ!」
マルチヨ「え?」
メガネ「?」
シマチヨ「あの時の!!」
ナレーション4「床に置いてあったクロスレンチに飛び付き、銃口をメガネに向けるシマチヨ」
マルチヨ「ちょっとシマさん、何してるんですか!?」
シマチヨ「離れろ、マル!そいつ、『番菜山』にいた『関西弁』だ!!」
マルチヨ「!」
メガネ「え?え?」
ナレーション4「『番菜山』。第1話でネクラとメガネが潜伏していた山の名前である」
メガネ「あ」
ナレーション4「そして、ここにいるシマチヨとマルチヨこそが第1話でネクラとメガネを追跡していた正規軍の兵士2人組なのだった。続く」




