望まぬ来客(コウ)
「おかしいですね……雲野さんも華晴さんもいるのに……ここは囮だったんでしょうか。」
扉の向こうから少しこもった呑気な声が聞こえてくる。
これは……放送やなんかで聞き慣れた、市長の声。
すでに幻と仁の声は聞こえてこない辺り、2人はやられてしまったということか。
私達2人がいるこの部屋は数分前まで5人がピザを食べていた場所。
しかし、コップもお皿も今は2人分しか出されていない。あの2人が市長と話をするため、彼に存在が知られていない私達は隠れるよう言われたのだけれど……。
「ちょっと。」
夜紅の声だ。同じく扉の向こうから聞こえてくる。
「んん?え~っと誰でしたっけ……というか3人も居ましたっけ。それより、なんでそんな怒ったような顔をしているんです?」
「あなたが裏口の扉をぶち破って入ってきたからね。」
「……それだけですか?」
「……あなたがお探しのものは、そこに転がってる2人がすでに別の研究所に移動してくれたわ。」
「無視ですか……そうですか……困りましたね……真昼くんはもういませんし、しらみ潰しに全ての研究所を回ろうものなら、その間にあなたに動かされてしまいますし……。」
2人の声に耳を傾けていた私は、浮幸に肩を叩かれたことで現実に引き戻される。と同時に扉の隙間からこの部屋へと、白い煙が侵入してきた。
私は思わず、扉と反対側の壁に背中が当たるくらいまで下がったけれど、浮幸は少しの間だけ扉に耳を当てた後、私の元に歩いてきて、
「これ、やっこの霧っすよね?」
と言ってきた。
そんなこと分かってる、そう返そうとした私が浮幸の方に目をやった時だ。さっきまで耳をくっつけていた扉が、大きな音を響かせる。何かが向こう側から強く当たったような音。
「……!」
それだけで察してしまった。と同時に、浮幸が扉に向かおうと体の向きを変えたので、急いで彼女の手首を掴んで引き留める。すると、彼女は私の顔を見て冷静になったのか、手にかかっていた力が抜けた。
……そして次に扉の向こうから聞こえてきたのは、あの呑気な声。
「……こんな能力で何をしようとしたんですかね……おや、もうダウンですか?骨のない人達でしたねぇ……。」
当然声には出していないが、浮幸の手に力が入っていくのが伝わってくるけれど、それに比例するように、私も手に力を入れる。
「しかし……参りましたね。今、あなた方に死なれては困りますが、このままにしておいたら、逃げますよね?」
「……」
「うめき声じゃ分かりませんけど……絶対逃げようとするでしょうし、適当に閉じ込めておいてあげましょう。」
そんな市長の声が聞こえたかと思うと、何かを引きずるような音が途切れ途切れに何回か続いた。
そして、3回ほど手を叩いたような音がした後、足音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
私と浮幸はそれを確認して、すぐさま部屋を飛び出す。
早く3人を見つけないと……!




