花園に近づく男 (灯太)
既に星や月が煌めいている、そんな夜。
俺が職員室で帰り支度をしていると、水森、鳥越、石町のそれぞれの家から、子供達がまだ帰ってきていない、という連絡があった。しかも、3人共『学校に行ってくる』と残していたみたいだ。
でも、今日の校内でその3人には会っていない。
……あの3人は夜遊びとかするタイプじゃないと思うし、なにより今は共通点がある。それゆえ、精霊絡みのことだとは思うが……。
ただ、スピカの連絡もつかないのが気にかかる。
とりあえず、俺の能力の出番だな。
一応、この能力にも効果範囲はあるっぽいが、それでもN市全域は見れるレベルなので、今さら心配することではないだろう。
さて、3人はどこに……
どこにも、いない。
そんな馬鹿な。360度見回しても反応が無いってことは、範囲外にいるか……死んでいるか。
……だが、学校に行くと残しているのに、市外へ行くか?
いや、普通なら無いだろう。市外に出るのにはそれなりの理由がある上で、関所も通らなきゃいけないのに……関所?
いや、そんな面倒なことをするとは思えない。
……だが、可能性が高いとはいえ、後者であるとは考えたくない。
とりあえず、今学校にいる人間に聞いてみよう。確か保健室に進達が泊まっているはずだし、そこに路野江もいたよな。
保健室の扉をノックすると、1秒足らずで開かれた。
「はや……」
「あれ?灯太じゃん。何?乙女の花園を汚しに来たの~?」
「んな訳あるか。君達に訊きたいことがあって来たんだ。」
路野江のイジリは軽く流し、保健室の中にいるであろう4人にも聞こえるよう声を大きめにして言った。
すると柄闇がカーテンから顔だけ出して、こっちを見てくる。
「誰……って、先生か。何の用だ?我は今忙しいんだ。」
そう言って、彼女はこちらに向かって来たが……
「いや……ゲームしてただけだろ。」
「……むぅ。」
俺のツッコミに対して、柄闇は頬を膨らませた。
……せめてその手に持ったトランプがなけりゃあ、すぐにはバレなかっただろうに。
「どうしたんですかー?」
「……もう少しで私の勝ちだったのに……あ、松原先生だっけ?どうしてここに?」
玉と栞……だったか、その2人も姿を現した。
しかし……カーテンの向こう、もう1人いるはずの彼女の気配はない。
「なぁ……進はいないのか?」
「呼んだ?」
突然、背後から返事が返ってくる。
だが……聞き慣れたその声に驚くのが、俺だ。
「驚かすな!ビックリしただろうが!」
「ごめん……そんなつもりじゃ……」
後ろに向き直ると、そこにはしょんぼりした進が立っていた。
……怒った訳ではないんだが、驚きのあまり語気が強くなってしまったようだ。
「い、いや、俺も強く言いすぎた。すまん。」
「……大丈夫。それより、何かあったの?灯太の方からここに来るなんて……。」
「それなんだが……」
俺は再び皆の方を向いた。
「えーっと……水森ユウ、鳥越亮太、石町雫。この3人を、今日見た人はいないか?」
「なっ、何かあったのか!?」
柄闇が食い気味に訊いてくる。
しかし……下手なことを言っても、無駄に不安を煽るだけだしな……。
「ま、その……なんだ……あの……な。」
「……その反応!やっぱり何かあったんだな!」
上手いごまかしは浮かばず、それどころか柄闇がさらに食いかかってくるばかりだ。
……もう、正直に話すしかないか……。
「私、見たわよ。昼間、学校でね。」
路野江が手を上げ、はっきりとそう言った。
さらに彼女は続ける。
「そっちの3人は散歩に行ってたからいなかったけど……確か、私が進と一緒にいる時だったよね?」
「……!はい。教頭先生に頼まれて教室から荷物を運んでいた時だったと。時間帯はバラバラだったけど……みんな、忘れ物を取りに来たって言ってましたよね。」
進の台詞に、何度も頷く路野江。
そして、何か言いたげな柄闇の方を向いたかと思うと、
「柄闇さん。こう見えても、松原先生は一応先生だからね。色々な人から相談も受けてるの。あの3人だって……ね?」
そう言って、こちらにウインクしてきた。
もしかして、この2人は──
「あぁ。やっぱりプライバシーとかあるからさ。言っちゃいけないとは思ったんだけど……不安にさせてごめんな。すげーいい答えが出せて思わず、今日伝えなきゃと思っちゃったんだけど、よく考えたらこんな時間だし……後日ちゃんと本人たちの家に行って話してくるよ。」
「そ、そうか。誰にだって言いたくないことはある……深追いしすぎるのも良くないものな。先生、しつこく訊いてすまない。」
「いやいや!柄闇が謝る必要はないよ。じゃ、おやすみ。」
そっと保健室の扉を閉める。
……手がかり無し。
ますます分からなくなった俺は、そのまま職員室に向かう。
どうすればいいのか分からず、とりあえず椅子に座った時だ。
職員室の扉が急に開き、3人の人影が入ってくる。
「ねぇ灯太。どういうつもり?」
「あの3人に……何かあったんだよね?」
「ンフっ、路野江先生に呼ばれたので来ましたが……何かあったんですか?」
……路野江と進、そして鬼見だった。




