48時間待機、急遽予定変更 (コウ)
遠くで何かが割れるような音がした。
この感じだと研究所の外……だろうか?
「行くな、コウ。」
私が部屋を出ようとすると、幻に呼び止められた。
「外には要の氷があったろ。今のは多分それが割れた音……ただ、あいつが無意味にそんなことするとは思えねえ。」
「……市長が戻ってきた?」
「あるいは仲間を連れて戻ってきたか、だな。」
幻の返答に対して夜紅が頭を押さえながらため息をついた。
「さっきと同じことも……できなくはないけど。」
「いや、止めておけ。研究所にいるってことは知らせない方がいい。」
「そうね……まぁ、バレてるかもしれないけど。」
「それよりも……仁。やむを得ない、早急に起動させよう。」
「……それがね、幻くん。」
先に1人で装置をいじっていた仁がモニターとにらめっこしながら返事をした。
「精霊界側のやつが大分前から起動済みみたい。」
「は?何でだよ……」
幻が仁の見ていた画面をのぞき込む。
その後何かキーボードを操作していたけれど……
「これ前に使ったときからか?あの時って確か……確認したいことあるから電源つけっぱでって言われて、『電源は後で消しとくねー』みたいなこと言ってたのは……余地……はぁ。」
「ヨチ?」
私は聞こえてきた単語を思わずオウム返しした。
幻のセリフ的に人の名前なのかな?
「あぁ。俺達が最初に向こう行った時に色々助けてくれた人だ。後で紹介する。」
「ちょっと変わってるけど、いい人だよ。」
仁が言うなら……まあ大丈夫だろうか。
「……向こうが起動済みなら遠隔起動とか受け側の安定化の必要ないから5分もあれば繋げられるし……要には悪いが、状況が状況だ。お前ら、悪いがすぐ出発するぞ。俺達は装置繋げちまうから、準備できたやつ一応監視カメラ確認してくれるか?」
「それなら私のPCでやるっすよ。もういつでも出発できるっすから。」
幻の言葉に浮幸が手を挙げて応える。
「なら私も一緒に見るよ。もうメッセージは送ったし。」
「私も準備終わってるし……一緒に確認するわ。」
「いつでも泊まれるように、みんな研究所に色々置いてたっすからね。じゃあ3人で一緒に見るっすよ!」
私と夜紅は準備を終えたカバンを手に持って、監視カメラの映像の再生を始めた浮幸のもとに向かった。
映し出された映像は……ちょうど研究所から出てきた要さんが、市長と出会ったところのようだった。
「研究所内にいるのは……真昼ね。」
「夜紅の知り合いだっけ?」
「そうよ。ただ、今ここに……市長がこの状態のこの場所にいるってことは、彼も何かあったみたいね……。」
夜紅が私の問いかけに答えたあたりで画面に映っていた要さんと市長が真っ黒な煙に包まれた。
「うわっこれじゃ何も見えないっす……」
「戦闘中でしょうし、仕方ないわね。」
私達3人はそれぞれにため息をついた。
「コウ、夜紅、浮幸!準備できたから出発しよう。」
呼びかけてきた幻の傍らの空間には黒く光った穴が開いていた。
これが移動用のワープホールみたいなものなのかな?
「それで……要さんはどうするの?」
「メッセージは残しておいた。『俺達が通ったら装置は一旦破壊するから、護衛は不要』……ってな。」
「装置壊すってことは……二度とここには戻れないってこと?」
「いや、あくまでこの装置の目的は空間を繋げてその接続を安定させることにある。空間を繋ぐ理論自体は俺と仁で組み上げてるし、材料集めんのはちと大変かもだが……時間かければもう一回作るの自体は可能だ。」
「そっか……なら一旦それを信じるよ。」
私はそう返事した。
一方、幻は私の矢継ぎ早な質問を捌きながら自分の荷物をまとめていた。
器用なやつ……。
「よし。じゃあ俺について来てくれ。仁、自己破壊プログラムの起動よろしくな。」
「オッケー。」
仁の返事に頷いた幻が通り抜けた後に浮幸、夜紅が続いた。
みんなにメッセージは残したし……大丈夫だよね?
「多分問題ないけど……早く行かないとはぐれちゃうかもよ?」
「わ!そうだよね、ごめん、すぐ行くよ!」
少しだけ笑みを浮かべながら促してきた仁に謝りながら、私も黒い穴に入る。
少しだけ、今までいた世界に名残惜しさを覚えながら。




