死ぬか不老か選ぼうか(コウ)
「ごめん……」
要さんは、研究所に入ってくるなり謝ってきた。
「どうして謝る必要があるのよ。」
「取り逃がした……」
そう言った彼は、私達に向けていた視線を外す。
「お前が?」
「というか、要くんから逃げられたんだ……。」
幻と仁が目を丸くしているあたり、よっぽどのことなのかな。
「邪魔でも入ったか?」
幻が冗談っぽく訊くと、要さんは小さく頷く。
「マジで?」
「自分で訊いたくせになんで驚いてんのよ……。」
夜紅がその様子を見て呆れたように額を押さえた。
……よかった。とりあえず3人とも、怪我の方はもう大丈夫そう。
「で、誰が邪魔しに来たんだ?」
「分からない、けど……」
「けど?」
「柄闇家、じゃないかな……」
「その根拠は?」
要さんの推測に、間を置かず夜紅が食いかかる。
「市長が闇そのものだったから……」
要さんの言葉に返すものが見つからず、私達は黙ってしまった。
それを察してか、要さんはさらに続ける。
「それと多分、人間の市長はもういない……」
「ちょ、ちょっと待て。まず、闇そのものってのはどうしてわかったんだ?」
動揺しながらも状況を整理しようとする幻は、なんだかんだ言ってもリーダーに向いているんだなぁ……じゃなくて。
「闇を操る人間だったなら、腕や頭を切り落としても瞬時に元通りには……ならないはずでしょ……?」
「それ……市長に対してやったってことか?」
幻の問いかけに対して、要さんが静かに頷いた。
……さっき仁と幻が驚いていた理由が、少しわかった気がする。
「だってそれ以前に敵だし……」
「確かに、向こうがこっちを殺す気なら、自分も殺す気でかからないと勝てないかもだけど……。」
「じゃあ、人間の市長がいないってのはどういうことだ?」
次の話題に切り替えようとする幻に対して、要さんはまた小さく頷いてから答えた。
「さっきの戦い、あいつは途中で闇を飛ばすのを止めて、直殴りするようになったんだ……それまでの戦法で僕の飛ばしていた氷を十分相殺できていたのに、わざわざ……」
「その方が効率が良かったとか?」
仁が首をかしげながら放った言葉を、要さんは首を振って否定する。
「むしろ逆、何発か被弾するようになってた……」
「うーん……攻撃できる能力、逃げるのに使える能力、どっちの能力を持っていたとしても、そんなぎりぎりになっても使わない理由はないし……これで、能力者っていう可能性もさらに低くなったわけか。」
「それで、闇の供給元がいないから、無限に闇を使えないんじゃないかと思ったんだ……」
前に夜紅から聞いた話だと確か……能力は精霊がいる限り無限に使えて、精霊が死んでしまっても能力は使えるけど、ある程度使ったら力を溜める必要があるんだとか。
私は能力とか持ってないからその感覚はよく分からないけど、闇もそれと似たような感じってことかな?
「私たちにとっての精霊みたいね。」
「まさしくその通りだと思う……」
「だとしたら、逃げた市長はどこかに隠れて回復しようとしてるはずだよな……。」
そう言った幻は額に手を当てて、座りこんでしまった。
……隠れている場所なんて分かったもんじゃないし、私と浮幸はともかく他の3人は顔も見られちゃってるし……下手に外を出歩いて市長と出会うのも危険、だよね。
「俺たち5人はしばらくの間、大人しくしているしかないか……。」
「でも、隠れる場所なんてある?」
夜紅が不安そうに尋ねると、またしても幻は黙り込んでしまった。
というか、彼以外のみんなも言葉を発さない。解決策が見つからないのは誰も同じってことかな……。
そのまま5分くらい経って、とうとう口を開いたのはやっぱり幻だった。
「……やむを得ない。本当に申し訳ないんだけど、要。あと48時間、ここに居てくれないか?」
「僕は構わないけど……」
「48時間って……まさか!幻くんは4人を向こうに連れて行く気なの!?」
全員の視線が仁に向く。
彼がこんなに声を荒げるのは珍しいな。
「なんだ、嫌なのか?」
「だって……」
「勿論、希望は聞くつもりだ。」
そう言った幻はこちらを向くと、私達4人を流し目で見る。
……さっきの会話からして「向こう」っていうのは、精霊界のことだろう。でも、あそこに行ったことがあるのは幻と仁だけ。
そもそも幻は、初めてこっちに戻ってきた時に「精霊界と繋がっていることは他の人間には言っちゃいけない、俺と仁以外が精霊界に行くのもダメだ」って言ってたから……私からしても、今の彼の考えはよく分からないんだけど。
「時間が経てば、またこの場所が危険になるだろう。だが、この街……この世界にいる限り、命の危機は消えないだろう。なら、少しでも死ぬ可能性を遠ざけたいだろう?」
「……そりゃそうだけど。でも、そこにいったらあなた達みたいに年を取らなくなるんでしょう?」
「まぁ、な。」
「それは少し引っかかるけど……まだ死にたくないし、私は行かせてもらうわ。」
目を逸らして答えた幻に、夜紅が詰め寄って決断を口にした。
仁も諦めたのか、それとも受け入れたのか、私と浮幸の方を見て首をかしげた。まるで、君たちはどうするの?とでも言うように。
「私も行くっす。まだやりたいこと、いっぱいあるし……こんなところで死ねないっすから。」
「私も行く。お父さんやお母さん……それにユウの身に何かあってからじゃ遅いもん。」
浮幸に同調するような形で、私も覚悟を決めた。
すると、幻は私達の後ろに視線をやって、
「要は、どうするんだ?」
と訊いた。しかし、要さんはこちらに向き直ると、
「僕には……この世界でまだやらなきゃいけないことがあるから。だから、行かない。」
今までの彼の台詞の中で、一番はっきりとした声で言い放った。
「……そうか。じゃああと2日間の護衛だけ頼む。」
「もちろん……」
幻はそれを伝えると、あの黒いタマがある部屋へと歩いていった。
……あれを起動させるのに、48時間必要ってことか。
「とりあえずお腹すいたし……ご飯食べましょ。ピザ、たくさん余ってたわよね。」
「そういうだろうと思って、持ってきたよ。」
仁が大量のピザをテーブルに置く。
それを見た要さんは、少し驚いた様子だったけど、
「僕も少し貰おうかな……」
そう言って、椅子に腰かけた。
ひとまず、休憩。
……そうだ。しばらく帰れないこと、お母さん達に伝えておかないと。




