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精霊ピエロと迷宮な日々  作者: なお☆プリン
カウントアップ:3
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凍える闇

粉々になった氷が地面に散らばり、月明かりを反射している。

そんな幻想的な風景の中に佇む影に対し、(かなめ)は声をかけた。


「なんで戻ってきたの?さっき逃げたくせに……」

「うるさいですね……戦略的撤退という言葉を知らないんですか?」


市長はぐるりと目を回した後、うんざりしたようにため息をついた。


「戦略的……あれが……?」

「……もういい!私にはもう後がないのだっ!」


要に対して市長が声を荒げると、その背後から大量に闇夜に紛れた煙──『闇』が噴出する。

かと思うと、その闇はすぐさま要と市長の2人を取り囲んでしまった。


「これは……」

「はははっ!今更気づいても遅いっ!私が先程不覚を取ったのは、あの氷の壁が思ったより分厚かったせいだ!あれさえなければ、逆に私の領域にできる!」


市長が声高らかに叫ぶと、要の足元からツタ状の闇が現れてその両手両足を拘束した。


「んっ……」

「さあ避けてみろっ!碌に動くこともできないその状態で!」


四方八方に広がっている煙の中から弾状に形作られた闇が現れ、要を目掛けて次々と撃ち出される。

──が、それらは全て要に着弾する前に凍りついて勢いを失い、ボトボトと音を立てて地面に落下した。


「なっ……貴様っ!」

「なんか、攻撃が雑になったね……」


要は自身の四肢に纏わりついていた闇を凍てつかせ砕いた。


ツタ(これ)も弱いし……」

「ぐっ……ならばっ!」


市長が右掌を要の頭部に向けると、そこから無数の闇の弾を撃ち出した。

その速度は先程のものより圧倒的に速い──だが、要は弾が自分の身体に当たる前に、即座に、姿勢を落とすと同時に氷で刀を創り出し両手で握った。


市長がそれを認識して弾道を下げる──よりも前に、要は地面を蹴って市長に向かって走り出す。


振り抜かれた要の刀が市長の首を飛ばした。



宙に舞う市長の首を逃がさんと、要が周辺の空間ごと凍らせようとした瞬間。

要の背後から襲来した闇の弾が左脇腹を貫く。

切り離された市長の身体が要に向かって発射したものだった。


要はすぐさま市長の身体を氷塊と化し砕いたが、その間に頭部だけだった市長は身体を再生させていた。


「ぐっ……」

「おやおや、痛そうですねぇ。血が出ているんじゃありませんか?やはり人間は脆いですねぇ~。」


先程までの余裕のなさとは打って変わった市長は、ニタニタと笑いながら要を煽った。

一方、あおりを受けた要は脇腹を押さえながらも、市長から視線を外していなかった。

──まだ、市長の身体の再生が完全には終わっていないのだ。

だが、周囲に広がる闇の煙から闇が噴き出し、それが欠損していた箇所を埋める形で直ちに市長は完全な状態となった。


「怖い怖い。そんな顔でこっちを見ないでください。」

「……やっぱり……」

「は?なんです?そんな小さい声では……っ!」


小さく呟いた要は市長を睨み付ける。

だがその表情にはどちらかというと笑みが浮かんでいた。


「何がおかしい?」

「……」

「何がおかしいっ!何を笑っているんだっ!」

「いや、脆いのは同じかなって……」


要はそういうと姿勢を正した。気が付けば先程まで流れ落ちていた血はすっかり止まっている。

それに気づいた市長は目を丸くして要に視線をやった。


「貴様……能力で?」

「教えない……」

「ならば……!」


市長がそう言って構えるより先に、要は自分たちを取り囲んでいた闇の煙に手を突っ込んだ。

次の瞬間、煙は一斉に凍りついた。


「なっ……貴様何をする!」


市長の問いかけには応えずに、要は氷塊を作り出すと先程まで煙だった氷に勢いよく衝突させる。

すぐさま大きな音を立てた氷の塊は──当然そこにあった闇と併せて──粉々になって消え去った。


「馬鹿な……まだそんな力が?」

「いや……これで決めるよ。」


要は氷の刀を構えた。

その姿から殺気を感じたか、市長が慌てて口を開く。


「私は!闇そのものだと言いましたよね⁉だから大本の人間が生きている限り不死身……」

「もういないでしょ、その人。」

「は。」

「生きているなら、さっきわざわざ周りの闇から吸収なんて面倒で時間かかるようなことしないでしょ……」

「貴様っ……ん、私はあなたと因縁はないと思いますが?それでも殺すと?」

「僕のこと殺そうとしてるじゃん……」

「じゃ、じゃあ、あなたにもう手を出しませんから、それでどうです?」

「僕の友達に手を出したし……」

「……誰のことでしょう?」

「もういいよ。」


要は今まで市長に放ったどの言葉よりも冷たく淡々と告げると、市長に向かって跳ぶ。

市長もそれを見て説得は無理と判断し、即座に両拳に闇を纏った。


振り抜かれた氷の刀を右の手の甲で受け止めた市長は、一瞬動きの止まった要の顔面に向かって左ストレートを放つ。

その拳が自分に届くより早く、すぐさま要は市長の右足を払う。

市長が体勢を崩すと、先程まで受け止めていた刀が滑り抜けた。


「ぐっ……」


市長の目に刀を構えなおした要が映る。

このままではまた斬られる──ことはない。

市長もすぐに体制を戻し受け止める準備を整える。

今度は確実にカウンターを叩き込む──そう見せかけて、最後の闇を振り絞って作った弾丸をその眉間に撃ち込むために。

自分の口の中で生成したこの弾なら気付かれない、確実に当てられると。

思わず市長の顔に笑みが浮かぶ。

それを見た要は──仮にこいつが何を考えていたとしても──刀を振る手を緩めるわけがなかった。



「市長。」



殺し合いの最中。

仮にこれが、たまたまここにやってきた一般人の声なら彼はそちらに意識が向けることはなかっただろう。

目の前の敵を──要を殺してから考えればいい。どうせ私からは逃げられないのだから、と。


だが違う。

自分が殺したはずの人間の声がした。


反射的に、ただそちらを見てしまった。

自分に殺意を向けている者が目の前にいる状況で。


────


次の瞬間、市長は首を失った自身の身体が──それはそれは綺麗に切断されたその部分から凍りついていくのを目にしていた。


ボトリ、と鈍い音を立てて頭が地に落ちる頃、身体はすっかり氷の塊と化していた。


すぐさま要はその氷塊を砕いた。

その様子を見てようやく、市長は敵が誰だったのかを思い出す。

即、口を開き弾丸────ごと、要によって切り捨てられた。


「あ……ぁあ……」


要はもはや言葉を発することもできなくなった(それ)を一瞥すると、手に持った刀で細切れにする。

その闇片は切られたそばから氷の粉となって──全て消滅した。



それを見届けた後、要は忘れていた痛みを思い出すように脇腹を押さえて倒れこんでしまった。


「あ……っ……」

「お、おい!無理すんな!手当すっから動くなよ!」

「……あり……がとう……」


要が駆け寄ってきた真昼に声をかける。


「いや、礼を言うのはこっちだろ。助けてもらったんだし……」

「いや……真昼くんが来てくれて、あいつ……よそ見してたから……」

「……そうか。」


短く答えると真昼は慣れた手つきで手当てを続ける。



やがてそれを終えた2人は、まだ月明かりに照らされる研究所の前にいた。


「あいつ……あの反応したってことは、俺は死んでると思われてたってことだよな?」

「多分ね……それに、『後がない』って言ってたし、仲間もいるんじゃないかな……」

「……あーっ、どうすっかなぁ……隠れる場所なんてねーよなぁ……」

「とりあえず、報告もかねて灯太くんのとこに行こう……」

「……今はそれが丸いか。」


そう言って2人の男達は松原灯太がいる学校を目指して歩き出した。

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