友達到来の芽妹の家(芽妹)
「たっだいまー!」
母さんの声だ……いつもより5割増しぐらいに威勢がいい。
「お、お邪魔しまーす。」
少し遅れて聞こえてきたのは、梨乃の声。来てほしいと願ったのは俺なのに、「梨乃が家に来た」ということが確定しただけでなんでだか少し恥ずかしかった。
「あ……芽妹。」
「よ、よぉ、梨乃。……とりあえず上がりなよ。」
「う、うん。お邪魔します。」
……まともに梨乃の顔を見て話すのはいつ以来だろう。いつも目を合わせないように意識していたから……それに、梨乃の態度もいつもと違う。いつも学校で話すみたいに話したいのに……
俺と梨乃は向かい合って座る。けれどもやっぱり、お互いに顔を合わせてはいない。
「ねぇねぇ、リノさん?」
俺達が黙って下を向いていると、ムースが梨乃に声をかけた。
ムースなりに気を遣ってくれているのかな。
「なんでしょうか……?」
「リノさんはメイのことスキデスノ?」
「!?」
「ちょ、ムース!」
そんなことはなかった。というか、いくらなんでも直球すぎるだろ……。
おかげで梨乃は、目を丸くして固まってしまった。
ど、どうしよう……。
「ムースちゃん。ちょっと手伝ってもらえる?」
「ワカリマシタワ。」
母さんに呼ばれて、ムースはキッチンへと消えた。
えーっと、えーっと……
「とりあえず俺の部屋行こうぜ!それから色々話そう、な?」
俺がそう言うと、梨乃はコクコクと何度もうなずいた。
それを確認してから、俺は梨乃の手を引っ張って速攻で自分の部屋へ入り、扉を閉めた。
「梨乃……ごめん急に。」
「ううん、むしろ嬉しかったよ。こんな風に誘ってくれるなんて。」
そう言った梨乃は、まっすぐとこっちを見た。
少し照れくさいけど……さっきみたいに顔を反らすほどじゃない。
自分の家に梨乃がいるという、この状況に慣れ始めたってことなのかな。
「……マジで?」
「マジ。ふふっ……」
突然梨乃が笑いだした。
何かおかしいところがあっただろうか。
「な、なんか変か?」
「いや、芽妹とちゃんと話すの久しぶりな気がして……嬉しくて。」
……梨乃も同じこと考えてたのか。
それが分かると同時に、なぜか頭が熱くなった。
「……芽妹、なんか顔赤くない?」
梨乃が不思議そうに尋ねてくる。
……見抜かれてしまったのか。ま、隠すつもりもなかったけどさ。
「そうかなぁ?ちょっと部屋が暑いとか?」
「確かに寒くはないけど……そこまで暑くもないよ?」
「えっと……そうか?」
……隠すつもりはなかったけど、なぜか誤魔化してしまった。
これ以上追及されても、なんて返せばいいのか浮かんでこないし、さっさと話題を変えてしまおう。
そう思った俺が切り出すより、梨乃の一手が速かった。
「もしかして、芽妹もおんなじこと考えてる……とか?」
……バレてる……いや、あてずっぽうかも。あ、でも……
「あれ?もしかして……逆……?」
「それは違う。嬉しいに決まってるだろ!今だって、やっと2人きりになれたんだぞ、嫌なもんか、むしろずっと待ってたんだ!」
考えるより先に言葉が出ていた。
……しかし、梨乃の反応はなく、部屋に流れる音が、消えた。
加えて僕も、しばらく固まっていたが、さっきのセリフがなんというかその、捉えようによっては……いや、事実だけども!
……なんて続ければいいんだろう。
「えへへ……」
沈黙を切り裂いたのは梨乃の漏れ出たような笑い声。
つられて俺も笑ってしまう。
「良かったぁ……最近、2人の時いっつも顔見てくれないから、嫌われたのかと思ってたんだよ?」
「ごめん……別にそういうわけじゃなかったんだけど。」
「でもさっきのセリフ……もしかして、梨乃のこと好きになってくれてたりするの?」
「そ、それは……」
もちろん、答えは1つに決まっているけど、改めて口に出すのは恥ずかしい。さっきのは勢いで出たようなもんだし……。
「なーんて。梨乃は好きだよ、芽妹のこと。」
「はっ!?」
「親友としても。」
「え、それって……」
追及しようとした俺の口に、梨乃の人差し指が当てられた。
「梨乃、お菓子食べたいな。少しお腹すいちゃった。」
そう言うと梨乃はそそくさと部屋を出ていった。
振り返る時の梨乃の横顔はなんとなく赤っぽく見えたけど、見間違えただけかもしれない。
もちろん、すぐ追いかけて問いただそうとしたのだけれど、なぜか足に力が入らず、立ち上がるのに時間がかかってしまった。




