研究所……というか氷の方がでかくないか? (真昼)
「なんでここに来たの……」
研究所につくなり要が冷たく言い放ってきた。
ただ、相変わらずのローテンションだが、このセリフ自体は俺を気遣って言ってくれたものだろう。
「まー、そう言うなよ。俺なりに考えたんだ。」
「何を……?」
「要が凍らせてた闇の爆弾みたいなのあったろ?あれを仕掛けたやつ……なんとなく心当たりがある奴がいてさ。」
「……市長でしょ?」
「お、おう。よく分かったな。」
なんだ、こいつ気づいてたのか?
……いや、あの状況で真っ先に疑うべきは確かに市長かもしれないが。
「あいつとさっきまで戦ってたんだ……」
「……マジか。…………殺したのか?」
俺はあくまでシンプルに訊いた。
「いや……逃げられた……」
「……あんだけ派手にやって?あいつ、よく要から逃げられたな。」
窓の外に見える氷塊を改めて見る。
……ここまでの規模の氷出して逃げられた?いや、違うな。
氷の上の方が不自然に溶けてる……?
「他に誰か来たのか?」
「姿は見てないけどね……」
要がため息をつく。
つまり、市長1人だけが敵ってわけじゃないのか?
だとしたら……危険なのは俺だけじゃねーよな……。
「灯太達……他の奴らが巻き込まれてる可能性あるか?」
「多分、仮に今は巻き込まれてなくても時間の問題だと思う……」
なんてこった。
柄闇家を筆頭にまた『闇』が動き出すってのか?
いや、もう動いてるのか?
「ただ、どっちにしろ俺は戦闘面じゃ役に立てそうもないしな……っても殺されそうになった時点で俺が無事でいられる場所無くね⁉」
自分で言っといてなんだが、どうすりゃいいんだ俺は⁉
自分でも分かるぐらい狼狽えている俺をたしなめるように要が言葉を発した。
「いや、口ぶり的に市長は君のことを殺したと思っていると思う……」
「ってことは、尚更俺が姿を現したらまずいよな。」
「そうだね……」
「いっそ国外逃亡でもするか⁉ハハっ……」
俺の言葉を最後に俺達の間に沈黙が流れる。
ふと要に目をやると、目を丸くしていた。
「えっ、そんな黙る要素あったか?」
「冗談でも駄目だよ、市外に出たら『死刑』なんだよ……?」
「っ……」
俺は言葉を失う。
それは要に対して……というのもあったが、それ以上にその発言内容に対して思うところがあったからだ。
その『常識』はほんの少し前までの俺の頭の中に確かに存在していたものなのだ。
「あー……すまん。なんか、熱くなってた……かも?ハハハー……」
「……?」
俺はこの話題を適当に切り上げる。
……もう1つ確認したいことがあるのだ。
「要さ……これ見てなんか思うこととかあるか?」
俺はそう言って、名刺ケースから何枚かの名刺を取り出して要に見せた。
その紙切れには全て『市長』と書いてある。
「……全部市長の名刺でしょ……?」
「それはそうなんだけど……例えばほらこの名前のあたりとか!」
「……書体がゴシックから明朝になったとか……?」
「おーよく気付いたな!っていや逆になんでそんな細かいところ気づくんだよ!」
書体が変わっているのは本当のことではあるんだが……最初にそこに目を付けたということは……
やっぱり、名前がないのに違和感を抱いていないのか。
「あーありがとう。もう大丈夫だ。」
「うん……?」
要が不思議そうに頷いた。
どういうことだ?俺が違和感に気づいたのも今日のことだ。
それまでは特におかしいとも思っていなかった。
一体何が起きてるんだ……?
俺が再度考えこもうとした時。
外でガラスが割れる音──違う!これは……
俺が窓に近づこうとするのを要が止めた。
「研究所から出ないで……」
「……おう。」
「あいつ、戻ってきたみたい……」
そう言い残して要は研究所の外に出た。
ふと窓の外に目をやると、あれだけ研究所の外で存在感を放っていた氷塊が消えている。
要の言う『あいつ』ってのはつまり……俺は手に持ったままの名刺に目をやった。




